“この場所でやらないと意味がない”フェスティバルであり続けるために

野外音楽フェスFRUEに息づく、食のローカリズム


RiCE.pressRiCE.press  / Apr 29, 2023

フードシーンにおけるヘッドライナー級の料理人から、コアな食通を唸らせるカルト的な飲食店まで。食ジャンルを問わず、全国各地からやってくる出店者が自慢の料理を提供することで「今一番、フードが面白い音楽フェス」として以前RiCE.pressでもレポートした「FESTIVAL de FRUE」。

フェスシーズン到来に向けて、今年はどこへ行こう?と吟味している人もきっと少なくないはずだ。音楽はもちろん食好きなら是非訪れてほしいフェスとして、その筆頭候補に躍り出ることを願いながら、昨年開催の模様を(遅ればせながら)振り返っていきたい。

屋外イベントとしては異例の蕎麦屋の出店(喉越し抜群の冷たいそばを提供)など、既存フェスの常識を覆すような斬新な取り組みがなされるなど、書きたいことは尽きない。しかしFRUEの開催地・静岡にゆかりのある出店者が印象的だったこともあり、今回は「FRUEにおける食のローカリズム」をテーマとして当日の様子をレポートしていく。

その土地の風土を味わうビールから、
地球の裏側で獲れた果実を静岡で醸したビールまで。

昨年のFRUEだが、「とりあえずビール!」というお決まりの決まり文句で頼んだら最後。他にもナチュラルワインやこだわりのアルコールドリンクが数多あるなか、「やっぱり次もビール!」と威勢よく頼みたくなる空間だった。

というのも開催地である静岡県内を拠点とするローカルブルワリー3軒がタップをひっさげて集結、とっておきのビールを提供したのだ。

これから各ブルワリーを紹介していくが、「その地で醸されたビールを飲みながら、最高の音楽を聴くのって単純に気持ちいいでしょ?」と、それぞれのブルワリーに対して言葉を並べるのが野暮になることを言い放つのは、[フジヤマハンターズビール]代表の深澤道男さん。

その名の通り、もともとは狩猟集団という異色のバックグラウンドを持つ彼ら。「今までは自分たちで狩猟をして、野菜も米も育てていました。食料が自分達で自給できるようになったタイミングで、次はビールだなと。既製品を買って飲むんじゃない。自分たちで作ったもので乾杯できたら最高じゃない? 育てていた米の裏作で麦は育てることもできるし、醸造免許も取得して、ビールを作り始めたのは自然な流れで」

クラフトビールが流行りだからと、マーケティングを起点にはじまるものづくりではない。ごくごく本来的な人類の営みの先にあり、その欲求に真摯に向き合った末に醸されるビールは本当に“自然に”作られる。「目の前の山で山椒がたくさんとれたからつくろうよ」「クロモジ(香木)があるから、これで作ってみたら面白いんじゃない」といった具合で、まさに日々の生業の延長線上にある。

そんなビールが人を惹きつけるのは必然だと思う。少しずつメンバーも増え、フレッシュなメンバーを引き連れたブースのチーム感たるや。常に活気があり、注がれるビールが数倍おいしくなるような空気感を放っていたのが印象的だった。若手醸造士の宮脇浩樹さんも、そのうちのひとりだ。

「以前は別のブルワリーで働いていたんですけど、農業や狩猟までやっていること、自然の近くで何かを作ることがいいなと思ったんです。自然が好きだから、並行してラフティングの講師もしています。あとはBADASS BEER BASEという屋号で、ファントムブルワリーとして自分がつくりたいビールも作っている。そんな働き方も許してくれる今の環境がすごくありがたいです。ビールはもちろん大好きだから、朝まで飲み続けたいって思うこともしばしば。本当は身体があともう1つ、いや2つくらいあったらちょうどいいかな(笑)」

「その地の恵み、麦や副原料だけでなく、日本では輸入することの多いホップまで。全てを自分たちの手で作り、醸すことで、この場所でしか生まれえない、100%ローカルなビールを作りたいんです」[フジヤマハンターズビール]の哲学に共感した彼らしい、まっすぐな目つきには一点の澱みもない。

揃いのカーキ色のワークシャツが似合う[フジヤマハンターズビール]のふたり。写真右側、オレンジ色のキャップの男性が代表の深澤道男さん。その深澤さんの背中を追いかける宮脇浩樹さん(写真左グレーのキャップ)。会場内に流れる音楽に身を揺らしながらビールをそそぎ、お客さんとの会話を楽しむ姿は実にニュートラル。

まさにその地の“風土をうつすような”ビールが複数種類会場で飲めたわけだが、特に大人気だったのが、[フジヤマハンターズビール]とFRUEのコラボレーションビールだ。

自分たちの土地で育ったものでビールをつくる彼らのスタンスとしては珍しく、「クプアス」という南米の地で収穫されたフルーツを使用している。しかし普段とは異なる取り組みが実現したのも、[フジヤマハンターズビール]とFRUE、両者の根幹にある思想が共鳴しあってこそだろう。

[フジヤマハンターズビール]のビールづくリだが、自然に任せるところは気長に任せつつ、醸し方はいたってロジカル。今回であれば、「クラフトビールにおいて大事にしているのは酸味と甘味のバランス。酸味の強い果物をなぜ美味しく感じるか?は、酸味が際立っても、甘みが下支えしているからだと思うんです」と宮脇さん。使用したクプアスだが、酸味の強さが特徴的。それでいてカカオと同じ属性ゆえ、その香りに近いニュアンスもある。酸味と甘みのバランスをいい塩梅でとりつつ、微細なニュアンスも殺さない。その上でどう「美味しい」と感じさせるか?このあたりを緻密に設計、経験と感性を総動員しながら作り上げたよう。

West Coast Brewing
Kakegawa Farm Breweryも揃い踏み!

静岡市用宗(もちむね)漁港に拠点を置く[West Coast Brewing]、通称WCBのビールも大人気だった。ここの特徴はなんと言ってもホップ。クラフトビールのカルチャーが根付く本場・アメリカのIPAを目指してつくられたビールは、確かに絶妙な苦味と香りの強さがインパクト大。思わず「うまっ」と声が漏れてしまうこと請け合いの、圧倒的な味わいだ。

ホップは世界各地から、さまざまなメーカーの品種を取り寄せ。WCBでは粉状に粉砕したホップを圧縮し、タブレット状の形に加工した「ペレットタイプ」の高品質ホップを直輸入している。オーナーとヘッドブルワーが実際に海外のホップファームへ足を運ぶことも。一口目から直感的に「おいしい」と感じさせるビールは、こだわりの詰まったホップを惜しみなくふんだんに使うことで成せる技なのだ。パッケージのデザイン性も秀逸で、聞けばブルワリーはもともと建築をやっているチームだったとか。納得である。

自社でデザインしたナイロン素材のジャケットからも、チームの連帯感を存分に感じる。

またFRUEのお膝元、掛川に醸造所を構える[Kakegawa Farm Brewery]もオーダーが止まることなく飛び交っていた。

掛川市初のクラフトビール醸造所として知られる[Kakegawa Farm Brewery]スタッフの平尾公孝さん。本場ベルギーで醸造修行をした職人が手がけ、20184月より本格始動。地場の特産物を積極的に取り入れるのが特徴で、この日もローストされた茶葉の香りが広がる緑茶のビールや、「ひまわりの花びら」を副原料としたビールを飲むことができた。茶産地のイメージも強いだけに、まさに「静岡といえば」な代名詞的な味わいから、意外な植物まで。クラフトビールを通して、その地の魅力を伝えてくれる。

青空の下、ビール片手に乾杯している人たちも会場内では目立ったが、このような状況はいわゆる4大メーカーがスポンサードしているイベントでは成立し得ない状況である。そのことも念を押して触れておきたい。

地元出身のスターも、この日のために凱旋

「今まではデザートが弱点だった」というFRUEだが、もうそんなふうに言わせない、今回は強力なショコラティエが参戦した。イタリア・ミラノで開催されたパティシエの世界大会で最優秀賞、世界一に輝いた実力派・瀧島誠士さんだ。

出身は静岡県で、まさに地元に凱旋した形の瀧島さん。普段は埼玉県にラボがあり、彼自身が手がけているチョコレートブランド「Seiste」は全国の催事などで大人気。

この日のメインメニューとして提供したのは「西川さんっちのみかんのクレープシュゼットパルフェ」。「おいしくて酸っぱくてパフェみたいなのが食べたい!」という運営チームの難易度高めなオーダーに対して、想像のはるか斜め上をかっ飛ばしていく逸品だった。

薄焼きにしたクレープにフレッシュなみかんとアイスクリーム。上からかけるのはあつあつのオレンジソース。リキュールも入っていて少し大人な味だが、その温度で溶け出すアイスクリームの口溶けがたまらない。この上に棒状のメレンゲを3本きれいにトッピングすれば完成。

野外フェスで食べるスイーツとしては異例の完成度。そしてカタカナ言葉が連なる長めのメニュー名の中で、妙に間の抜けた部分「西川さんっち」が気になり聞いてみた。

「“っち”というのは静岡の方言で“〜の家”という意味なんです。せっかく静岡にゆかりのあるメニューなので、名前も普段とは違う感じにしてみました」地元ならではの言葉づかいを敢えて選ぶあたりに、お茶目な一面が垣間見える。普段は第一線で活躍している彼だけに、どこか親密なギャップもいい。またそうした方言からも、「わざわざ静岡にきている」と自覚させられるのだ。

カヌレやスコーンなども大人気。世界一に輝いたパティシエが焼き上げたスイーツを頬張りつつ音楽を楽しむなんて、なんと贅沢な体験なのだ!
しかしこうした料理人のキャスティングというのは、決して知名度ありきで決めているわけでもない。既存の出店者を通じた紹介はもちろん、独自のネットワークをいかして「これぞ!」という布陣を確定。全体のバランスなどを考慮しながら当日へと臨んでいる。

たとえ静岡に住んでいても
なかなか食べられないような特別な料理。
そんな料理にアクセスできるフェスでありたい。

FRUEには県外からもたくさんの音楽ファンが詰めかけてくる。「わざわざ遠方からやってくる人たちに静岡の地のものを食べてもらうなら、とびきりいいものを食べてほしい」そんな想いで選ばれる地元の出店者も少なくない。

新幹線が止まる駅近く、繁華街に拠点を構える店も粒ぞろいだが、しかし「車がないと行くのが難しい、不便な場所にあるお店」にしか存在しない味があるのもまた事実。そこを訪れた者だけが味わえるローカリズムが確実に息づいているからだ。

例えば、「水がきれいだからこそ育つ在来種の野菜を、鮮度抜群な状態でいただくこと」などは、正にその真骨頂と言えるだろう。FRUEはこうした食べ物だって、口にすることができるフェスなのが、「見どころ」ならぬ「食べどころ」だ。

今回の出店の中であれば、[玄米彩食 あさゐ]を筆頭として挙げたい。静岡県の榛原郡川根本町、決してアクセスがいいとは言えない山あいにあって、築280年を超える古民家でオーベルジュを営んでいる。

30食限定、会場で販売したお弁当は、見た目にも美しい野菜のお寿司がみっちりと詰め込まれる。よく考えてみれば寿司だって、もともと江戸時代にはストリートフード。室内で背筋を伸ばして食べるイメージが強いけれど、野外にスタンディング、片手に弁当箱を持ち、もう片方の手でつまむというのも、意外に理に適っているのかも。

 

隙間もなくぴしっと整列している野菜のお寿司と副菜たち、実は100%ヴィーガン。植物性の材料だけとは思えぬ味わいの奥深さだが、味付けや食感などが全部異なり、食材ごとに包丁の入れ方や加熱の仕方、適切な処置を変えているからだろう。それだけ野菜のことを知っているからできる仕事でもある。

夕方の限られた時間帯のゲリラ的な出店という、これまたユニークなスタイルながら即完売。常時出店に限らずも、いろんなスタイルを楽しめるのもFRUE流の食の楽しみ方だ。

記事では紹介することができなかった出店者も含めて、フードは常に大盛況。ゆえに想定以上の食数が提供されるという嬉しい悲鳴が上がる場面も。そんな中、万が一に備えて用意していたお米を急遽炊き上げ、即興の料理を作り上げる一幕も見られた。

地元静岡の名店[シンプルズ]井上靖彦シェフと、東京のネパール料理店[ADI]店主のカンチャン(日本国内のトップシェフがこぞって仕入れる静岡県の「サスエ前田魚店」で修行した経験もあり、実は同県にも縁深い)が共におにぎりを握ることに。

看板も急遽作成し、突如はじまるコラボレーション営業。香り豊かなキーマカレーをオニギリの具に、カンチャンと井上さん、両シェフそれぞれにおにぎりを握る。日本人と外国人ではおにぎりの握り方が違ったというが、そのあたりの異文化体験も要注目だった。

想定外の事態が、最高の食体験へと昇華する。他のフェスティバルではなかなか味わうことができないインプロだが、その限定性・当事者性は飲食ファンにはたまらないはずだ。

しかしこうしたアドリブは、一歩間違えば全体からの逸脱になりかねない。そんな中でも会場全体が調和しているのはなぜだろう?

要因はたくさんあると思うが、敢えて一言であらわすならば、出店者それぞれが「FRUE」に特別な意味を見出し、通常の営業とは全く異なる態勢で挑んでいるからな気がする。逆に東京をはじめ、既に他の地域で成立している営業形式にこだわり、単純に場所を変えてコピー&ペーストするだけ。そのような姿勢で出店しているとしたら、美しい楽曲の音程が半音ずれるかの如く、ちいさな違和感に繋がってしまうはず。「わざわざその場所でうまれる」体験として、120点を叩き出すことはできないのだ。

とかく、みんなガチンコなのだ。県内組・県外組の出店者問わず、ここにしかないオンリーワンな状況に向けて全力を尽くしていく。

こうした大きな舵取りは、フェスティバルを運営する上での微細な意識にも自ずとあらわれる。スタッフ用のお茶を一本買うのにも、地元・掛川市の個人商店から取り寄せるのだという。インターネットで、ワンクリックで買った方が早いし安いのにもかかわらず、だ。

その理由をフードのディレクションを担当する松橋美晴さんに聞けば、間髪入れずこう答えた。「その街と一緒にやっていくって、そういうことだと思うから」。同時にいちばん最初につま恋でFRUEを開催するという際に、地元の人から言われた言葉を教えてくれた。

フードのメインステージを前に、飲食ステージをつくりあげる立役者である松橋美晴さん(写真左)と岡千晴さん(写真右)。

「野外の音楽フェスって、東京の人たちが押し寄せてお金を稼いで、ゴミだけ捨てて帰るんでしょ?」絶対にそういうイベントにしたくないと、強く心に刻み込んだ。それはフェスティバルをはじめて6年目を迎えた今でも変わらない姿勢である。

屋外で音楽フェスを開催しようと思ったら、土地や会場の値段というのは最初に浮上する実際的な問題として想像に難くない。とはいえ「東京だとやれる場所がないから、地方でやる」そんなスタンスはクールと言えるだろうか? むしろその場所でやる意味を真剣に考え、突き詰めること。それをやったか、やらないか。その違いこそが、フェスが醸す空気にあらわれ、「ここでやる意味」になってくる。

風土をうつすようなビールも、その土地に凱旋するスターシェフも、ローカルに息づく独自の食文化も。その場所を目指して出店する人たちの意識も、運営する上でのその土地との関わり方一つとっても。FRUEから強烈に感じた「ここでやる意味」というのは、きっと参加する側にとっては「ここでしか感じられない」特異な体験へと姿を変えていく。

それは大きなモチベーションになると思う。わざわざ自分が生活している場所を離れて、交通費と時間をかけてその地へ足を運ぶならば、やはり唯一無二な体験があった方がいい。そんなオンリーワンな体験を求めて、FRUEに足を運ぶことを心からおすすめしたい。

FESTIVAL de FRUE 2023
初夏より順次ラインナップ発表予定
開催日:113日(金)4日(土)
開催地:つま恋リゾート彩の郷 (静岡県掛川市満水2000)
チケット販売サイト:https://shop.frue.jp
イベント詳細:http://festivaldefrue.com/

都市型のコンパクトな音楽フェスティバル2年目は3都市4公演での開催!
FESTIVAL FRUEZINHO 2023(フェスティバル・フルージーニョ・2023
ラインナップ:Amaro Freitas trio, Bala Desejo, Ichiko Aoba, Sam Gendel, Benny Bock and Hans Kjorstad – dream trio

開催日/開催地:78日(土)東京・立川ステージガーデン / 79日(日)福岡市民会館 / 710日(月)大阪ユニバース / 712日(水)東京・渋谷WWW
※各開催地で出演者が異なります。イベント詳細は下記ウェブサイトでご確認ください。
http://fruezinho.com/

Text by Shunpei Narita
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