写真家 佐内正史さんの新写真集刊行特別インタビュー

『写真がいってかえってきた』と、佐内さんがいって食べたもの


RiCE.pressRiCE.press  / Dec 11, 2024

1997年に出版された『生きている』でのデビュー以来、数々の写真集を出版し、RiCE本誌でも「お〜いお茶」の写真を連載で撮り下ろしてくださっている佐内さん。過去にはラーメンとカレーのみを被写体にした『ラレー』など食に対しても熱い眼差しを向ける。『静岡詩』以来、約1年ぶりとなる写真集『写真がいってかえってきた』が1118日より発売。「食べ物の写真はほとんどないけれど、食べ物と関係があると思うんだよね」と話す佐内さんに、撮影や制作のお話から、撮影地で食べた美味しいものを尋ねるべくインタビューを行った。

佐内正史|Masafumi Sanai
1968年静岡県静岡市生まれ。1995年に第12回キヤノン写真新世紀優秀賞を受賞し、1997年『生きている』(青幻舎)でデビュー。2003年に写真集『MAP』(佐内正史写真事務所)で第28回木村伊兵衛写真賞を受賞。2008年に自主写真レーベル「対照」を立ち上げ、写真集制作にも力を注いでいる。20241118日に最新作『写真がいってかえってきた』が発売。

——『写真がいってかえってきた』は形やたたずまいも含めて今までありそうでなかったふうに感じましたが、どういった経緯で制作されたのですか?

遠景だけの写真でまとめたいなって思ったんだよね。それは『写真の体毛』(2022年 刊行)を制作しているときにふと浮かんだ。

——遠景の写真について、もう少し聞かせてください。

はじめは、遠景っていうのは被写体との距離があったり、ヒキの風景の写真なのかなって考えていた。でも写真をプリントしはじめると、ヨリヒキは関係無くて、「すごい遠くから」とか「薄暗いところから」やってくるものを遠景っていうんだなと思うようになった。部屋のネガ箱やベタ箱に入っているところから、プリント作業中は部屋の明るい机の上に戻ってくる。「写真がどこかにいってかえってきた」ように感じてタイトルを決めた。

——タイトルはいつ頃考えたのですか?

全体の半分くらいをプリントしたときかな。たぶん、60枚か70枚くらいプリントしたとき。撮影してずっと箱の中にあった曖昧なものが、机の上にかえってくる。これってすごく明るいこと、あたたかいことだなと思った。かたい写真が重くなく、速いスピード感でめくれる。

——プリント作業中に感じたことがタイトルにもなっているのですね。撮影中もそういったテーマ性を意識されているのですか?

撮影してるときは考えてない。できあがった写真集を見て、写真の中へ。そういう本になった。だけど、それは今振り返ってそう感じているだけなんだよね。写真集をつくっているときは没頭していて、それが写真集になってる。

——もともとある完成図に近づけるということではないんですね。

それはずっとそう。写真集はいつも写真をプリントした順番で構成するのだけれど、今回は大阪で撮影した写真を3年前ぐらいにプリントしはじめて、そこから今年の10月に最後のプリントをした。

——プリントした順序でそのまま構成される作り方は珍しいように思います。そこに何か意図があるのでしょうか?

 意図はない。写真集ができてから考える。

——写真集に載っているのはどんな写真が多いのでしょうか?

「日常にあまりない日」「緊張感のある日」の写真が多い。緊張を肯定しているのだと思う。保坂さんの巻末のエッセイにも通じている。

——佐内さんの写真集で、誰かがエッセイを書くということは珍しいかと思いますが、なぜ今回は小説家の保坂和志さんにお願いしたのですか?

20年前くらいに保坂さんが「佐内君の写真のことをいつか書いてみたい」と言っていたのを覚えていて、それがきっかけ。猫と人間もそうだし、人間と人間も何か1つの同じ風景を一緒に見ることができるんだ、ということを保坂さんは書いたんだと思う。人と人が一緒に街を歩いていても同じものを見れないけど、写真を介すことで共通の景色を見ることができる。保坂さんが書いてくれたのは、そういうことなんだなと思う。

 

美味しいものを食べると、良い写真が撮れる

——インタビュー前にチラッと写真とごはんの関係性についてお話されていましたが、具体的にどのような関係があるのでしょうか?

「緊張感のある日」でもやっぱりごはんは食べるんだよね。写真集は大阪の写真からはじまるんだけど、友だちのミーから「大阪のうどんはどれも美味しい」って聞いて、うどん屋さんに入った。普通のきつねうどんを頼んだんだけど、本当にうまかった。めちゃくちゃうまかった。出汁がうまかった。

——シンプルですけど、絶対に美味しいタイプのうどんですね。写真としてもものすごく素敵です。

割り箸が山になっていていい。美味しいものを食べた後ってそのお店の前の道がいい。写真が撮れる。角曲がると撮れなくなったりする。変わるんだよね。

京都で食べたのは、[御ちまき司 川端道喜]の水仙粽(すいせんちまき)。笹に包まれている。開けたら超透明で。めちゃくちゃ暑い日だったから頭もぼーっとしてたけど、齧(かじ)ったら視界が透きとおった。

——透明感があって食感も気になりますね。

今まで食べたなかで一番ぷるんぷるん。歴史も感じたし、人がつくったものは凄みがある。車の中で食べてたら、粽が自分を遠くに連れていった。風景も遠くまで見えて、鉄橋の電車もよく見えて、撮影が進んだ。写真の遠景につながっていく。

あと[まえしろ]。おしぼりから撮っていて、その次におしぼりとビールの写真。はじまりから美味しい。だし巻き卵頼んで天ぷらを注文したら、ものすごくおいしそうな天ぷらを揚げる音が聞こえてきて最高だった。

——これまた美味しそうですね。塩とレモンが添えられているだけでタレなどはないですね。

塩をちょっとかけるだけで、あぁおいしい。今食べたい。

福岡では、[文治]に3日連続で行った。近所に欲しい。ゴマサバがうまい。目玉焼きもおでんもうまい。大根ともつとニラ入りの卵焼き。本当にうまいしかない。ごはんは一期一会。

 

 

12月12日(木)より[book obscura]にて
写真展『写真がいってかえってきた』が開催。
詳細は下記参考。 

 

『写真がいってかえってきた』
定価:3,850円(税込)
写真集購入ページ

写真展『写真がいってかえってきた』
場所:book obscura
期間:20241212() – 2025120()
営業時間:12:00-19:00
定休日:火曜・水曜日
※2024年12月27日(水)~2025年1月3日(金)まで、店舗・オンラインストアともに年末年始休業。

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