おいしい裏話
「教えたくない」(RiCE No.27に寄せて)
ただでさえ混んでいて入れないことがあるので、ほんとうは教えたくないけれど、つぶれたらもっと困るので書いてしまう。その居酒屋とは、神山町にある[滝乃家]だ。
焼き鳥も、しゅうまいも、ものすごく普通においしい。そしてお酒に合う味つけ。茶碗蒸しや焼きそばがたまにあるときは絶対頼まなくちゃ! そんなお店だ。
お皿も高級じゃないし、お座敷の薄い仕切りは寄りかかるとマジで後ろに倒れる。トイレのインテリアが超昭和。いや、言ってしまえば全てが昭和なんだけれど、お客さんはいろんな層が入り混じっていて、みんな幸せそう。
この世の中に楽園があるとしたら、こういう居酒屋だと思う。
いろんな年齢の人がいて、家族連れもいて、それぞれが好きなものを食べられて、でもファミレスではないし、堅苦しくない。ありとあらゆる人間模様があるけれど、ほとんどの人が幸せを感じている場所。近所にあったら毎日通ってヤバかったと思う。
1964年、東京生まれ。日本大学藝術学部文芸学科卒業。87年『キッチン』で海燕新人文学賞を受賞し小説家デビュー。88年『ムーンライト・シャドウ』で泉鏡花文学賞、89年『キッチン』『うたかた/サンクチュアリ』で芸術選奨文部大臣新人賞、同年『TUGUMI』で山本周五郎賞、95年『アムリタ』で紫式部文学賞、2000年『不倫と南米』でドゥマゴ文学賞、2022年8月『ミトンとふびん』で第58回谷崎潤一郎賞を受賞。著作は30か国以上で翻訳出版されており、海外での受賞も多数。近著に『下町サイキック』がある。