朝食の時代

川崎市[調理室池田]のツナメルトサンドイッチ


RiCE.pressRiCE.press  / Apr 17, 2025

RiCE.press編集部が、楽しい朝の時間を特集するシリーズ「朝食の時代」。

新宿から電車とバスを乗り継ぐこと1時間ほど。のどかな街並みが広がる川崎市宮前区の中心に、朝から賑わいをみせる川崎中央卸売市場北部市場(以下、北部市場)がある。ずらりと並ぶ野菜や肉、魚などの食材や日用品を目当てに人が行き交い、場内は活気に包まれている。気分を高揚させながら歩くとほどなく見えてくる、白い看板とサーモンピンクの扉が特徴的な店。場内の一角で一際異彩を放つこの店こそが、今回の目的地[調理室池田]だ。

Breakfast 04 |市場への愛が詰まったツナメルトサンドイッチ

フルオープンな入り口にするために取り付けたという扉は、北部市場と同時代(50年前)に倉庫で使われていたものだそう

朝8時、シックな店構えにドキドキしつつ引き戸を開けると、パンの香ばしい匂いが早速食欲をそそる。開放的な店内には、色柄、木目さまざまなテーブルが並んでいる。2階には、[調理室池田]のオーナーでプロデューサーの池田講平さんが買い付けた西洋骨董やアート作品が並び、アンティーク好きの心を射止める空間が広がっている。

朝一から買い物欲もくすぐられる

目を引くこの作品は小町渉さんのペイントアート。北部市場で出る産業廃棄物を使っている。2020年3月には2階のギャラリーで個展を開催した

1階のカウンターキッチンで料理接客を担うのが店主の池田宏実さん。201812月、講平さんとともに[調理室池田]をオープンした。当時の北部市場内は、一般客が訪れるような飲食店はほとんどなかった。しかし、池田さんにとっては自宅で料理教室を開いていた時代からよく買い出しに訪れていた馴染みの場所。ある意味閉鎖的な環境だからこそ、中との繋がりは濃く、場外と流れる時間は違うという。そんな市場特有のシチュエーションや、朝の綺麗な光が差し込むこの物件に惹かれ、店を構えることに決めたと振り返る。

「当時、市場に来るのは仕入れ業者や飲食店、市場関係者がほとんどで、一般の方が訪れるようなお店は多くありませんでした。やっていけるかなと思うほどだったのですが、それでもこの北部市場でやりたいっていう気持ちがありました」

そんな言葉はまるで嘘のように、今はさまざまな店が軒を連ね、買い物や食事を楽しむ一般のお客も多く訪れている。

[調理室池田]店主・池田宏実さん。カフェの店長を務めた後、2人の料理家のアシスタントを務める。独立後、自身で料理教室を始め、2018年に[調理室池田]をオープンした

「オープン当初、北部市場の皆さんと足並みを揃えて、ここでしかやれないことをやりたいと考えました。場内のお友達からは『パンがいいな』というリクエストをもらっていたし、たしかにテイクアウトで持ち出して食べられるパンのお店がなかったんです。市場といえば海鮮丼とか寿司なのかもしれないのですが、そうではなくて、もう少し手頃で毎日食べられるようなものを提供したいと思いました」

北部市場で働く方に手頃で手軽に食べてもらいたいという思いから誕生したのが、こちらのツナメルトサンドイッチ。

ツナメルトサンドイッチ ¥715(税込)。粗めにほぐされたツナは味わいも食べ応えもひとしお

ツナメルトサンドイッチは北部市場の味。宏実さんお手製のツナは、場内で仕入れたマグロの切れ端を使う。2店舗から仕入れるマグロは、油が乗ったものや筋が入った部分など、口当たりや味わいはさまざま。それらをミックスさせ、弱火でじんわりと火入れする。

まろやかなのにさっぱりとした味わいのツナは、噛めば噛むほど旨みが出てくる。ほどよい酸味の自家製マヨネーズとシャキシャキ食感の香味野菜が、魚特有の臭みを消してくれるという。食べやすい厚さにカットされたパンは、場内で働くご年配の方や立ち仕事をする方が手軽に食べられるようにという温かい心遣いから。カリッと、ふわっとした軽い口当たりと香ばしさ、コクのあるレッドチェダーチーズがさらに食欲を掻き立てる。

もう一つ、日替わりサンドイッチも人気メニュー。魚を食べることが多い北部市場で働く人たちのために決まって肉を使う。ベーコンやグリルチキン、ハムなど、毎日変わる具材は、決まった曜日に来る人たちを飽きさせない。

ツナメルトサンドイッチをあっという間に完食し、朝の空腹と心が満たされた。それも束の間、店内に漂う甘い香りが、食後の別腹を誘ってくる。宏実さんが作るのは、マジパンケーキやヴィクトリアケーキ、ウィークエンドなど、どれもが家庭的なものたち。パティシエが作るケーキとは違う魅力が溢れている。この日は季節のジャムを使ったスコーンサンドと、店の定番焼き菓子、バナナブレッドをいただいた。

スコーンサンド ¥495(税込)。ジャムをサンドしているのは、働きながらでも片手でパクッと食べられるための工夫。夏になると、アプリコットやブルーベリー、パッションフルーツなどを組み合わせて毎日違うジャムを提供している

店の人気メニューのスコーンサンド。一口噛むとザクっと食感、かと思えば、中はしっとり。中に挟まった色鮮やかなあまおうのジャムは、冬から春にかけて味わえる定番ジャム。酸味と甘みのバランスが良く、少し形が残った果実を噛むとフレッシュな風味が口いっぱいに広がる。バターとクリームチーズを使った滑らかな舌触りのクリームは、どんなジャムとも相性抜群!

バナナブレッドは、オープン当時から毎日欠かさず焼き続けているという定番。バナナの自然な甘みを最大限に生かした優しい味わい。生地はしっとり柔らかく、上にかかったシャリシャリ食感の砂糖が良いアクセントになっている。

バナナブレッド ¥440(税込)

[調理室池田]の空間は、どこか海外を思わせる。誰かはパリのようだと言い、はたまたロンドンやニューヨークのようだと言う人もいる。

「これまで、日本も海外も含めて飲食店をたくさん見てきました。そうすると、自分の中に断片的なイメージがたくさん生まれてくる。この場で何かを作るとなると、頭の中にあるイメージの断片を繋げてひとつの形にする。今まで見てきたものを重ね合わせたらこのスタイルになりました。だから、お客様が持つイメージは、私からすると全部正解なんです」

飲食店プロデューサーの経歴を持つ講平さんがこう語る。[調理室池田]のコンセプトのベースにあるのは「境界線を省く」だという。キッチンと客席、お客とスタッフ、料理と器など、本来は別々に存在しているものをできるだけ近づけて、トータルで馴染む空間を作るということ。洗練された雰囲気の中に抜群の心地よさを感じていた自分のイメージに間違いなかったのだと確信する。

[調理室池田]に流れている時間は特別だと感じる。憩いの時間とおいしい朝食を求め、人々は早朝から北部市場へと足を運ぶ。

「市場に食材を買いに来てほしいですね。その帰りにうちで一息ついて、料理のイメージを広げて帰ってもらえたら。それが一番の理想です」

そう語る宏実さんが作るおいしい朝食は、北部市場だからできる味。ちょっとした旅気分で、清々しい朝の時間を過ごしに川崎市北部市場を訪れてみては。

調理室池田
神奈川県川崎市宮前区水沢1-1-1 川崎市中央卸売市場北部市場 関連棟 45(Google Maps
7:00〜13:00(土曜日のみ14:00 LO)
Lunch 11:45〜
水・日・祝定休
※一般の方の市場への入場は8時から。北部市場の休みに準ずるため、ご来店の際はInstagramまたは公式HPをご確認ください。
IG @ikeprox

Photo by Kumi Nishitani(写真 西谷玖美)IG @___umum
Text by Megumi Bunya
(文 文屋めぐみ)
Edit by Yoshiki Tatezaki
(編集 舘﨑芳貴)
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