
連載「店とTシャツと私」
#03 Doleの話・[boat]幡ヶ谷
好きな店とそのために作ったTシャツの話。
Dole。多くの日本人にとってはバナナのイメージが強いだろうけど、実はその歴史はパイナップルから始まったアグリビジネスカンパニー。
Doleの始まりを語るうえで欠かせないのが、ジェームズ・ドール。1901年にまだ原野だったハワイ・オアフ島の中央部、ワヒアワというエリアにパイナップル畑を開拓して「ハワイアンパイナップル・カンパニー」を設立し、「パイナップルキング」という一見すると揶揄のような愛称で知られた人物だ。もちろん揶揄ではなく、当時、ハワイのメイン産業はサトウキビ、というのが常識だった時代に、ジェームズ・ドールは今でこそお馴染みのパイナップルをネクスト産業にまで広げた立役者。そんな彼の成功ぶりにちなんで付けられた「パイナップルキング」は、ハワイの人々からもある種のリスペクトを込めたニックネームとして今でも語り継がれているらしい、わたしはハワイに行ったことないので知らないけど。
そんなジェームズ・ドールによって「Quality, Quality, and Quality」という品質第一主義を意味するストイックなタグラインとともに設立されたハワイアンパイナップル・カンパニーは、その後、パイナップル事業にとどまらず、バナナや他の熱帯フルーツの栽培・流通にもビジネスを拡大し始めた。そしていつしか、世界規模で複数の青果を扱う企業としてのイメージや認知の拡大のために、ハワイアンパイナップル・カンパニーという社名ではなく「Dole」というシンプルかつ創業者の名を冠したブランド名が前面に出されるようになっていったのだった。
#01のエールフランスでもロゴの変遷に触れたけど、やっぱりDoleのロゴも旧ロゴのほうがシンプルで好み。公式によると「太陽が水平線から昇る様をイメージし、商品の鮮度、クオリティ、健康、おいしさを表現」とそのデザイン意図はあるけど、80年代から使われていたこのシンプルなロゴは、2022年になって「自然が創り出した『葉っぱ』を組み合わせて『鮮度』を表現し、地球からの恵みを反映した」デザインと改悪されてしまった。かわいそうに。
そんな、鮮度、クオリティ、健康、おいしさ、と、食におけるすべてが詰め込まれている、Dole。
このDoleのロゴをサンプリングして作ったのが、幡ヶ谷にあるビストロ[boat]のTシャツ。
ジェームズ・ドールによって開拓されたパイナップル畑の一部をテーマパーク的な施設にした「ドール・プランテーション」のスーベニアとしても売られているDoleロゴのTシャツは、いまだにハワイ土産として根強い人気を誇っているそう。であれば、[boat]のTシャツも、幡ヶ谷の定番スーベニアとしての地位を目指すべく、という勝手な思いで作らせてもらった。
友人であり[boat]の店主である半田さんに、サプライズ的にTシャツのデザインを見せたところ「そしたらTシャツにあわせてパイナップルを使った料理をつくってみるよ」と、逆サプライズが。
そんなこんなで作ってもらったのが、こちらの一皿。赤玉ねぎとフェンネルのサラダの上に、ヨーグルトミントソースがかかったラムとスパイスのミートボール、そしてほんのり焼き目をつけたパイナップル。ミートボールはつなぎなしのムッチリ仕様。加熱したパイナップルとミートボールを一緒に食べると、パイナップルのやさしい甘味がいいアクセントに。
[boat]の料理では今までパイナップルを使ったことがないそうで、[boat]ファンのみなさまにもぜひこちらの一皿を楽しんでいただきたく、この記事がUPされた後はしばらくオンメニューされる予定。さらにTシャツも、4月以降店頭にて販売予定。ぜひ、幡ヶ谷スーベニアにどうぞ。
Tシャツの販売にあたり、これまた友人である[Russet Burbank]にお願いして、彼らがNY滞在中のタイミングで物撮りもしてもらった。ほんのりアメリカンな空気が、このTシャツに染みてくれるといいなと思う。
- Designer
五十嵐 宗 / So Igarashi
「Ginza Sony Park」「Sony Park Mini」のデザインや企画を担当。[Winestand Waltz]、「Le cabaret」などのグッズやワインのエチケットデザインも手がける。IG @igrss
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