千葉麻里絵さんの日本酒ペアリングを大越基裕さんが体感
【PAIRING CROSSTALK 後編】千葉麻里絵(EUREKA!)×大越基裕(Ăn Đi)
前編はこちらから。
メディア上での対談は初だというお二人によるペアリングクロストーク。後編では、千葉麻里絵さんの[EUREKA!]へと舞台を移し、大越基裕に日本酒ペアリングを体感していただいた。
日本酒だから成立する口内調味
カギは重心作りにあり
——続いては、場所を移して大越さんに千葉さんのペアリングを体験していただきます。
千葉麻里絵さん(以下千葉) 大越さんに出すのは緊張しますね(笑)。1つ目は「甘エビとライチのタルタル」と「英君 EIKUN holic 」です。
甘エビとライチのタルタル
英君 EIKUN holic
大越基裕さん(以下大越) この日本酒は蔵と麻里絵さんがコラボレーションしたお酒ですよね。
千葉 マスカットやライチを思わせる香りの成分、4MMPが特徴的です。料理は甘エビとライチを、コンソメジュレをベースに、大越さんも使っていたマーガオと、ミントとタイバジルをあしらっています。最近、タイなど東南アジアによく行くこともあり、アジアの香辛料の使い方が気になりよく取り入れています。甘エビのねっとり感で重心を低くしています。
大越 (ペアリングを試しながら)この口内調味の世界はワインでは作れないですね。料理と酒の重さが合っているから、味わいも立体感や一体感が生まれているように感じました。ペアリングの重心はテクスチャーで作れますよね。
千葉 そうですよね。
大越 重心を作るのは油だけではないですから。
千葉 特に日本酒の場合は、今回のお酒は爽やかですが、ワインと比べると、全体的にどうしても重たくなる傾向があるので、重心の作り方を 少し変える必要があると思っていて日本酒は、味は重いけれど、香りは軽いんですよね。
——その辺りは大越さんも意識されますか?
大越 やはり常に考えますね。お酒にとっておいしい料理と重さをそろえることがどれだけ重要か。
千葉 抜けも大事ですよね。ハーブやわさび、唐辛子などを使って、私は〝抜けを作る〞とか、〝散らす〞みたいな言い方をしていますが、ランダムに入れると、それがリズムを作ってくれるんですよね。
―もう一つのペアリングは、「ラム肉とパクチーの餅春巻き」×「花巴 水酛×水酛」です。
ラム肉とパクチーの餅春巻き
花巴 水酛×水酛
千葉 香港で食べた「腸粉」の食感が面白いと思っていて。白玉粉の生地で包んでいますが、それだけだと 重たいので、軽さを足したくて揚げた春巻きを中に入れたんです。餅のふわっ、春巻きのカリッ、そしてラム肉の食感。その3つが層に、ヨーグルトのような味わいが強い「花巴 水酛×水酛」が溶け込むというペアリングです。
大越 これはうまみ爆弾ですね。お酒の旨味が強いので量はこれくらいで充分。日本酒ならではの旨味と旨 味の相乗効果ですよね。ワインはこんなに旨味が出ないから。だからこういうペアリングをワインで作ろうとすると、マデイラなどの甘いワインになってしまう。
千葉 お酒単独で飲んだら、もしかしたらオフフレーバーに感じるかもしれない、こういうノイジーな部分を、少し口に含んで食べ物と合わせて、うま味を広げることを意図しました。お酒がもう調味料の1つみたいなイメージですね。
大越 口内調味はやはり、日本酒しかできないんですよね。麻里絵さんの代表的なペアリングの「ハムカツとどぶろく」の組合せのように、お酒と料理を口の中で混ぜるのは、香りが命のワインでは香りが負けてしまうんですよ。でも、日本酒はアミノ酸の力もありますし、どちらかというと香りよりも味で勝負できるので、こういうペアリングが成立するのは日本酒ならではだなと思います。
——[EUREKA!]の独創的なメニュー とお酒の組合せは、料理のアイデア
の時点から合わせるお酒のイメージがあるのでしょうか?
千葉 基本的には、料理から考えます。その時は合わせるお酒を浮かべないようにしているかも。そうじゃないと、つい料理をお酒に寄せちゃうので。
大越 同じくです。ワインから料理を考えると発想が乏しくなってしまうんですよね。料理は料理の世界で自由に作った方が、クオリティが上がると思います。僕らもアイデアは出しますが、シェフたちの方が、発想が豊か。今までにない料理が出来上がったら、さて、お酒は何を合わせようという流れです。僕らはそういう方が得意でしょう?
千葉 出来上がった料理に対してちょっとハーブを足してみようとかこの食材の切り方は変えたほうがいいんじゃない? みたいなことは言います?
大越 言いますね。
千葉 やっぱり言いますよね。
大越 料理も内容をガラッと変えるんじゃなくて…。
千葉 チューニングするってことですよね。
大越 そう。チューニング。
千葉 私は、料理にお酒が入る余白を作るという意味でチューニングという言葉を使いますが、料理に隙があるとか、完成されてないという意味ではないんですよね。「微妙な味だけれど、お酒と合わせたらおいしい」は、ペアリングじゃないと思う。
大越 僕もその意見は好きじゃないですね。合わせたらおいしいではなく、それぞれがおいしいことが前提にある。
千葉 単体でおいしいものがもっとおいしくなったり、別の香りが出てきたりしないと本来、成立しないものですよね。
大越 そうじゃないとペアリングの意味がないと思います。
料理やワインの詳細も含む記事全文は、RiCE No.37 NOVEMBER 2024「特集 みんなのペアリング Pairing for All」の誌面でご覧いただけます。
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千葉麻里絵|Marie Chiba
岩手県出身。西麻布[EUREKA!]オーナー。日本酒ソムリエ。山形大学で食品の物質工学を学ぶ。卒業後、SEとして勤めたのち、日本酒に魅了され飲食業界に転身。日本全国の酒蔵を訪ね、酒類総合研究所で専門知識を身に付け、化学的知見から「口内調味」や「ペアリング」をキーワードに新しい日本酒体験を提案。海外客も多く訪れる。共著書に『最先端の日本酒ペアリング』。
IG @marimarimo125
大越基裕|Motohiro Okoshi
北海道出身。モダンベトナム料理店の外苑前[Ăn Đi]、広尾[Ăn Com]オーナー。国際ソムリエ協会認定 International A.S.I. Sommelier Diploma WSET Sake Level 3 Educator。フランスにて栽培から醸造まで学ぶ。2001年[銀座レカン]に。その後シェフソムリエを経てワインテイスター/ソムリエとして独立。世界各国のワイナリーなどを巡りながらコンサルティングや人材育成も手がける。著書に『ロジカルペアリング』。
IG @moto_okoshi
Photo by Norio Kidera(写真 木寺紀雄)
Text by Naoko Asai(文 浅井直子)
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