平松洋子が誘う 立ち食いそばの世界

コムアイ × 平松洋子


RiCE.pressRiCE.press  / Jun 28, 2019

昨年11月に『そばですよ 立ちそばの世界』という書籍が出版された。都内の個人経営店の立ち食いそば 26 軒のそばの味だけでなく、店主の人柄や街との関係性などそれぞれのお店のパーソナルな部分にも焦点をあて取材された食エッセイであり、珠玉の一冊だ。今回は、同書籍の著者である平松洋子さんが、水曜日のカンパネラのメンバーであり、女優やモデルとしても活躍しているコムアイさんを立ち食いそばの世界へご招待。取材でお伺いしたのは、平松さんも書籍内で紹介されている秋葉原の立ち食いそば [ 川一 ]。常連さんの中に混ざって、お二人でそばを啜りつつ、立ち食いそばについて語っていただいた。

平松  上にお品書きが書いてあるのでお先に選んでください。
(2人でお品書きを見ながら)

頭上のお品書きを見上げるコムアイ。
背後にも少し見えているが、手書きには味がある。

コムアイ  安いなぁ。

平松  立ち食いそばは安くてありがたいですよね。
(常連さんに向けて)何にしました?

常連  肉そばに卵を入れた「肉たま」。肉と卵を一緒に煮ちゃうんですよね。浅草橋界隈で一番好きな肉そばです。

店主  肉たまそばに、ごぼうも入れる人がいるんだよ。

コムアイ じゃあ私もそれで!


店主と楽しそうに言葉を交わす2人。この距離感の近さも立ち食いそばならでは。

――平松さんが立ち食いそばに行き始めたのはいつ頃だったんですか?

平松 6、7年くらい前です。20代の時は立ち食いそばが、男の人の居場所のような印象があったのでなかなか行けなかったんですよね。やっぱり立ち食いそばに行くと男の人たちは女の目を一切気にしないでいられるというか。人目を気にせず食べられる牙城みたいな意識が強かったと思うんです。だから、ハードルが高かった。そのまま30代、 40代を過ごしたんだけど。

コムアイ えー!そうなんですね。

平松 コムアイさんは、そばはお好きですか?

コムアイ 好きです!24時間開いている立ち食いそばに行って、夜遊びした後にそのまま朝ごはんとして寝る前に食べたり。

平松 あぁ、確かにそういう時にお蕎麦はちょうどいいかもしれないですね。飲んだあとは、お出汁がすごく美味しく感じますよね。

コムアイ そうですね。そういう食べたい時にいつでも入れるっていうのも私の中ではすごく大事で。

平松 通しでやってるおそば屋さんもありがたいですよね。救われる時がある。

コムアイ 私みたいに決まった時間で働いてない人にとっては救いですね。

(目の前におそばが出される)

コムアイ すごい! お肉もごぼうもたくさん入っててデラックス!

平松 伸びちゃうのでどんどん食べてくださいね。

コムアイ そうですね。ではお先にいただきます。 ……めっちゃうまい!

店主 肉そばのお肉は、いつも買ってる浅草橋の肉屋さんじゃないとダメなんだよね。

コムアイ そうなんですか。本当に美味しい!私、お肉の脂身って普段は苦手なんですけど、これはすごく美味しいです。脂が美味しいっていうのは私の人生の中で発見ですね!

平松 大絶賛ですね(笑)。じゃあ私も、肉そばでお願いします!


終始「美味しい!」と感嘆の声をあげていたコムアイ。取材が終わる頃には「ここの近くに引っ越したい!(笑)」とまで。

コムアイ  ごぼうの天ぷらも肉厚ですね。(天ぷらの)衣も飲み込んだあともしっかりした食感があって美味しいです。

平松  衣もおそばの味のうちですもんね。つゆは飲みました?卵の黄身と混ざると美味しいですよ。

コムアイ  (つゆを飲んで)美味しい!

平松  つゆって濃いめだったり、甘めだったり人それぞれに基準があるじゃないですか。このおつゆはコムアイさんにとってどんな感じ?

コムアイ う〜ん。しょっぱい中に甘みもある。

平松  キレがいいですよね。

店主  甘みの強いおつゆはかえしを作った時に砂糖がベ タベタしてしまうので。だから砂糖を少なめにしてるんですよね。

コムアイ  そうなんだ。

平松  黄身が混ざってないつゆも飲んでみると印象が違いますよ。

コムアイ  (つゆだけを飲んで)全然違う味がする!

アットホームな雰囲気のなか立ち食いそばの魅力について語る平松とコムアイ

店主  つゆだけの時とそばの入っている時の味わいって全然違うんだよね。肉そばだと、肉の脂とかも染み込んでるから。

コムアイ  元々はこんなにしょっぱいんですね。そばで随分薄まるんだなぁ。

平松  そばが入ると味わいが丸くなりますよね。

店主 つゆだけの状態で濃さがちょうどいい時は、そばを入れちゃうと逆にボケた味になっちゃうんだよね。

平松   やっぱり結局、おそばは全体のバランスですよね。

コムアイ  ここは入った瞬間からお出汁が空気に染み込んでるなって思いました。空気も味の一つのように思っていて。

平松 確かにそうですね。コムアイさんって感覚的でちょっと動物っぽい。今の自分を例えるとどんな動物ですか?

コムアイ  は、野良猫みたいな (笑)。その辺で(お店の玄関先を指差して)、器を置いてもらっておこぼれにあずかった感じ。それにしては豪華ですけどね(笑)。今日はラッキー!

平松  (笑)。でもやっぱり、立ちそばって少し不意打ち感があるかもしれない。ふらっと入って、「えっ!こんな美味しいものが!」っていう驚きとうれしさ。

コムアイ 平松さんは立ち食いそばからその街を覗いているような感じがしますよね。それは面白いなって思いました。

 

この後二人の話は、さらにディープな立ち食いそばの楽しみ方へと発展。
続きは、RiCE No.10 「蕎麦の新作法」にて。


[川一]
東京都台東区台東1-2-7
https://tabelog.com/tokyo/A1310/A131001/13010427/


[平松洋子]
1958 年、倉敷市生まれ。エッセイスト。世界各地に取材し、食文化と暮らしをテーマに執筆し ている。2006 年『 買えない味 』で Bunkamuraドゥマゴ文学賞受賞、12 年には『 野蛮な読書 』 で講談社エッセイ賞受賞。著書に『サンドウィッチは銀座で』『味なメニュー』など。
平松氏の著書はコチラ

[コムアイ]
1992 年神奈川県生まれ。水曜日のカンパネラのメンバーとして、2012 年より活動を開始。コ ンスタントに作品を発表しながら、2017 年にはミラノコレクションにてランウェイを歩く。ミュージシャンとしてだけでなく女優・モデルとしても活躍中。

撮影 嶌村 吉祥丸、文 稲田 浩
当記事はRiCE No.10「蕎麦の新作法」の記事をWEBサイト用に再編集しています。

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