【RiCE東京特集】23区ドラフト会議 2023
尊いバランスのトロトロオムライス。中央区[にっぽんの洋食 新川 津々井]
発売中のRiCE 28号「特集 おいしい東京」では、「東京23区 ドラフト会議 2023」と題した企画を実施。飲食店が星の数ほど存在する東京において、“果たしておいしいのはどこ?”という途方もない問いに、4名が挑戦した。
野球のドラフト形式で、“おいしい区”を指名し合い、東京を彩る名店をピックアップ。RiCE.pressでは、本誌では語り尽くせなかったお店の魅力をご紹介!
第2回目は、まろさんが“大谷翔平級”と1位指名した中央区から、少し意外なロケーション、新川の老舗[にっぽんの洋食 新川 津々井]。
新川という土地は、茅場町と門前仲町の間、四方を川に囲まれ、オフィスビルと住宅街が混在する閑静なエリア。「中央区に住むところあるの?」と思う向きもあるかもしれないが、実はけっこう静かなエリアがあるのだ。
そんな地に1950(昭和25)年に創業した[グリル 津々井]。6年後に[にっぽんの洋食 新川 津々井]と改称し、以来70年にわたって地元民に愛される老舗洋食店だ。
初代・越田武さんの後を継いだ健夫さんが、この日も店自慢の「トロトロオムライス」をつくってくれた。これは、2000年に現在の建物に移転した際にメニューに加わった“老舗のニュースタンダード”だ。
[津々井]の厨房は入口を入ってすぐ左手にあるのだが、客席は2階と3階にあるため、普段ゆっくりと厨房の様子を見ることはできない。それでも、エレベーターに乗る前にちょっと立ち止まって覗き込みたくなるくらい、フライパンを使い分けながら熟練の手つきで調理をする姿はかっこいい。
「トロトロオムライス」の秘訣は、ご飯や具材と一緒に卵を混ぜて素早く火を通すことだろう。しっとりとして、甘い、やわらかなご飯とハムの食感が、とてもやさしい。
このオムライスは、常連さんからの「食べやすくて喉越しのいいオムライスはできないか?」というリクエストに即興的に応じたことがきっかけで生まれたのだと健夫さんは教えてくれた。
さすが老舗、と思わせる工夫は2種類のソース。奥に見える生トマトのケチャップソースは、丁寧にタネを取り除いたきれいな見た目もさることながら、爽やかな酸味にスプーンが進む。手前は濃厚な生クリームを使ったケチャップソース。チーズを思わせる香りを感じるが「よく言われるのですがチーズは使っていません」。隠し味は秘密だが、ぜいたくな気持ちにさせてくれるソースだ。
厨房に立つのも親子二人。息子の晃夫さんは都内の有名ホテルのレストランで研鑽を積み家に戻った。「自分の代よりもレベルの高いことを学んできていてこちらも勉強になる」と父からの信頼も厚い。
晃夫さんは言う。
「祖父の代から続いてきて、リーマンショック、震災、コロナ、全て乗り越えてきた。こういった場所にあるから、常連の方々や近所のお客様に助けられてきました。自分もそれをいかに守っていけるかだと思っています」
お店とお客。親と子。トマトソースとクリームソース。和と洋。新と旧。
なんだか色々なものが絶妙なバランスで成り立っているような気になってくる尊い存在だ。
東京には、こんな常連客になりたくなるような隠れた名店がまだまだたくさん。
RiCE 28号「特集 おいしい東京」片手に、あなただけの “TOKYO SOUL FOOD” を見つけに街へ繰り出そう!
にっぽんの洋食 新川 津々井
03-3551-4759
東京都中央区新川1-7-11
平日 ランチ 11:00〜13:30 (LO)/ ディナー 17:00〜21:00 (LO)
土曜 ランチ 11:00〜13:00 (LO)/ディナー 17:00〜19:30 (LO)
日祝定休
http://tutui.sakura.ne.jp/まろ
美容業経営者にして美食家。外食は年間2500食、食べログレビュー数は 3年連続1位という「食の修羅」。出身は福岡県。上京してから20年以上ずっと港区に在住。ラーメンから三つ星まで巨大なデータバンク。
Instagram @maro.j.maro
Photo by Kumi Nishitani @___umum
Text & Edit by Yoshiki Tatezaki