エディターズノート
「RiCE」第19号「餃子」特集に寄せて
RiCE第19号の特集は餃子の特集です。創刊以来、常に頭にありながら、何故かこれまで一度もやってこなかった餃子。もちろん個人的にも大好きですし、そもそも嫌いな人っているんでしょうか? 直近の特集でやったカレーも、ハンバーガーも、大ブームと言っていいほどの人気が続いていますが、苦手な人って意外といたりするもので(実際に何人か知っていますが、好きで当たり前の空気があってなかなか言い出せないそう…)。
しかし、餃子が苦手な人だけはとんと出会ったことがない。餃子の話をするというと、誰もが自然に表情がほころんで、好きな餃子へのこだわりをとうとうと語り出したり、子供の頃に親を手伝って包んだ餃子の思い出話に花が咲いたり。餃子には、人を幸せにする力、ハッピーな記憶を呼び覚ますトリガーがあるようです。
餃子は完全食とよく言われます。具材となる豚肉などはたんぱく質を、キャベツや白菜などの野菜はビタミンやミネラルを、そして餡を包む皮は炭水化物を補給してくれる。このバランスがあるからでしょう。餃子だったら何個でも食べられる。そう感じる人も多いのでは。もちろん同じ餃子だけ食べ続けたら栄養的にバランスを崩すとは思うのですが、一向に食べ飽きず苦に感じない。そんな食べ物、餃子以外に何があったでしょう。
餃子の「餃」という字は食へんに交わると書くように、そもそも人が食を囲み集う普遍的な要素が含まれているのかもしれません。餃子発祥の国、中国では、様々なお祝いごとに餃子を食べる風習があると言います。餃子の形状が昔のお金に似ていて縁起が良いとも。それでいて一年中いつでも食べられる日常食でもある。日本に渡来して「日式」とも呼ばれる焼き餃子として定着したように、ネパールの「モモ」、ロシアの「ペリメニ」、イタリアの「ラビオリ」など世界中の食文化へと形を変えて伝播していきました。
それだけ餃子というメディア、食のフォーマット(具材を皮で包む)が普遍的かつ自由度が高いということでしょう。餃子にこれが正しい、という決まりはありません。具材は肉多め、野菜多め、あるいはヴィーガンもあり。皮にしたって小麦粉に限らずいろんな粉の配合が可能だし、厚め、薄めもお好み次第。包み方も自由なら、煮ても焼いても揚げてもいい。タレだってお好きにどうぞ。こんなにもフリーダムな万能フードが一体他にあったでしょうか。肩肘張らず、好きな餃子を好きなスタイルで好きなだけ食せばいい。至福です。
この餃子という自由の象徴とも言えるハッピーフードを、いろんなジャンルのシェフやクリエイターの方達と創り合い、語り合い、また食べ合って今号はできました。考案されたレシピも出来るだけ載せましたので、ほぼ同じ餃子が簡単に作れて戴けるはず。
なんだかんだで東京オリンピックは開催されるようですね…。1年越しでありすぎるくらいいろいろあっての今夏でしたが、どうか安全に、平和の祭典という本来の開催趣旨が全うされてほしい。
ステイホームで観戦しつつ、いろんな餃子を楽しむのがこの夏一番の正しい過ごし方な気がします。餃子こそが平和の象徴。さあ、肩の力を抜いて、いただきましょう!
- RiCE.press Editor in Chief
稲田 浩 / Hiroshi Inada
「RiCE」「RiCE.press」編集長。ライスプレス代表。
ロッキング・オンでの勤続10年を経て、2004年ファッションカルチャー誌「EYESCREAM」を創刊。2016年4月、12周年記念号をもって「EYESCREAM」編集長を退任、ライスプレス株式会社を設立。同年10月にフードカルチャー誌「RiCE」を創刊。2018年1月よりウェブメディア「RiCE.press」をロンチ。
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