エディターズノート
「RiCE」第20号「日本酒」特集に寄せて
おかげさまでRiCEは創刊5周年、通巻20号を迎えました。ありがとうございます。この節目となる今号の特集は、久しぶり二度目となる日本酒の特集です。前回が創刊1周年、通巻5号のタイミングでしたので、やはり節目がある度にお祝いしたくなっているのかもしれません。なんといっても日本酒は米が原料ですし。
そういえばRiCEという雑誌名は、日本人にとっての主食、ごはんから来ているわけですが、「ごはん」といえば日本語でフード全般を指すこともあり、フードカルチャー誌としてそのダブルミーニングをかけていました。「日本酒」という呼び方もビールやワインなど他のジャンルとの住み分けであって、本来はお酒と言えば日本酒、海外でもSAKEと呼ばれています。ごはんにしろお酒にしろ、さすが日本人。米由来のものがそのまま代名詞になるあたりに古より深く根付いた食文化を感じます。そしてごはんがどんなおかずにも合うように、日本酒はどんな料理にもペアリングが可能です。コメってすごい。
和酒、国酒とも呼ばれる日本酒は、基本的には無色透明のクリアな清酒のことを指しています。米と麹と水でできており、実は水が成分の約8割を占めている。お米はもちろんですが仕込み水の性質によって大きく味やテクスチャーが変わってきます。硬水か軟水か、そのどっち寄りなのかによって成分も変わってきます。加えて、お米の種類をどうするか。酒米として山田錦が有名ですが、それ以外にも日本酒に向いたお米はたくさんある。さらに麹。これは米由来のカビの一種です。そして酵母。これはいろいろな種類がありますが蔵によっては住み着いた天然酵母だけで造るところもあります。
いずれにしろ酒造りには、限られたファクターの中に選択肢が複数あって、その組み合わせや製法は無数。とても変数が多いのです。
だから日本酒は、驚くほどいろんな味と香りのバリエーションがある。そこがファンにとっては堪らない。ハマる要因なのだと思います。近年さらにその傾向は大きくなって、1500以上あると言われる全国の酒蔵は、美味しくて新しい日本酒の味わいを毎年競い合っています。
今回の特集を通していくつか酒蔵を取材させてもらいましたが、いやどこも本当に面白い。酒造りは新規参入の難しい伝統産業です。創業何百年という蔵もざらにあって、何代にもわたり酒造りは受け継がれている。もちろんただそのまま受け継ぐだけでなく、時代に合わせた変革も必要だったりするわけで。その長いヒストリーにはそれぞれの物語があり、大河ドラマにできそうなほどエピソードが多い。
ただ同時に感じたのは、杜氏も兼ねた蔵元というのは表現者だということ。今風の言い方をすればクリエイティブディレクターかもしれません。もちろんこれまでも料理人の方々を取材する中でアーティストだなあ、と感じ入ることは多々ありました。ただ、それともちょっと違う。伝統を背負っていく覚悟、そしてそれを自分の経験と才覚でアップデートしていく気概のようなもの。そう、日本酒はかっこいいんです。
このコロナ禍をくぐり抜けながら、我々は強くなった。そう信じたいですが、日本酒もまたさらに美味しくなった気がします。そろそろ笑顔で乾杯しましょう。
- RiCE.press Editor in Chief
稲田 浩 / Hiroshi Inada
「RiCE」「RiCE.press」編集長。ライスプレス代表。
ロッキング・オンでの勤続10年を経て、2004年ファッションカルチャー誌「EYESCREAM」を創刊。2016年4月、12周年記念号をもって「EYESCREAM」編集長を退任、ライスプレス株式会社を設立。同年10月にフードカルチャー誌「RiCE」を創刊。2018年1月よりウェブメディア「RiCE.press」をロンチ。
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