水野仁輔のスパイストリップ

「時間を味わう水出しコーヒー」in 韓国・ソウル


Jinsuke MizunoJinsuke Mizuno  / Jun 7, 2018

人間の味わいとコーヒーの味わい

放っておけば時間が解決してくれる料理というものに愛着が沸くようになったのは、40歳を過ぎてからだ。

だしを取ったり、マリネをしたり、煮込んでみたり。その間に僕が手を動かすことはほとんどない。煮込み料理はともかく、水に昆布を浸しておくとか、ヨーグルトに鶏肉を漬け込んでおく行為は、調理といってはいけないかもと思うほどシンプルで手がかからない。手がかからないのに手間がかかっている。だから、おのずと味はうまくなる。

放置している間に僕が何をしようと自由だ。仲間と酒を飲んで語らい、映画を観て、ぐっすり眠りについても、かけた時間だけ仕事をしてくれる。

ソウルの町中にあるコーヒー屋さんに連れて行ってもらった。オシャレな店内は焙煎した豆のいい香りに満ちている。ガラス張りの調理スペースに目をやると水出しコーヒーがずらりと並んでいた。一斉に、でも静かにポツポツとコーヒーを落とすその姿は愛くるしいものがあった。

あれだけ時間をかけたって、飲むときは数分なんだよな。贅沢なもんだと思う。

人間の “味わい” もあんな風に経年と共に深まっていくのだろうか。年を重ねた人の素敵さと水出しコーヒーがオーバーラップする。でもなぁ、立派な人は立派に努力して時を重ねてきているんだよな。何もしないで人間性が素敵に成長することは、ないだろうなぁ。

少しだけ気を引き締めてコーヒー屋を後にした。

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