エディターズノート

「RiCE」第37号「みんなのペアリング」特集に寄せて


Hiroshi InadaHiroshi Inada  / Oct 9, 2024

RiCEの第37号はペアリングの特集です。これまたいつかやってみたいと温め続けてきた念願企画。RiCEを創刊したのは2016年10月、つまり今号で8周年になるわけですが、この間一貫して耳にし続けた言葉が他ならぬペアリングでした。今のフードシーンをカルチャーたらしめるキーワードのひとつといっても過言では無い。

実際のところ日本でペアリングという言葉が一般化しはじめたのが2016年頃という説もあり、たしかに当時はペアリングを打ち出したいろんなコラボイベントやポップアップが頻繁にあった気が。ワインや日本酒を中心に、様々なジャンルの食べ物とかけ合わせる試みが、実験精神溢れるサービス側と好奇心旺盛なフーディーたちをクロスオーバーさせながらムーブメント化していました。

そうした先鋭化する動きは近年コロナを経て落ち着いた面もありますが、逆にペアリングは一般層にまで浸透したといえるでしょう。とはいえ、ことここに至りながらもいまいち解像度が低いというか。はて?そもそもペアリングってなんだっけ?

ペアリングはもともとワインの世界でいうマリアージュを英語に翻訳しただけという説が濃厚です。つまりヴァンナチュールとナチュラルワインのように違いはないと。なるほど。ですがマリアージュの直訳は結婚、対するペアリングが意味するのは恋愛のようなもの。つまり似て非なるわけです。

少なくともここ日本においてペアリングは、レストランなどで提供される一皿ずつの料理に対してバイグラスで合わせるスタイルを指しつつ、一方で本誌お馴染みの日本酒ソムリエ・千葉麻里絵さんが提唱する「口内調味(Mouth Seasoning)」のニュアンスが混じり合いながら広がっていったといえるでしょう。

多くの日本人はごはんとおかず、味噌汁を三角食べしながら口内でミックスしつつ咀嚼する傾向がある。同じく米を原料とする日本酒がどんな料理も受け止めながらごはんの役割を果たしつつ、ときにソースのように料理と絡ませることで口内調味がなされる。対して食中酒としてのワイン文化を背景とする欧米人は、料理の咀嚼中にワインを飲むことは決してなく、嚥下したあとに口にすることで残り香をベースに合わせるという。つまりペアリングという同じ言葉を使いながらも、二つの異なる食体験を指していたことになる。

ことほどさようにペアリングは多面的、かつ正解が無い。逆にそれだけ豊かで多様な、可能性に満ちた世界が広がっているとも言えるでしょう。いずれにせよペアリングという言葉も考え方もスタイルも、まだ始まったばかり。料理の世界とドリンクの世界はさらに密接に絡み合いながら、もっともっと発展していくはず。

秋も深まる中、美味しいペアリングを見つけに街へ繰り出しませんか。

RiCE No.37 NOVEMBER 2024 特集「みんなのペアリング」

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