
2000年生まれ器好きが、器を巡って旅をする「響の日本うつわ見聞録」
#2 料理人必見、オーダーメイドの清水焼「素—siro」(2/3)
前回に引き続き、京都・清水焼の風雲児、清水大介さんにスポットを当てます。今回は清水さんの象徴的な事業の一つで料理人の方々必見の、オーダーメイドの清水焼ブランド「素—siro」について深掘りします。(前回のコラムはこちら)
オーダーメイドの清水焼ブランド「素—siro」とは
「素—siro」は、清水さんの直感と柔軟な発想、そして不断の努力によって生まれた唯一無二の器のオーダーメイドブランドです。横のつながりが強いレストラン業界を狙ったブランドで、陶芸界でも独自のポジションを築いています。ターゲティングはもちろん、フルオーダーでリクエストに応えることができる柔軟なものづくりとホスピタリティは、他のプレイヤーにはない魅力です。ギャラリーに展示される見本品の数は訪問の度に増えており、その人気ぶりがうかがえます。
京都市にあるTOKINOHA Ceramic Studioの2階には、1,000点を超える見本品が
「素—siro」が生まれた背景
「素—siro」は、清水さんとレストランシェフとの出会いから誕生しました。もともとライフスタイル向けの器を製作していた清水さんですが、レストランからのオーダーを受けたことで新たな挑戦が始まりました。
しかし、レストランからのリクエストに応えようと試作を始めると、器が欠けやすかったり、薄すぎてしまったりと、それまでの製作ではなかったようなトラブルが相次ぎました。ライフスタイル向けのものづくりとは異なるアプローチが必要だと痛感したと、清水さんは言います。また、レストランシェフはどのような器を求めているのか、複数のレストランシェフにヒアリングをしたところ、全員が異なる意見を持っており、想定していた定番商品化・シリーズ化は難しいことが分かりました。そこで、清水さんは「いっそのことオーダーメイドにした方が、シェフ一人ひとりに寄り添った器が作れるのではないか」と考えるようになります。この柔軟さこそが、「素—siro」の原点となりました。
釉薬のテストピース
シェフたちのニーズに応えるオーダーメイド
レストランシェフたちは、それまで陶磁器メーカーのカタログ商品や、作家の個展でたまたま見つけた器を購入するくらいしか選択肢がなく、イメージと実物の違いや供給の不安定さに課題を感じていました。清水さんは、こうした課題に対して、オーダーメイドという形で応え、シェフの細かな要望に寄り添った器作りを実現していきます。
現在、常時40〜50件のオーダーを2〜3カ月のペースで製作しており、見本の器は1,000点を超えます。海外からのオーダーもあり、受注件数全体の1割程度ながらも金額ベースでは3割を占めるほどで、国内外から高い評価を受けていることがわかります。「素—siro」ではこれまで小売店や飲食店への営業活動を一切行っておらず、口コミや評判だけでブランドが広がっていきました。学びに貪欲なシェフたちは他店で食事をする中で優れた器に出会い、自然と「素—siro」の存在が広まっていったのです。
「陶芸」「経営」「ブランディング」の三本柱
直販のみで販売するセラミックブランド「TOKINOHA」、料理人のプロフェッショナルのためのオーダーメイドブランド「素—siro」をはじめ、陶芸を通じた様々な事業を展開している清水さんは、陶芸の技術だけでなく、経営やブランディングにも力を入れてきました。現代の窯業界が厳しい状況にある中で、「陶芸だけを突き詰めるだけではなく、経営やブランディングにも同じくらい力を注ぐべき」という考えを持っています。共に働く職人たちに真摯に向き合い、どのようなものづくりが世の中に求められるかを考え、ビジネスとしての成功を見据えて活動してきた結果、「陶芸」「経営」「ブランディング」という三つの強力な武器を手にし、これらを掛け合わせることで独自の存在感を放つブランドを築いています。次々に京都から器の事業を仕掛けていく清水さんの歩みはこれからも続きます。
二回に渡って、清水さんのものづくりについて、知られざる哲学について記録しました。初めて清水さんにお会いしたのは2022年のこと。私のような若輩者の話にも真摯に耳を傾けてくださる寛大聡明な方で、今回の取材に限らず、2023年に将来の相談をさせていただいた際も、急なお願いにも関わらず時間をつくってお話ししてくださったことを覚えています。お話を重ねるたびに、清水さんが強い信念を持ってものづくりに取り組み、人と真摯に向き合っていることがひしひしと伝わってきます。清水さんは陶芸だけでなく、経営やその他の仕事にも細やかな配慮を持って取り組まれています。その姿勢は職人の域を超え、経営者としても卓越した人物であることを物語っています。陶芸の枠を超えて、工芸業界全体、さらには社会においても大事なことを、清水さんから学びました。
次回は、清水さんの器をつかって料理を提供する飲食店様にて、清水さんと一緒にお酒を飲んだ時の様子を記します。現代の日本文化について、これからの生き方について、清水さんの哲学について…悩み多き20代にとってこれ以上ない贅沢な人生相談の記録です。お楽しみに…!
<おまけ>今回のお土産
今回の旅では、TOKINOHA Ceramic Studio 1階ショップにてアイスに合う器を購入しました。4月に開催するイベントで使うためのものです。イベントでコラボレーションする方のイメージカラーが水色だったこと、何よりこの花のような形が可愛らしかったのが購入の決め手です。そのイベントについては私のインスタグラムなどでご案内する予定ですので、よろしければ覗いてみてください。
また、この度TOKINOHAのブランド写真集が発売され、私も購入いたしました。2009年に始まったTOKINOHAの歴史やこれからの未来について、27,000字の言葉と写真家・中川正子氏による写真によって、200ページに渡って綴られています。増刷なしの限定販売とのことですので、ご興味をお持ちの方はぜひこちらのページからご覧ください。
インバウンド向けの旅行会社勤務の2000年生まれ。「器、茶、酒、旅。」がテーマの招待制イベント&フリーツアー『響縁』を不定期開催。「日本が好き、もっと知りたい!」そんな人が集まる伝統文化好きコミュニティdaruma.com発起人。
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