ラーメン熟考
第2回 種物中華そばを整理する 〜そばやうどん由来の種物中華そば(前編)〜
具が乗っているものを種物としたときに、ラーメンは多くの場合『種物中華そば』なのだ、としたが、その種物を細分化してみよう。
まず、ラーメン誕生の経緯から考えると、日本式のものと中華由来の種物とで大別される。日式のものには蕎麦やうどん由来のものもあり、中華から影響を受けたものから独自に発展したものなども含む。逆に中華料理由来のものは餡掛けタイプが多い。そもそも餡掛けタイプか否かという整理の仕方もあるだろうが、例えばもやしそばのように餡掛けタイプもあればそうではないものもあるので、以下のようにいくつかカテゴリーを整理した上で、あとは各論(お店)でみていきたい。
①蕎麦やうどん由来の種物
②日本発で独自発展したもの
③中華料理に由来したもの
④中華風だが、日本で生まれ発展してきたもの
⑤その他、店独自のもの
こうして整理してみても、何か結論めいたものが見えてくるわけではないが、結論を出すことが目的ではない。各論を眺めながら、銘々の楽しみ方を発見してもらえれば幸いだ。
※なお、お店の選定に関しては、首都圏を中心に、またラーメン(専門店)好きにも関心をもってもらえるようラーメン店で人気のあるお店のものをなるべく抜粋した。また、限定メニューの場合は毎年食べられる、など読んだ人が気楽に食べられるものを優先した。
①蕎麦やうどん由来の種物
まずは、日本伝統の種物たち。基本的には蕎麦やうどんの種物だったり、それをヒントにしたりしたものだ。最近の趣向を凝らした⑤の独自系とどう区別するかが難しくなるが、蕎麦屋などでよくみる、という主観に頼ることにした。昨今人気の鴨を使ったラーメンもその一つと言えよう。
また南蛮(+メニュー名)という呼び方をするメニューがあるが、これはポルトガル、スペインからの貿易でもたらされたものを意味する。唐辛子や(好まれた)ネギなどを使った料理の冠につけたわけだが、ラーメンがそもそもミクスチャーなメニューだったからか、日本古来のものでなかったからか「鴨南蛮ラーメン」と呼ばれたりするものはない。
・五目
・花巻
・天(ぷら)中華
・餅(力)中華
・月見
・けいらんそば(卵とじ)
・とろろ
・納豆
・きつね
・鴨
・カレー
この中から代表的なものをみていこう。
【五目そば】
五目そばの五目とは、デジタル大辞林によると
・5つの種類
・種々のものが入りまじっていること
おおざっぱにいうと具沢山で、具の決まりのない種物ということになる。もともと日本蕎麦でもメニューにあり、それを中華に応用したものであるから、餡かけもあれば、ただ具を乗せているだけのものもある。
また、蕎麦には類似するものでおかめそばというものがあり、人の顔を具材で描いた盛り付けの遊び心溢れる種物だが、これはラーメンにおいてはほとんど見られない。そもそもおかめそばは「五目より、三目多い、岡目八目」という江戸っぽい洒落から生まれたとされるが、ラーメンにおいてはおおざっぱにすべて五目という一言で済まし、とにかく材料が多岐にわたればそれで五目!とされた感がある。これ以上は細分化せず、各お店でその個性を味わうほうがいいだろう。
五目そばのオススメ店
[新雅](江戸川橋)
一般的に五目そばはラーメンの上に具を乗せるだけであるが、[新雅]は野菜に炒が入ることで差別化されている。言わばタンメンの良いところと五目そばの良いとこ取りである。個人的には五目そばの決定版だと思う。しかも、さらにふたつの要素が心をくすぐる。ひとつはハムが入っていること。戦後、中華そばの種にチャーシューの代替としてハムが乗ることがたまにあった。その伝統を踏襲していること。もうひとつはおかめになっていることだ。なんて素晴らしい。チャーハンをはじめ他のメニューも美味しい[新雅]にトップバッターを任せてよかった。
[新雅]の五目そば。おかめにもなっているのが愛らしい
[丸信中華そば店](谷保)
つけ麺でおなじみの[大勝軒]を生んだ「丸長のれん会」の中でも大きく広がった[丸信]。荻窪四面道の本店と同じくらい価値を持つ谷保店だが、[丸信]の系譜らしく街中華的な魅力も備えている。五目そばは餡かけスタイル。これも珍しいが、和風な香りのする醤油餡もまた珍しい。その上、伊達巻が入るタイプ。それだけ尖っていながら全体が調和するのはベースの中華そばがしっかりしているからである。
[丸信]の五目そば。餡かけ、伊達巻と特徴的
[中華そば みたか](三鷹)
根強いファンが多い[みたか]。ここの五目はちょっと毛色が違う。ハムやもやしなどとともに、ピーマンの細切りが乗る。炒めものではなく、そのままで乗るのが面白い。郷愁をそそるラーメンではあるが、しっかりと個性があるのが[みたか]の特徴だ。
[みたか]の五目そば
【花巻そば】
花巻そばとは、海苔(焼き海苔)をちぎって、綺麗に散らしたそばのことをいう。海苔は磯の花と考えられ、そこから花巻という名称になったと言われる。ただ、江戸時代、江戸の花巻は風味豊かで柔らかかったアサクサノリをふりかけたものを指しており、現在絶滅してしまったに等しいこの海苔をかけた“本当の花巻”は無くなってしまったと考えていい。その逆に元々のコンセプトを超え、自由に海苔の風味を麺に合わせるものも増え、そこを楽しむメニューとなっている。
花巻そばのオススメ店
[かねかつ](南浦和)
職人的なこだわりで、一躍人気店となった[かねかつ]。のりまみれというメニューは蓋をして供され、単に海苔が乗っているだけではないところも良い。この蓋を持ち上げるとブワっと出汁と海苔の良い香りが充満する。店のコンセプトによく合ったメニューと言えるだろう。
[かねかつ]ののりまみれ
次回は引き続き、そばやうどん由来の種物中華そばを追っていく。
- Ramen Archiver
渡邊 貴詞 / Takashi Watanabe
IT、DXコンサルティングを生業にする会社員ながら新旧のラーメンだけでなく外食全般を食べ歩く。note「ラーカイブ」主宰。食べ歩きの信条は「何を食べるかよりもどう食べるか」
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