シティライツ・レストラン

009 「日本の繊細な季節の移ろいに重なる、京都の冷めん」


Yuya UenumaYuya Uenuma  / Apr 16, 2025

4月に入り、日を追うごとに春の訪れを告げる足音が大きく聞こえるようになりました。京都という町は春に近づくにつれ着実に人口密度が高まり、春の到来を素直に喜べない場所でもあります。

本日は412日土曜日。毎週末のルーティンでもある華金のお酒を清算するためのランニング。鴨川を南方向へ約5キロ走り、五条あたりの行き止まり地点で折り返します。昨晩は[ブランカ]でお腹がはちきれそうになるまで食べて飲み、丸山公園にある[薫]というバーへ移動しウィスキーのお湯割りを4杯いただき、最後は祇園の[おそば 宝来]で締めのお蕎麦という贅沢すぎる夜を過ごし、その余韻に浸りながらランニングを開始しました。今年の花見を楽しめる最後の週末(だろう)ということもあり、3週間ほど続いた桜の季節の終焉に儚さを感じながら、気温的な春の本番を楽しむ人たちで鴨川沿いも賑わいを見せています。

この日は10時頃には既に気温が20度近くまで上がっており、ランニングをして大量に汗を流せる大好きな季節が訪れました。10キロほど走り帰宅するとお腹も鳴り始め、ランニング開始直後から決めていたお昼ご飯を食らいに行くべく、ささっと冷水シャワーで汗を流し、体を冷却しました。

空腹も限界に近付き、急いで自転車を走らせ向かった先は[中華のサカイ]。ご存じの方も多いと思うのですが、[中華のサカイ]では冷やし中華(京都では冷めんと言います)が通年楽しめます。「日本の季節は暦通りの明確な四季で分けられているのではなく、日々細かな移ろいを重ねているのだ」と豪語しているかのような通年冷めん提供スタイル。代謝が良く暑がりな僕のような人間は、冬の温かな日や春の晴れた日にも冷やし中華を食べたい。いわゆる夏の風物詩としての「冷やし中華始めました」を待てない人間の大いなる味方なのです。

夏は当たり前のように炎天下の中で並ぶことを強いられるのですが、少し時期尚早ということもあり、この日はすんなりと入店できました。

冷やし中華(冷めん)はハム入りか焼豚入りを選べ、大盛や定食だって選べます。僕はいつも餃子と冷めん単品を頼み、夏は我慢できず生ビールを頼んでしまうのですが、この日は生ビールも頼まず、大盛にもしませんでした。この日の自制心を讃えてあげたい。そうこうしているうちに餃子が運ばれてきました。

[中華のサカイ]の餃子は少し小ぶり。餡は具材の刻みが細かく水分を多く含んだねっとり系。若干の塩味も感じます。そこに酢胡椒が爽やかさをもたらせば素晴らしい連携プレー。餃子を食べ進め、胃の準備運動を終えた頃に、冷めんが運ばれてきました。

まず初めにご覧いただきたいのが、冷めんでもあり「辛子和えめん」でもあるということ。多くの冷やし中華はお皿の縁に辛子が置かれ、辛子の和え方は食べ手に委ねられる形式だと思います。[中華のサカイ]の冷めんは有無を言わさず、既にパーフェクトなレシピ通りに辛子が麺とタレに絡まれている。辛子の濃い部分と薄い部分の差を恐れながら食べ進める必要もありません。食べ始めて直ぐに焼豚の力強いコクや甘みが活躍し始めたかと思えば、パリパリな海苔とシャキシャキな胡瓜の爽快感。これにもちっとした中太麺が優しく包み込むように絡まってくる。

 

箸を握った右手はとどまることを知らず、気づけばものの5分で完食。[中華のサカイ]に向かう自転車を漕いだ道中、少し汗ばんだ体が落ち着いた頃にはお店を去り、自転車をまた漕ぎ始めていました。店外には意外と入店を待つ人の数も増えており、気温の上昇とともに[中華のサカイ]で今年の冷めん開始宣言を待つ人も増え始めていたのでしょう。

さわやかな陽気だったので、帰りは少し遠回りをして鴨川沿いをサイクリング。もう既に花びらは散り始め、北から南へ下がるにつれて、桜の木々も白やピンクから緑へ変わっていく繊細な季節の変化を楽しみました。春を存分に感じながら、徐々に緑づく元気な芝生を見ていると、夏はすぐそこに待ち受けているという恐怖感すら感じます。夏支度のようなこの日の冷めんは、散った花びらが茶色から緑に色を変えつつある芝生に横たわっている鴨川のほとりと重なり、自転車を止めてカメラのシャッターを押しました。暦と実態が大きく異なる現代の生活で、その日の季節に合わせジャズセッションのように暮らしを合わせにいく楽しみ方をしていきたいと思う昼下がりでした。

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