水野仁輔のスパイストリップ
「時間を味わう水出しコーヒー」in 韓国・ソウル
人間の味わいとコーヒーの味わい
放っておけば時間が解決してくれる料理というものに愛着が沸くようになったのは、40歳を過ぎてからだ。
だしを取ったり、マリネをしたり、煮込んでみたり。その間に僕が手を動かすことはほとんどない。煮込み料理はともかく、水に昆布を浸しておくとか、ヨーグルトに鶏肉を漬け込んでおく行為は、調理といってはいけないかもと思うほどシンプルで手がかからない。手がかからないのに手間がかかっている。だから、おのずと味はうまくなる。
放置している間に僕が何をしようと自由だ。仲間と酒を飲んで語らい、映画を観て、ぐっすり眠りについても、かけた時間だけ仕事をしてくれる。
ソウルの町中にあるコーヒー屋さんに連れて行ってもらった。オシャレな店内は焙煎した豆のいい香りに満ちている。ガラス張りの調理スペースに目をやると水出しコーヒーがずらりと並んでいた。一斉に、でも静かにポツポツとコーヒーを落とすその姿は愛くるしいものがあった。
あれだけ時間をかけたって、飲むときは数分なんだよな。贅沢なもんだと思う。
人間の “味わい” もあんな風に経年と共に深まっていくのだろうか。年を重ねた人の素敵さと水出しコーヒーがオーバーラップする。でもなぁ、立派な人は立派に努力して時を重ねてきているんだよな。何もしないで人間性が素敵に成長することは、ないだろうなぁ。
少しだけ気を引き締めてコーヒー屋を後にした。
- AIR SPICE CEO
水野 仁輔 / Jinsuke Mizuno
AIR SPICE代表。1999年にカレーに特化した出張料理集団「東京カリ~番長」を立ち上げて以来、カレー専門の出張料理人として活動。カレーに関する著書は40冊以上。全国各地でライブクッキングを行い、世界各国へ取材旅へ出かけている。カレーの世界にプレーヤーを増やす「カレーの学校」を運営中。2016年春に本格カレーのレシピつきスパイスセットを定期頒布するサービス「AIR SPICE」を開始。 http://www.airspice.jp/