NEW STYLE SOBA SHOP

波と蕎麦前のグルーヴに包まれて 蕎麦 シカモア


RiCE.pressRiCE.press  / May 3, 2019

扉を開けると流れてくる、ジャック・ジョンソンの歌声。壁に投影されるのは、波乗りの映像。キャンドル作家による灯りが、店内のそこかしこをそっと照らす。どこまでも自由な空気が流れる店内で、「この道何10年という修業をして始めたわけではない分、自分の好きなものを集めた自由なお店をやりたかった」というのは、店主の小川亮さん。レコード会社に勤めていた20代後半、先輩に連れられ、「蕎麦前」のつまみをつつきながら、盃を傾け、蕎麦で〆る。その世界に魅了された。一方、レコード会社の制作として、例えば、アーティストがライブで観客に直接感動を伝えているのを目の当たりにしているうちに、お客さんの顔が見える商いへの興味がむくむくと芽生えてきたという。「そこでたどり着いたのが蕎麦だったんです」。かくして、会社を辞め、蕎麦修業の道へ市ヶ谷[大川や]を経て、豪徳寺[あめこや]で修行を積み、2013年に独立した。揚げもちおろし ¥1,050

メニューには、定番のつまみと蕎麦以外に、「千葉産だるまイカとクレソンのナムル」「山形産サラダ白菜とズワイガニの柚子サラダ」など、日替わりのおすすめ料理がA4の紙2枚に渡ってずらりと並ぶ。常連たちから愛を込めて「蕎麦にたどり着けない蕎麦屋」と揶揄する所以が、この熱量の高いメニューだ。「最初は一枚に収めていたんですが、週3回ほど豊洲に出入りしているうちに、いい食材に出合うとあれもこれもとなってしまって」と笑う。その蕎麦前を、しっかり支えるのが、小川さんが厳選した日本酒。米の旨みが特徴の滋賀「七本槍」と、フルーティで飲みやすい三重「而今」の2トップを筆頭に約15種類が揃う。
自家製の熱々な厚揚げ ¥700

と、ここまでが蕎麦前的な話。肝心の蕎麦は、様々な産地のものを使いたいため、粉を仕入れることもあるが、基本的には「挽き立て、打ち立て、茹で立て」。「おつまみを食べた後もさらっと食べられるよう、細かく挽いています」と言うだけあって、蕎麦粉十割だが、軽やかな喉ごしに思わず目を見張る。これなら大丈夫。「蕎麦にたどり着けない蕎麦屋」の正体は、「好きなように楽しんでも必ず蕎麦にたどり着ける蕎麦屋」なのだった。店主の小川亮さんの口からは、食材と同じくらい、刺激を受け合う次世代蕎麦店の店主、好きな陶芸家や蔵元など人の名前が次々に飛び出し、人との繋がりの深さが垣間見える。蕎麦のうつわは、広島県「惣堂窯」掛谷康樹さんによる練り上げの鉢。蕎麦シカモア
東京都世田谷区世田谷3-3-1 COMS SETAGAYA B1F
17:3025:00
月曜、第一火曜定休
Tel.03-6413-5653
http://soba-sycamore.jp/

 

撮影 きくちよしみ、文 浅井直子

当記事はRiCE No.10「蕎麦の新作法」の記事をWEBサイト用に再編集しています。
RiCE No.10の内容を見る。

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