この酒いいよ、飲んでみて。
コラボ報告③ 鰻 かぶと×animism bar鎮守の森
今回は11月18日に開催しました池袋にある鰻の名店かぶと様とのコラボ内容を報告いたします。
言わずとしれた鰻を丸々と余すことなく提供してくれる名店中の名店! 部位によって焼き方によって白焼きかタレや焼きかによって様々な表情をみせてくれる鰻。 そのフルコースにどうやって合わせたかを説明してまいります。
①エリ(関東風) × 大典白菊(岡山県) 純米にごり生酒 winter bomb冷酒
口に含んでまず最初に感じたのがカリカリとした食感です。骨煎餅に近く、柔らかな脂味が滲み出し、 全体的に優しい味わいを感じたので、シュワっと爽快感のあるスパークリングで口の中に残る脂味を洗い流して リセットする役割としてこのお酒をセレクト。
ただし、お酒単体の味の膨らみや華やかな香り、フルーティな香りが強すぎると食材本来の良さを感知しづらくなる恐れがあるので極力透明感のある味わいで、立ち香も程よく、後キレの良い酒質のものという条件で選びました。
②エリ(関西風) × 櫻正宗(兵庫県) 純米生もと造り 焼稀 協会1号酵母 熱燗
口にしてまず感じたのが、身のホクホクとした食感と焦げ味、そして旨味と、まるで焼き貝を食べているようなグルタミン酸やグリシンやアラニンなどの独特な甘味。このうなぎの持つ豊富なミネラル質と近い味わいの酒を探しました。 ただ、硬度の高さに由来するキリッとした味わいだけでは鰻の身には合うとは思いますが、 焦げ由来の苦味にはどう対処するかで悩みました。
そこで、人間の舌で一番苦味を感知し、脳に苦いというデータを送る味蕾の数が多い舌の先端に熱を与えて苦味を感じづらくさせるという方法で、苦味を和らげようと、お燗で提供することにしました。 更に、人間が魚や肉や野菜などを焦がしたものを口に含んだ時により美味しいと感じる要素として、醤油や味噌などの調味料を加えた場合があるので、同じニュアンスの味わいを酒だけで表現する方法として、醤油や味噌に共通する「麹」の旨味が効いている酒質のものを選びました。
※櫻正宗は全国に多数存在する「正宗」ブランドの元祖の蔵。正宗の銘柄の由来は仏教経典「臨済正宗」からきています。 また正宗の音読み「セイシュウ」が「セイシュ」に近く縁起が良さそうというところもあります。 この蔵は「高精米白米仕込み」にいち早く取り組んだり、灘の名水「宮水」を発見しただけでなく、 協会1号酵母発祥の蔵でもあるというすごい蔵です。 江戸時代に正宗は、吉原や藩主の屋敷で評判を呼び江戸庶民に広がったそうですが、現在でも、 毎年赤坂御苑において行われる「春の園遊会」の振る舞い酒として櫻正宗 純米吟醸 金錦が出されています。
③ヒレ(タレ焼) × 岩清水(長野県) NIWARINGO 袋吊り生酒 冷酒
こちらは柔らかでねっとりとした食感で脂味の甘味と、タレ由来の甘味と旨味の絶妙なバランスの味わいだと思い、 そのバランスを崩さないよう、脂味を落とすわけでなく脂味と絡み合って一体感を成す様な酸があるお酒を選びました。 クエン酸や酢酸が強いと脂味を流しやすいのでその他の酸で選ぶ必要があり、香り成分が由来する甘味も取り組みたい狙いもあったので、カプロン酸エチルの香りもあり、リンゴ酸が突出して出ているもので脂味と絡み合わせ、新しい味わいの創造を狙って合わせました。
④奴 (塩) × 稲里(茨城県) 初しぼり 冷酒
こちらの奴は大豆の風味の濃縮感がすごく、それでいて繊細という何ともペアリングしづらい一品だと感じました。
決してこの素材の味わいを邪魔するようなことがあってはならず、派手な香りがあるお酒はダメで、かといって透明感のあるお酒では嫌味なく合うのですが面白みにも欠けるので、やや膨らみのある味わいでちょっと酸が強く、豆腐の中にそのお酒の味わいが刺さっていくようなイメージで豆腐単体にアクセントをつけられたらと思い、こちらのお酒を選択しました。
⑤心臓(生) × 金冠黒松(山口県) Joker 常温
こちらは独特のクセと喉元辺りで感じる鉄分に特徴を感じ、これをバサッと切るか風味を伸ばすか悩みました。 今回はこのクセが苦手な方もいらっしゃるかと思ったのでバッサリ切る方向性の味わいでチョイスしました。 ただ切るのも面白くないのでお酒を口に含んで新たな味わいを体験して頂けたらとこのお酒にしました。
このペアリングはかなりイチかバチかでした。アルコール度数も30度あるのでごく少量だけサーブしました。
⑥肝(タレ焼)+御飯 × 神渡(長野県) 純米辛口 冷酒
口にした時に甘味と苦味を同時にキャッチし、その上に覆いかぶさるように焦げ味を感知しました。 この肝の風味を邪魔せず最後に喉元でぐっと切れるような味わいで飲み込んでからの戻り香に熱のあるアルコール感と共にタレの風味が蘇り、「食べごたえ」「飲みごたえ」を演出できればと思いこのお酒に。 また、お酒単体でも御飯を食べるのと近い感覚に挑戦できないかと思い、アミノ酸とグルコース(ブドウ糖)のバランスが良いというものということでも選びました。
⑦一口蒲焼(タレ焼) × 不老泉(滋賀県) 山廃純米吟醸無濾過生原酒 総の舞 常温
素材本来の旨味を最大限に生かせるように、タレのコクと焦げの味の芳ばしさと似た味わいの性格を持つお酒でこちらを選びました。
⑧レバー(塩焼) × 鷹長(奈良県) 純米吟醸 冷酒
こちらはレバーの鉄分に焦点当てて。ミネラル感をだすため、水の硬度がかなり高く旨味とコクもあって、レバー本体の味わいと一体感を成すイメージを演出できたらと思いこのお酒に決めました。この蔵の仕込み水は214mg/ℓと全国1,300近くある蔵の中で、最も超硬水です。
⑨ぬか漬け(きゅうり・かぶ・長いも・人参 ) × 花巴(奈良県) 山廃純米吟醸無濾過生原酒 冷酒
かぶとさんのぬか漬けはかなり上品で優しい漬かり具合なので、その風味を引き伸ばすような膨らみのあるもので、 更にぬかと同じく乳酸をはっきり持つ酒質のものを選びました。 立ち香はメロンマスカット、味はレモンスカッシュ、後味は乳酸飲料です。
⑩白焼き × 穏(福島県) 純米吟醸 白麹 冷酒
白焼きにはっきりとした旨味と、噛むほどに滲み出る脂味があったのでお酒を合わせることにより味を変化させるマリアージュではなく、脂味をフィニッシュで洗い流す、レモンやグレープフルーツに近いクエン酸を強く出す酒質の酒を選びました。
⑪蒲焼き+御飯 × 二世古(北海道) 特別純米 彗星 冷酒
こちらはうなぎの甘味、旨味、タレ由来の塩味、酸味を強く感じ、そこに御飯を合わせると柔らかな味わいになり、 何杯でも御飯をお代わりしたくなる気持ちになりました。 そこで、御飯を食べていると脳に錯覚作用を引き出させるような、脳内刺激を与えるお酒ということでアミノ酸とブドウ糖のバランスで御飯に近い味わいを感じるお酒をセレクトしました。
⑫吸物 × 中乗りさん(長野県) 特別純米 ひやおろし 燗冷まし
こちらはやや塩味があり、グアニル酸(干し椎茸)やコハク酸(貝類)の旨味を感じたのでまとまりのある旨味の邪魔をしないように、お酒単体での旨味もまとまりがあり、お吸い物とお酒の味わいの着地点を喉元の1点に合わせられる様なバランスに優れた旨味系で選びました。
⑬タレ × ふた穂(奈良県) 雄町 山廃純米吟醸無濾過生原酒 27BY 常温
醤油タレ…逆三角形の形で縦に流れ込む鋭角な細い味わい→横に広げる酒器で 鰻+タレ(甘味)…シャボン玉が横に膨らむような広がりのある味わい→縦に伸ばす酒器で 上質な米の旨味を感じてもらえればと思い、このお酒をセレクト。
一番最後には特別に秘伝のタレそのままとそのタレに鰻の脂が滲みでたものの二種類にもペアリングいたしました。
かぶとさんの上品なぬか漬け、大豆の濃厚な味わいが口の中を支配するお豆腐にまで合わせていきました。
鰻1本にお酒を合わせる日が来るとは、、、(笑)
大変楽しく貴重なお仕事をさせていただきました。
かぶと
住所 : 東京都豊島区池袋
時間 : 2部制 ①17:00~ ②19:45~ ※完全予約制
定休日 : 日曜・祝日・木曜
- polyphony owner
竹口 敏樹 / Toshiki Takeguchi
映像カメラマンだった20代の頃、偶然立ち寄った酒場で日本酒のおいしさに開眼。独学で日本酒を学び、居酒屋勤務を経て東京・四谷に[酒徒庵]を開店。2015年に[酒徒庵]を閉店し、会員制の日本酒専門店[鎮守の森]をオープン。2021年には、サービスの朝日萌里さんとともに、自らが厨房に立ちラクト・オボ・ベジタブルのコース料理を提供する[polyphony]をオープン。著書に『もっと好きになる 日本酒選びの教科書』(ナツメ社刊)がある。
IG @polyphony2021
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