
おいしい裏話
「どうだ」(RiCE No.39に寄せて)
もちろん土鍋で炊いたごはんは大好きだ。
しかし、土鍋が沸騰したタイミングをきっちりそばにいて測るのはなかなか厳しい。時間があるときだけしかできない。
だからその毎日ごはんを炊く期間、私は燕三条に行ったとき購入した銅の釜を使った。
銅だから熱伝導率が良く、あっという間に沸騰して蓋から蒸気が出てくる。そこから、ガスの火が自動で止まるところまで他の家事をしながら過ごせる。ピーピーと音がして火が止まったら、再度弱火を点けて十分間経ったら火を止めて、また十分間蒸らす。
それだけなのだ。簡単に手入れできるように考え抜かれているから、いろいろなことがとても楽。
いつかこの釜をまた使うだろう、と思いながら子どものお弁当を炊飯器に頼った日々を懐かしく思い出しながら、ついにこの日が来たんだな、と感慨深い。
ごはんはどうだ
https://amzn.asia/d/hvgAHLH
1964年、東京生まれ。日本大学藝術学部文芸学科卒業。87年『キッチン』で海燕新人文学賞を受賞し小説家デビュー。88年『ムーンライト・シャドウ』で泉鏡花文学賞、89年『キッチン』『うたかた/サンクチュアリ』で芸術選奨文部大臣新人賞、同年『TUGUMI』で山本周五郎賞、95年『アムリタ』で紫式部文学賞、2000年『不倫と南米』でドゥマゴ文学賞、2022年8月『ミトンとふびん』で第58回谷崎潤一郎賞を受賞。著作は30か国以上で翻訳出版されており、海外での受賞も多数。近著に『下町サイキック』がある。