設計を手掛けた谷尻氏・吉田氏とのトーク

[ブルーボトルコーヒー 代官山カフェ]はこうして生まれた


RiCE.pressRiCE.press  / Feb 8, 2024

代官山駅前に開業した新たな複合施設[Forestgate Daikanyama(フォレストゲート代官山)]は、その名の通り「森」のような有機的な空間の中に住・働・遊の各施設が融合している。「日本食品研究所」の店舗、研究所、調理室の他、さまざまな美味しいスポットが誕生していて注目だ。

中でも、人気のカフェ「ブルーボトルコーヒー」は、国内24店舗目となる[ブルーボトルコーヒー代官山カフェ]を12月20日にオープンし、代官山・八幡通りの新たな顔となっている。

空間設計を手掛けたのは、ブルーボトルコーヒーとは初となるサポーズデザインオフィス。オープンを目前に控えたこの日、同オフィス共同代表である谷尻誠さんと吉田愛さんが、ブルーボトルコーヒージャパン代表の伊藤諒さんとトークを行い、「循環するカフェ」をコンセプトにした同店が代官山でどう育まれていくかイメージを語った。

サポーズデザインオフィスの谷尻誠さん(右)と吉田愛さん(左)

谷尻 サンフランシスコに行ったときに、すごくかっこいいところを見つけて、写真を撮ってたんです。それがブルーボトルコーヒーの1号店だと知らずに、「何なんだこれ?」って。ビル自体もかっこよくて、表札を見たら2階に設計事務所が入っているということで、ピンポンを押して入らせてもらったほどです。後々になってブルーボトルコーヒーだったと分かった感じで。でも、そこから巡り巡って今回お仕事をさせてもらえたということで、あの時が始まりだったのかなって自分の中では結びつけてしまいますね。

伊藤 それは初めて聞きましたね。その建築事務所というのは、もともと(創業者のジェームス・フリーマン氏が出店していた)ファーマーズマーケットの常連さんで。「1階のガレージが空いているからここでお店できるんじゃない?」って言ってもらってできたのが、あの1号店だったんです。

吉田 私は、10年くらい前にニューヨークで初めてブルーボトルコーヒーに行きました。長い行列ができていたんですけど、待たされているという感じがしないというか、お客さん同士わいわい楽しそうに会話しながら待っていて。その行列の先には、ドリップコーヒーをすごく丁寧に淹れているスタッフさんの姿があって。その感じが印象的で、ゆっくりコーヒーを楽しむことができるコーヒーショップなんだなと感じました。それ以来、日本にもお店ができるたびに話題になっていましたし、今回お話をいただけて私も嬉しかったです。

対話を通じて立ち上がった空間

吉田 設計にあたってはいつも「このエリアがどういう場所なのか」を考えます。地域、文化、地形など、この代官山という場所が持っているコンテクストを取り入れたものにしたいという思いがありました。地形的に代官山は少し高い場所にあるので、代官山らしさは「丘のような構成」としてお店の設計に取り入れました。外には植物がたくさんあったり、お店も外に染み出しているようなところが多いので、外の道をそのままお店の中に引き寄せるようにして、キッチンを中心として道がラウンドしていく。そういった構成を最初にゾーニングしました。

谷尻 まず、サステナブルというのはテーマとして一つありました。あとは、いろんな方が生活したり仕事で来るところなので、「そこでのコーヒー体験ってどういうものか?」ということを、対話ベースでつくらせてもらった感じですね。

吉田 最初は、すごく自由に提案してくださいっていう感じで、すごくやりやすかったです。

谷尻 なんか「最初は」ってつけると逆説みたいだけど(笑)。いやいや、やりやすかったですね。

伊藤 「うちはこうなので、これでやってください」っていうやり方だと一緒にやる意味がないと思っていて。でも、全部おまかせにするつもりもありませんでしたので、ある枠の中でお互いに考えていることのキャッチボールができるといいなと思っていて。そう感じていただけてありがたいです。

トークのやりとりからも、3人の打ち解けた空気感が感じられる

「循環するカフェ」をコンセプトに

伊藤 コンセプトを決めるにあたって難しいことは何かというと、私たちはコンセプトというものをあまり言語化しないんです。この方向性ですよねっていうところで、感覚として共有できているから、何か微調整が必要になればしていく。今回はそういうことができて、良かったと感じていますね。

吉田 あまり言語化せず曖昧なままにするということに続けると、私の「丘のような」という表現もそうで。公園のようなおおらかな場所になってほしい、という思いもありました。たとえば、公園に行ってちょっとした段差があったら腰掛けたり、木があったら陰で休みたくなったりすると思うんです。限定的な使い方は示されていなくて、自然と人が自由に使いたくなるような要素がある。このお店もそういう感じにしたいなと思っていました。でも、代官山らしい、落ち着くラグジュアリーな感じもほしいなと思っていたので、ベンチというよりソファーのようなしつらえを用意するというチャレンジもしました。そうした感覚を共有しながら、お客さんにどういうふうに座ってもらうか、テーブルはどうするか、ということを話しながら進めていきました。

伊藤 色んな意味で境界を曖昧にしていくというのが、滞在の面白さやワクワク感を作っていく一つの要素かなと思います。ソファー席にしても、ベンチとソファーの間みたいな感じにしたのですが、それも同じ理由です。ラグジュアリーとカジュアルの間とか、色んな境界を曖昧にしていくことで多様性のある場所ができる。代官山に住んでいる人たちや近くに勤めている人たちが、自分の書斎やリビングルームのように使うこともできるし、遊びにきた人たちにとっては「代官山らしい場所だな」と楽しむこともできる。曖昧にしながら、公園のような作り方をするのが、この街に合うんじゃないかなと。

谷尻 自分自身を振り返ってみると、若い頃って空間を作るときに頑張ってしまうというか。これなんだって強くメッセージを出したい時期は正直あったと思うんです。でも、「自然って何なんだろう」といったことを考えていくと、「頑張らないこと」だった。デザインも手の跡が残りすぎないように、一見さらっとできているんだけど気持ちいいとかそういうものだと思うんですよね。だからできるだけ無理せず作る。僕らがやったということよりも、なんか気持ちいねっていうのが残っていれば最終的には良いと思ってきている。おしゃれすぎると緊張するじゃないですか(笑)。

好きだからやるサステナビリティ

伊藤 バーカウンターの側面や床にはコーヒーの粉を混ぜていただいたんです。「リサイクルをしています」と分かりやすく打ち出すというより、自然からの素材を多く使っているということに焦点を当てたいなと。コーヒーという自然由来の飲み物をお出ししているので、そこはナチュラルにいきたいなって。

吉田 コーヒーの粉の量を調整したり、色々と実験しながら色の具合を調整しました。思った以上にいい仕上がりになったと思っています。

伊藤 電力を再生可能エネルギーに切り替えたり、それまで追加料金をいただいていたオーツミルクを無料化して牛乳と同じ価格で楽しんでいただけるようにしたり、会社全体として取り組むべき大きなオペレーションがある。その一方で、気持ちいい空間だな、コーヒー美味しいな、と体験していただきながらサステナビリティに触れていただくということも重要だと思います。あとは、プロダクト面で申し上げると、リユーザブルカップを代官山先行で出すんです。ボトルを持って来ていただくスタイルを、頑張ってやるのではなく、好きだからやるというのが浸透していけば嬉しいです。

吉田 サステナビリティという言葉より、周りの環境に対してどうあるべきかは常に意識しています。それが良い習慣につながるのではないかと思います。

谷尻 言葉自体、時代によって変わっているし、わざわざ言うことではないんですよね。僕らは、流行じゃなくて、その環境に本当に必要なものを問い直す立場。それが環境的側面でいくとサステナビリティにも寄与していることになるんでしょうけど。“無理なく作る”ということをやっていれば、いろんな側面に対応できるものになると思っています。

完成したカフェを見て

伊藤 お店が出来上がったときはいつも、ワクワクとドキドキが入り混じるんですけど。ここに入った時の空気感は、車が多く通りに面しているのに静かになる感じがあって、そこが僕はすごく好きです。

谷尻 窓を閉めていても風通しが良さそうな空間になっていますよね。

吉田 私が初めて東京に出てきて住んだのが代官山だったんです。この場所にも思い入れがあって、自分も通いたいなと思えます。いろんな街に新しいものができていくと、街が均一化していくようなところがあるじゃないですか。その街らしさがあることがすごく重要だと私は思っていて。更新するけど、何か残っているものがあるのは大事。今回も代官山らしさを大切に残しながら新しいお店を作らせていただいたので、皆さんが来たときには、それぞれの居心地良さを感じながら、いろんな席で長く滞在してもらえる場所になればと願っています。

[ブルーボトルコーヒー 代官山カフェ]はフードメニューも充実している。同店限定の「ブランチプレート サーモン」(¥2,145)は、低温調理でミキュイにした宮城県産の銀鮭にフレッシュハーブ、彩りのよい野菜など、ヘルシーなワンプレートに仕上がっている。パンは同施設内に入るブーランジュリー[Et Nunc]のもの。ドリンクは、代官山を拠点とするコンブチャブランド「KBT -Kombucha Brewery Tokyo」の コンブチャ(煎茶・ルイボスの2フレーバー、各712円、写真は煎茶)

吉田 低温調理のサーモンがすごく美味しかったです。

谷尻 カフェと思いきや、ああいう食事までできることにびっくりしました。今やカフェは、食事も楽しめる場所になりつつあるんだなと。食事ひとつとっても、自分のもう一つの棲家みたいな使い方ができていくんだなと思いました。

伊藤 私たちが伝えたいことを言っていただきました(笑)。ありがとうございました。

ブルーボトルコーヒー 代官山カフェ|Blue Bottle Coffee Daikanyama Cafe
東京都渋谷区代官山町 20-23
フォレストゲート代官山内MAIN棟 1階
(東急東横線・代官山駅 中央口より徒歩1分)
IG @bluebottlejapan
サポーズデザインオフィス|SUPPOSE DESIGN OFFICE
谷尻誠氏、吉田愛氏率いる建築設計事務所。広島、東京の2ヵ所を拠点とし、住宅、商業空間、会場構成、ランドスケープ、プロダクト、インスタレーションなど、国内外で幅広い分野のプロジェクトを多数手がける。近年の代表作に「NOT A HOTEL NASU」「千駄ヶ谷駅前公衆トイレ」「虎ノ門横丁」など。最近では、東京事務所併設の「社食堂」、「BIRD BATH & KIOSK」「絶景 不動産」を開業し、2023年、広島本社の移転を機に商業施設「猫屋町ビルヂング」の運営もスタートするなど事業の幅を広げている。
WEB suppose.jp
IG @supposedesignoffice

Text by Yoshiki Tatezaki
Photo Courtesy of Blue Bottle Coffee Japan
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