2000年生まれ、器好きが器を巡って旅をする「響の日本うつわ見聞録」

#1 京都 清水焼の風雲児! 清水大介さんに聞く『うつわの売り方』(1/3)


Hibiki InoueHibiki Inoue  / Dec 24, 2024

響の日本うつわ見聞録。それは、2000年生まれの私、井上響が、全国各地で生み出される器の魅力や素晴らしいものづくりについて探求すべく旅をした記録。そこで出会う職人や作家の方々の知られざる哲学の記録。そこから日本が誇るべき器の未来を考えたいと思います!

初回なので簡単に自己紹介をします。現在私は、日本の魅力を海外の方にも知っていただくべく、インバウンド向けの旅行会社に勤務しています。日本の伝統文化に興味を持ったきっかけは、学生時代に一人旅をしていた私に外国人が聞いてきた「日本人って、日本の何が好きなの?」という質問。当時18歳、日本の魅力のことなんて考えたことがありませんでしたが、そこから「日本の魅力ってなんだ?」と考えはじめます。器との出会いは、渋谷PARCOにある、日本の器・包丁・道具・クラフトビールを取り扱うお店「Discover Japan Lab」でアルバイトを始めたことでした。今回旅するのは、これまであらゆる器のプロダクトを見てきた中でも、そのビジネスモデルが衝撃だった、京都・清水大介さんを訪ねました。

日本伝統文化の中心地、京都へ

訪れたのは、あらゆる日本の伝統文化の中心地・京都は、清水焼きよみずやき団地だんち。京都駅からバスと徒歩で30分ほどでアクセスできます。

清水焼団地周辺の様子

今回は、その清水焼団地にある[TOKINOHA Ceramic Studio]を訪れ、清水焼の風雲児とも呼ぶべき清水大介さんにインタビューさせていただきました。

清水大介さん

清水大介さんは1980年、清水六兵衛窯の分家の家系に生まれます。セラミックブランド「TOKINOHA」をはじめ、料理のプロフェッショナルのためにオーダーメイドで器をつくる「素—siro」や、陶器づくりを体験するための空間「HOTOKI」など、陶芸を通じた様々な事業を展開しています。2025年1月にはアメリカ サンフランシスコのMoMAで開催されるFOG design+artに器を展示予定。また3月には、オールデイダイニング、陶芸スタジオ、カフェ&ショップ、コワーキングスペースが一体となった新施設「com-ion」内に新店舗「時の端」をオープン予定。さらには、TOKINOHAの写真集を自主制作中とのこと。次々に京都から器の事業を仕掛けていく清水大介さんにますます目が離せません。

TOKINOHA Ceramic Studio 1階ショップ内の様子

衝撃! 器はすべて直販。“卸さない陶芸窯元”、TOKINOHA

どんな器職人、作家の方でも問屋や小売店に作品を卸して販売面でお世話になっているのが一般的。直販だけで勝負しているなんて寡聞にして聞いたことがありませんでした。しかしTOKINOHAは違う。器を他所に基本的に卸すことなく、直営店舗・オンラインショップでしか販売していないのです。清水さんも「うちだけだと思います」と言います。器を小売店に卸さない、TOKINOHAの器の売り方について伺いました。

「2019年のはじめ、当時取引のあった小売店に対し、取引額の大きい順に連絡を入れ、卸販売を一日で全てやめる決断をしました」

そう振り返る清水さん。当時のTOKINOHAは、国内外の小売店合わせて約50軒の取引先があり、3ヶ月〜半年待ちの人気の窯元。しかし、時流に乗ったプロダクトが世に認められながらも感じていた課題がありました。それは「雇っている職人たちへ十分な給与が支払えないこと」でした。

「これだけ仕事があっても無理なものなのか——」

清水さんはそう苦悩していたと言います。考えられる解決方法は二つ。「値段を上げる」か「流通を変えるか」。結果、「小売店に支払う販売手数料をなくすのが一番効果的なのではないか」と考え、流通を変えることにしたとのことです。器の販売において、小売店に卸して商売をする場合、窯元や作家の手元に残る金額は60〜70%という割合。(例えば10,000円の販売価格の器の場合、職人や作家の手元に残るのは6,000円〜7,000円、という計算。)窯元や作家が器を作り、販売力のある小売店が器を販売する流れが業界では一般的なところ、TOKINOHAは利益率を上げるために製販一体化させることにしました。

ちょうどその頃は、前述の「素—siro」というオーダーメイドのブランドを構想をしていたタイミングで、「何かを始めるときには何かをやめなければならない」と思い切った決断を下すことができたといいます。

「他にそんなことをしている窯元や作家はいるか、周りを見ても誰もいない。その状況に、逆に気持ちが高まって、“好奇心と賭け”だと思いましたが、卸すことをやめて直販のみにする決断をしたんです」

TOKINOHAで販売・展示している器。両手に収まるサイズのベースにさまざまなドライフラワーが寄せ植えされています

「素—siro」で過去に製作したファインダイニングがオーダーした器の一例

清水焼の風雲児を生み出した、2つの金言

業界でもかなりアグレッシブで珍しい器の売り方をされている清水さん。そんな清水さんの思考の奥深くを探るべくさらにお話を伺っていると、清水さんを変えた2つの金言が浮かび上がってきました。

「お前は経営者なんやぞ」

これは、同級生の会計士の方に3年間言われ続けた言葉。陶芸家として独立した当時、清水さんは「お金のことをごちゃごちゃ言う奴はダサい。ものづくりの人間として、経営やお金のことを言うのは汚い。陶芸家は自分のつくりたいものをつくり、そこにお金がついてきたら良い」と思っていたそう。

しかし職人を雇って給料を支払う立場になったことで、この言葉の意味が理解できるようになり、お金に対しての考え方が変わったといいます。陶芸家であり、ブランドオーナー、会社の経営者である清水さん。経験し、考え、動いてきたからこそ、一国一城の主としての自覚を促す言葉に共鳴し、清水さん独自の「器の売り方」も生まれたのでしょう。

「良いものをつくっているのにちゃんと見せないなんてもったいない」

これは、TOKINOHAのロゴ等を手掛けていらっしゃるご友人に言われた言葉。清水さんはTOKINOHAを伝えるための写真や動画、店の空間やショップカードに至るまで、クリエイティブにはかなりこだわっていらっしゃいます。クリエイティブにこだわるのは、大学で建築を学び、「空間の中での器」を常に意識しているから。生活に器だけ存在することはあり得ないからこそ、誰がどのように生活の中で器を使うかを考えていらっしゃいます。そんな考えがありながら「ブランディングは嫌いだった」とのこと。ブランディングについて「良くないものを過剰に良く見せることではないか」と思っていたと話します。

しかし、ご友人のこの言葉をきっかけに考えを改め、ブランディングに関する本を片っ端から購入し、全て読んだそうです。「どの本にも共通して書かれていることがあり、それが自分のやろうとしていたことと重なる部分が多かった。特に何かを大きく変えたわけではないが、そのおかげで考えを整理できた」とのことで、学びと思考が融合し、現在のTOKINOHAの魅力に繋がっています。

店内では職人が作陶している様子を見学できる

作陶する清水大介さん

今回は、清水大介さんのご紹介と、彼の辿り着いた「器の売り方」とその考えの背景についてを記録しました。次回は、そんな清水さんが手がける料理のプロフェッショナルのためにオーダーメイドで器をつくる「素—siro」についてご紹介いたします。RiCEをお読みの料理人の方々必見の内容です。お楽しみに…!

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