
ラーメン熟考
第6回 中華料理に由来した種物~その他、店独自のもの〜
ついに種物中華そばも最終回。これまでどのくらいの方が、このニッチな記事を読んでくれたのか分からないが、日常のラーメンライフが少しでも豊かになっていたら幸いだ。ただ、もう少しだけおせっかいを言うならば、(一見繊細さに程遠い)種物こそ、乱暴に食べずに、スープとタネが交わるその境目を味わってみてほしい。きっと新たなラーメンの楽しみを知ることができるから。
中華料理に由来した種物
さて、最後に王道の種物。中華料理のメニューにも名を連ねるものだ。中華の麺料理のバリエーションは奥が深く、広げていくと大変になってしまうので、ここではメジャーなメニューのみにとどめておく。
・担担麺
・蝦仁湯麺
・排骨麺
【担担麺】
日式担々麺に至るルートは広く知られているように、四川省出身の陳建民が、もともと汁無しであったものを日本人向けにするため、よりポピュラーな汁物に仕上げたところに始まる。担々麺を種物とするには違和感もあるが、拙コラム『日式醤油担々麺と久田大吉の世界』でまとめたように、日本人の舌に合わせて改良された歴史でもあり、参考として載せることにした。
[はしご](銀座他)
日本人に最も寄り添った担々麺といえば、この[はしご]を思い浮かべる方も多いのではないだろうか。どろっとした芝麻醤たっぷりのものではなく、醤油ラーメンに担々麺テイストを合わせていく手法は、長く、広く愛される日本の担々麺のスタンダードを作り上げたといっても過言ではない。夜半の銀座、その食文化の代表でもある。
【蝦仁湯麺】
中華料理で非常にポピュラーな種物。いわゆる餡掛けのエビそばである。塩ベースのスープに乗り、スープの旨味を補う役割を果たす非常に秀逸な種物。
[鶏舎](池尻大橋)
町中華の名店として広く知られ、近年では冷やし葱そばが大人気だが、メニューの多くは種物に割かれ、そのすべてが秀逸だ。ネギそば、タンメン、肉細切り、五目うま煮、ザーサイそば、高菜そば、酢のきいた辛いそば等、種物オンパレードの中でもひときわ輝くエビそば。いわゆる蝦仁湯麺である。王道の味付けだが、くどくなく後を引く。庶民的なのに本格的。調理技術の確かさが光る種物中華そばの模範店である。個人的には圧倒的に冷やし葱そばより種物中華そばを推したい。
【排骨麺】
排骨は骨付きの豚バラを揚げたもの。それを醤油ラーメンに乗せる。中華料理というより台湾でポピュラーなメニューである。また、骨付きを乗せると食べにくいことから、骨付きが乗るケースは少なく、また、部位もバラではなく他で代用されているところも多い。スープに乗せるとその揚げ油は広がり、ソミュール液などに入る八角や五香粉などがスープに移ることで強い影響を与えるので、それも含めて楽しむべきメニュー。
[珉珉](鐘ヶ淵)
下町を代表する排骨麺。『濹東綺譚』の舞台となった墨田区4,5丁目、いわゆる旧玉ノ井地区を含んだこの周辺一帯。永井荷風はラビラントと呼んだが、今ではその名残を確認できるところも減ってしまった。ただ、キラリと光る飲食店が残り、ひとつのコミュニティを築いたことを伺わせる。[珉珉]の排骨は大人気だが、別皿でもらいビールのつまみにするファンが多い。そして後半、ラーメンの種物としてスープに鎮めるのが定番なのだ。
その他、店独自のもの
店のアイディアに端を発した、店オリジナルの種物。最近のラーメン店が差別化のために独自性を出そうとしたり、新たな食の提案として開発されたメニューが多い。
[うず担](赤坂)
元々は中華うずまきの別館として麺料理の店で出発。その後紆余曲折あり、うずまきの担担麺→[うず担]として2025年5月末に別館で再出発するとのこと(Instagramをチェック)。独創的な中華料理で魅せる店で、柑橘類を使った冷やし中華なども面白いので是非食べてほしいが、ハーブの塩ラーメンというメニューが良い。一面ハーブが敷き詰められた塩ラーメン。想像通りハーブの香りがラーメンに移る。だが、洋風に振り切らずラーメンらしさを残しているところがセンスの良さが光る。
[萬福飯店](下丸子)
地元に根付いた町中華という風情で、種物中華そばも多数そろえているが、注目したいのは胡椒湯麺。かつて品川駅港南口に天華というコショーそばを売りにするお店があったが、まさにあのラーメンのようなビジュアルである。とろみのある塩ベースのスープに胡椒がたっぷり。天華はブラックペッパーパウダーだったが、こちらはホワイトとブラックの併用。じわじわと体が温まる。
[新珍味](池袋)
創業1952年(昭和27年)創業。67年の歴史は創業者でオーナー、100歳となった現役の台湾人革命家・史明とともに台湾独立運動のアジトとして機能したと言われる。注目の種物は、中国北方の伝統料理・打滷麵がベースにした特製ターローメン。スープ全体がトロミがかったクセになる味だが、スタミナ麺的なニンニクの強い香りが、当時の時代背景の“匂い”と重なる。
種物中華そばで感じたいこと
主にラーメン専門店からみる種物中華そばを整理してきて、分かること。それは種物中華そばはいわば、「目に見える」ラーメン創意工夫の形だということ。ラーメンのトレンドはその逆で、スープやタレにどんどんと素材を潜り込ませる傾向にある。そんな時代だからこそ工夫が可視化されたタネがスープに与える影響、麺との絡み、を感じてみよう。種物を知るとラーメンはもっと面白くなる。
- Ramen Archiver
渡邊 貴詞 / Takashi Watanabe
IT、DXコンサルティングを生業にする会社員ながら新旧のラーメンだけでなく外食全般を食べ歩く。note「ラーカイブ」主宰。食べ歩きの信条は「何を食べるかよりもどう食べるか」
note.com/takashi_w/
instagram.com/acidnabe/
- TAGS