この酒いいよ、飲んでみて。
料理人の作家性とその料理にお酒を合わせる意義
日本酒低迷期に感じた疑問
私は自身の店 [animism bar鎮守の森] の営業とは別に他カテゴリージャンルの飲食店様とのコラボイベントを定期的に開催している。
そもそもの発端は今のように日本酒が広く飲まれる以前、日本酒が低迷期の時でした。色々なジャンルのお店に食事に行って (例えば日本料理店、鮨屋、蕎麦屋、天ぷら屋……) メニューを広げるとドリンクの欄にはビール、焼酎、ワインのリストはかなり品数があるのに対し日本酒はせいぜい多い店でも8アイテム、ひどい時は「冷酒・燗酒」しか表記していないお店、もっとひどい時にはお店に日本酒自体置いてないお店もありました。
日本の料理になぜ日本酒を合わせないのだろう?
なぜ、ワインのリストがこんなに豊富なんだろう?
と疑問に思ったからです。
古くから日本で発展を遂げた料理と日本酒を合わせないなんて勿体ない! 「みんな、わかってない! たしかに人気は低迷してるけど偏見なしに飲んで食事と合わせると日本酒の懐の広さに感動するじゃないか!」と若かったせいもあり不満が募っていきました。
シェフの創りだす料理と日本酒のペアリング
そんな時、ふと気づいたのです。日本料理店、鮨屋、蕎麦屋、天ぷら屋等のメニューにこれほどまでにワインが載るのであれば、逆にフランス料理店やイタリア料理店のドリンクメニューリストに日本酒が並んでいたらどんなに楽しいだろうと。そう考えるうちにメラメラと野望が沸いてきました。しかし、実際にフレンチやイタリアンに日本酒が合うのだろうか?
「試してみたい」
そこで仲のいい飲み仲間が経営しているフレンチやイタリアンのお店にお願いして、こちらの想いを理解していただきスタートしたのがこのコラボイベントの始まりでした。各シェフの創りだす料理に日本酒をペアリングしていくという内容です。そして徐々にこのコラボイベントが噂になり様々なジャンルの料理店のシェフ達と競演をさせていただく幸運に恵まれました。
昨年からですと、[銀座レカン] の高良シェフ (イベント当時) 、[JEAN-GEORGES Tokyo] の米澤シェフ、[unico-co] の辻田シェフ、[鮨なんば] の難波大将、[apero.] のクロエシェフ、[デセール ル コントワール] の吉崎シェフ、[KEISUKE MATSUSHIMA] の松嶋シェフ、[鳴神] の鳴神シェフ、[豪龍久保] の久保板長、[釜津田] の釜津田シェフとコラボイベントをさせていただき毎回大きな収穫を頂きました。今年もあと8店舗様との新規コラボイベントと4店舗様との2回目のコラボイベントが企画されています。
▲ 鳴神シェフと
▲ コントワール吉崎シェフと
▲ 難波 大将とのコラボイベントシーン
▲ 銀座レカンの高良シェフと (イベント当時)
▲ レカン×鎮守の森のコラボイベントメニュー
新しい味わいを生み出す苦しみと面白さ
こうしたコラボイベントをやっていく中で元々、私の中にあった「日本酒に国境はない」「各国の料理にも日本酒は合う」という想いに変化がおきてきました。それは料理のジャンル、例えば「フレンチ」や「イタリアン」というカテゴリーでは捉えきれないシェフたちの作家性が強いということに影響します。
文学で例えると「日本文学」「フランス文学」「ドイツ文学」「ロシア文学」「英米文学」などのカテゴリーでは捉えきれないのが現状の「世界文学」であるのと同じで、「ハンガリー出身の作家がフランス語を使ってアメリカで執筆した作品」「日本人作家が英語を使ってインドを舞台に執筆した作品」「オーストラリア出身の作家が死の世界を舞台にした物語をクレオール語で伝えた作品」等のように、「日本人シェフが日本の食材を使いフレンチの技法を駆使して創った料理」「フランス人シェフがペルーの食材を使って創りだしたイノベーティブ料理」というように枠では囲いきれない世界観が存在する。
フランス料理に日本酒を合わせる
イタリア料理に日本酒を合わせる
そんな形式では成り立たない世界観が各シェフにはあって、そこに日本酒をペアリングしていく喜びというか第三の新しい味わいを生み出す苦しみというかものすごく面白いのだ。面白いという言葉を使うと伝わりづらいだろうか……『おもろい』の方がしっくりくるだろうか?
その様なシェフ達とコラボをしていく中で、ふと「国は関係ないのでは? 歴史の中に生まれ、歴史の上で変化を遂げるのでは? 」という疑問が沸いてくるのです。それならそうと各シェフの世界観やメッセージ性をどうやって自分が捉えるか? 味わいのどの部分をもぎ取って日本酒に合わせて新しい味わいを生み出すか! という楽しみ方に変わりつつあるのです。
「今ある、味わいの解体と新たな味わいによる世界の再構築」をテーマに最近は挑んでいる自分が存在しています。正直、そのイベントに参加されたお客様よりも私自身や各シェフ達が一番楽しんでいる部分もありますが……
これから、そんな各シェフとのコラボイベントの状況を報告したいと思います。なぜ、その料理にそのお酒を合わせたのか?その様な細かい事も覚えている限り書いていきたいと思います。
次回掲載する予定のコラボ報告書の第一回では南青山のジャポネーゼフレンチ [鳴神] の鳴神シェフとのコラボイベントの内容を振り返りたいと思います。
animism bar 鎮守の森
住所: 東京都新宿区四谷3-11 第二光明堂 B1F
時間: 18:00〜22:30 (月〜金 )、15:00〜20:00 ( 土・祝 )
電話:050-3630-3175
完全予約制
定休日: 日曜日
- polyphony owner
竹口 敏樹 / Toshiki Takeguchi
映像カメラマンだった20代の頃、偶然立ち寄った酒場で日本酒のおいしさに開眼。独学で日本酒を学び、居酒屋勤務を経て東京・四谷に[酒徒庵]を開店。2015年に[酒徒庵]を閉店し、会員制の日本酒専門店[鎮守の森]をオープン。2021年には、サービスの朝日萌里さんとともに、自らが厨房に立ちラクト・オボ・ベジタブルのコース料理を提供する[polyphony]をオープン。著書に『もっと好きになる 日本酒選びの教科書』(ナツメ社刊)がある。
IG @polyphony2021
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