“曲作りという一番かっこいい現場”を観てもらう映画

『くるりのえいが』公開記念。オリジナルスリーピースの「くるり」インタビュー


RiCE.pressRiCE.press  / Oct 13, 2023

スリーピースのくるりが帰ってきた——。
舞台は伊豆スタジオ。オリジナルメンバーの森信行さんが参加しての新作の制作風景を追いかけたドキュメンタリー映画『くるりのえいが』が、10月13日(金)に全国劇場3週間限定公開&デジタル配信開始を迎えた。

“原点”を求め、新たな音楽が生まれる瞬間に向き合った3人の姿をありありと描く本作は、長年のくるりファンのみならず、音楽ファン、あるいはものづくりに向き合う人にとって貴重な体験となるはずだ。

RiCE.pressでは、くるりの3人+佐渡監督にインタビューを敢行。映画で描かれた3人それぞれの気持ちの動きを語っていただくとともに、食にまつわる質問も投げかけてみた……!

“3人で集まったからこその曲”ができたらいいよね

——『くるりのえいが』拝見しました。ゼロからイチを立ち上げる姿を捉えた貴重な作品に仕上がっていると感じました。あらためてですが、この3人で新作を作ることになった経緯から伺いたいです。

岸田 DTMなどを使ってしっかりと下地を作ってバンドに投げるという、割と緻密な編曲前提で曲を作ることが近年は多かったんです。ギター弾き語りでデモを作るという時も、歌詞含めてある程度形になったものを編曲していくという。でも元々(岸田、佐藤、森の)3人でバンドを立ち上げた当時というのは、曲も何もない状態でスタジオに入って、ぽっと出のアイデアから3人で作り上げていくということをしてたんですね。時間の制約だったりとか、色々な理由で最近そういう方法ができてなかったので、今回はそういったことを久しぶりにやりたいねということでもっくんに声をかけました。

岸田繁さん

佐藤 もっくんが離れた後にも他のドラマーさんとセッションを重ねる機会もあるにはあったんです。でも、その形を久しぶりにバンドとして試してみたくなったんです。この3人っていうのは、例えば、何かのイントロが始まった時にそこに乗っかる力がすごく強いという印象がありますね。それきっかけで曲ができていく感覚を知っているから、それを今やったらどうなるだろうという。怖さもあったんですけど、やってみたいなと。でも、最初からアルバムを作る話をしていたわけではなかったんです。“3人で集まったからこその曲”ができたらいいよねってぐらいで。それが映画を撮っていただいていて、期間も長く取れたので途中から「これだったらアルバムができるんじゃないか」というようなことで、自分たちの落としどころができました。

佐藤征史さん

 最初は本当になんにもないところ、まっさらなところからパッと降りてきたものを弾いて「こんな感じ?」みたいなインスピレーションを大事にしていました。それがすごく楽しかったしハマりましたね。今回、伊豆スタジオというところでやっていたんですが、曲を作りしながら同時にレコーディングするような、スピード感とか周りの環境とか色んな要素があっていい時間になったと思います。伊豆スタジオは、二人はくるりとして過去に使用したことがあって、僕も違う方とのレコーディングでお世話になったことがありました。だから伊豆でやろうってなった時には「絶対いい。ぜひやろう」と。

森信行さん

何が“くるりの曲はいい”と感じさせるのか?

岸田 根拠のない自信じゃないですけど、「なんか上手くいきそう」っていう感覚は最初からありました。けど、あんまり欲張るとよくないという感覚も同時にあったので。率直にセッションしてからギアを一段二段上げられればと思っていた中、数曲分アイデアがぱっぱっと出てきたんです。作る前に考えていたイメージに縛られることなく「今こういう感じなんやろうな」っていうなんとなくのテンションと音楽的リファレンスが出た感じがしたので、あんまりそこから逸れることなく一曲ずつバリエーションつけて作っていければと思った感じだったと思います。

——「アルバムが作れるかも」と感じたのもそんな時だったんですかね。

岸田 アルバムって作ったら聴いてもらいたいし。ただ、こういう時代だからあんまりアルバムで聴かれない感じもあるんです。あんまりコンセプトアルバムっぽくすると、なんというか荷が重いかなっていうのは考えてたんですけど、近年のくるりの曲と比べたらサイズも短めで、割とこう最近のJ-POPとかとは違う感じだけど、僕らの中ではポップ。そんな曲がある程度揃ってきたので、これならいい感じになるんじゃないかなと。

——監督が映画を撮るとなった時、まだアルバムまで行きそうな感じではない段階でしたか?

監督 はい、そういう感じではなくて、とにかく1曲は完成させた方がいいよねって感じでした。でも、作り始めたらどんどんと。撮り始めた当初は、基本的には曲作りを追うということで、要素がこんなに少ないのも珍しいほどで、どうなんだろうとは思っていました。でもやっていくうちにだんだんこっちも自信が出てきた。撮影開始から5ヶ月くらいでしたかね。

佐渡岳利監督

——撮りながら探るというのがドキュメンタリーの醍醐味だとは思うのですが、監督が注目した点というのはどんなところでしたか?

監督 「くるりの曲っていい曲だ」ってみんなが思っている。では何故そう思うのかを個人的には知りたいと思っていました。“くるりの何がいいと感じさせるのか”の部分をちょっとでも掴みたい、その奥には何があるんだろう?という思いはありました。それが段々撮らせていただいているうちに「こういうことなのかな?」というか。

——言葉で言うと?

監督 それが難しいんですよ……。「膨大な音楽的なバックボーンがある中で、そこをあえて商業的にやっている」……というとそれっぽいのですが、これも真実とはちょっと違うんですよね。

岸田 “細長いムニュムニュしたものが入ってる塩辛いの使った何か”みたいな(笑)。

一番原点を見てもらうとどうなるやろ

——長期密着は初めてですか?

岸田 そうですね。こういった形で世に出るものは初めてです。

——音楽を作るという、ある意味“密室作業”を誰かに見られながらする体験というのは実際どう感じましたか?

岸田 昔は僕もそういうのを見せる必要ないと思ってた側でした。これはひねくれた考えかもしれませんが、僕はこの仕事をしている人の中では目立ちたくない方なんです。もちろんウェーイってなりたい瞬間がないわけじゃないですけど、佐藤さんもその傾向はあると思うし、もっくんは別の宇宙にいらっしゃる(森 笑)。だからちょっとロックスター然とした感じとか、そういうのをやれって言われてもできない。それは恥ずかしいからですって簡単には答えちゃうんですけど、やる意味がないって思ってるんです。それよりは音楽を作るということだったり、曲自体が主役で、そっちが目立ってほしいので。くるりとか僕自身が今2023年にデビューしてたら、顔隠してやってると思います。ソングライティングの過程は人に見せないことが前提じゃないんじゃないかって。実はそれが一番かっこいいんじゃないかと。僕は大学で長いこと教えてたんですが(2016年に京都精華大学ポピュラーカルチャー学部客員教授に就任)、受け持ってる生徒たちは目の前で曲を作るんですね。曲作りの具体というか、ひらめいてパパパってやってる瞬間を見るとすごく盛り上がるんですよ。同じ曲作る身としてそれが一番見たい。「ライブより見たい」って思っちゃう。だから自分達の曲の作り方を見せる、それを映像にするとしたら何かって思った時、「一番原点を見てもらうとどうなるやろ」っていう。自分達で見て恥ずかしいと思う部分もあるかもしれないけどいい記録にもなるだろうと思いました。

——踏まえて、完成映画を観られた時にどのように感じましたか?

佐藤 今繁くんが言ってた「曲が一番大事」という思いは、特に震災の後に現地でライブしていて強くなってきたと思います。人の手に届いてから何年何十年と残るわけじゃないですか。“自分たちにとって一番強いもの”が生まれる瞬間というのを、真っ先に届けられるのは本当にありがたいなと思いました。生まれるところから撮っていただいてたので、変な言い方すると「曲も喜ぶやろな」っていう。今回は特に映画っていう単体のもので、じゃあ何ありきなんだって言ったら曲ありきでしかないんです。そういうふうに作っていただいたのが嬉しかったです。

 最初観た印象は「映像が綺麗やな」って思ったんです。音楽ありきなんですけど、音楽をやる時ってもっと色んな刺激が実はあって。そういうところを見たときに綺麗だなって。暑かったなとか海行った時の波の音がしてたり、ご飯が美味しかったなとか。そういう面白さも映画に含まれていました。

岸田 これは僕のひねくれた考えかもしれませんが、“こういう辛いことがあったから曲ができました”とか多いと思うんです。そういったものでも安直に感動してしまう方なんですけど。でも全ての音楽がそうやって作られているわけではないので、人に説明してもどうやって出来上がったかわからない名曲って山のようにあると思うんです。さっきもっくんが言っていたみたいに、「木が揺れてたな」とか意外とそういうものだったりとか。強い思いを持ってこういうものに打ち勝ってみたいなシーンは、もちろん人生には度々訪れますけど、そういう時に僕はあんまり曲を書いていないかもしれません。むしろ木が揺れているのを音楽にすることの崇高さというか。そっちにいろんな可能性とかを感じるし追求したい。この映画はかなり新しいジャンルになる気がします。

——最後に一つ質問を用意してきたのですが……「スリーピース」につなげて、みなさんそれぞれにとって欠かせない食の要素を3つ挙げるとしたら何でしょうか?

岸田 おーちょっと本気で考えていいですか?……まずは「土地に根ざした発酵食品」。

——例えば?

岸田 鮒寿司です。一番好きです。

佐藤 映画に入ってないけど、くさや食べて盛り上がったことありましたね。

岸田 自分で漬けます! あとは、その食べ物に合う美味しい「土地のお酒」。最後は、「菜葉炊いたん」。

 田舎に畑を借りられるところがあって広めの菜園で旬の野菜があるんですけど、母親がいつも段ボールに入れて送ってくれるんです。色んな風に料理して食べますけど、その季節季節の旬のものは毎年美味しく食べてますね。あとは、あんまり漫画読まないんですけどたまに『ゴルゴ13』を読むことがあって。そのときに食べるセブンイレブンの「カリカリコーン」。

一同 (笑)

 僕の中でセットなんです。カリカリコーン、バーベキュー味。3つ目……ちょっと考えます(笑)。

佐藤 僕は「大葉」「青唐辛子」「黒霧島」です。昔「私の血はワインでできている」って言った人がいたと思うんですけど、“自分の半分以上は黒霧島”です! 家の冷蔵庫に切らさないのは大葉。お刺身でもスーパーで買ってきたものとかちょっと匂いするかもって時に一枚ずつ巻いて食べるんです。焼肉とかでもエゴマとかあった方が量食べられる。最高なのはしらすに大葉細くしたやつでご飯を食べる。伊豆の方に「うずわ」っていう食べ物があって、叩いてなめろうにした青魚に青唐辛子を刻んで茗荷や大葉も入れて、味噌も入れるという。それを、伊豆スタジオに何回も行っていたのに最近になって初めて食べたんです。僕辛いの大好きなので、普通の赤唐辛子とかは何にでも多めに入れちゃう方なんですけど、青唐辛子の美味しさにはうずわで初めて気づいて。それからお店で売ってたら絶対買ってキープしとく。3日に1回くらい自分で作って食べてましたね。森さん、3つ目?

 日本酒って普段あんまり飲まないんですけど、福井の「黒龍」ってお酒の純米吟醸を割と常備してます。ワインみたいな感覚で飲める、かなり上品なお酒。さっきのおやつとはだいぶかけ離れてますけど(笑)。

佐藤 3つ全部混ぜて食うたら不味そうやな!(一同笑)

『くるりのえいが』
2023年10月13日(金)より全国劇場3週間限定公開&デジタル配信開始

スタジオという小宇宙で未知の音を探す旅
新たな原点を求めて集まったオリジナルメンバー新アルバム誕生のドキュメント

◯映画公式サイト:qurulinoeiga.jp
◯映画公式Twitter:@qurulinoeiga
◯くるり公式サイト:quruli.net

1996年、立命館大学の音楽サークル“ロック・コミューン”に所属していた岸田繁、佐藤征史、森信行により結成されたくるり。当時のメンバーが伊豆に集まりアルバムを制作した過程を追いかけた、くるり初となるドキュメンタリー映画『くるりのえいが』。オリジナルアルバムは2022年から制作作業を開始し、伊豆スタジオを中心に0から1を生み出す作業を何度も重ね、岸田繁、佐藤征史、そして何より森信行を迎えたからこそ完成した楽曲が名を連ねることになった。くるりが今なぜ3人による曲作りを選択し、どのように曲が生み出されていったのか、普段は見ることができない音楽制作現場に密着。
出演:くるり 岸田繁 佐藤征史 森信行
音楽:くるり オリジナルスコア:岸田繁
監督:佐渡岳利 プロデューサー:飯田雅裕
配給:KADOKAWA 企画:朝日新聞社 宣伝:ミラクルヴォイス
©️2023「くるりのえいが」Film Partners


Photo by Eisuke Asaoka
Hair Make by Kyoko Kawashima
Styling by Masayo Morikawa
Interview by Hiroshi Inada (RICEPRESS)
Text by Yoshiki Tatezaki (RICEPRESS)

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