特別対談:山下貴嗣(Minimal)× 後藤裕一(PATH)
コラボから生まれたチョコレートの新たな可能性
Bean to Barブランド「Minimal -Bean to Bar Chocola- (ミニマル)」よりバレンタイン向けの新商品「Minimal Orangette “Morning&Night”」が発売された。コラボレーションしたのは、Minimal本店と同じ渋谷区富ヶ谷にあるフレンチレストラン[PATH]のオーナーパティシエ・後藤裕一。チョコレートの新たな可能性を提案した今回のコラボレーションはどのように生まれたのか。[Minimal]代表の山下貴嗣と後藤裕一のふたりに開発秘話を伺った。
<Minimal Orangette “Morning&Night”>について
「“朝食”と“夜のデザート”に楽しむ、シーンに合わせた新しいオランジェット」をテーマに2種類のオランジェットを開発。
「Minimal Orangette “Morning”」
爽やかな果実味を損なわないようにコンフィしたオレンジに、ローストナッツのような香りが特徴の「NUTTY CHOCOLATY COLOMBIA」チョコレートを使用。朝食に合うように少し優しくまろやかな甘さに仕上げた。「Minimal Orangette “Night”」
ワインやコーヒーと一緒に楽しめるオランジェットを目指して開発。クローブやシナモンなどのスパイスを加えた赤ワインでオレンジをコンフィにして、黒胡椒やナツメグのような香りが特徴のチョコレートを合わせた。
素材をちゃんと調理をしながら全体のバランスをみれる人って、誰だろうって考えたときに、まっさきにごっさんしかいないなって(山下)
———まずはコラボレーションが生まれたきっかけから伺いたいのですが。そもそもご近所で、[Minimal]が3年、[PATH]が2年ですよね。ふたりの出会いは?
後藤 一年半ぐらい前ですかね。前から[Minimal]っていう面白いチョコレートがあるっていうのは聞いていたし、山下くんも[PATH]のことを知ってくれていたんですよね。
山下 知ってました。
後藤 だけどお店が近くにあるからっていうつながりはなかったんです。
山下 「OYATSU」というイベントがあって、毎月シェフが変わるんですけど、ごっさん(後藤さんのこと)が先で、その次がぼくだったんです。そこで紹介していただいたのが最初ですかね?
後藤 それまでに挨拶くらいはしていたかもしれないけど、しっかり話すようになったのはそれからですね。それで、ぼくが次の山下くんの回に行ったんですけど、話はうまいし、アツいし、凄い人がいるなって(笑)。
山下 ははははは。こいつペテンっぽいなって思ったんでしょ(笑)。
後藤 いやいや、それは思ってないから(笑)。
山下 ぼくはパティシエって、レシピを共有してその通りに作るっていうイメージがあったんです。でも、ごっさんは当然作るものはすごく美味しいんだけど、ちゃんと自分の色も出ていて、完成度がめちゃくちゃ高いから、なんだか料理人みたいな人だなって。お菓子っていう業界の中でこれだけできるって、天才なんだなって思ってました。
———そこからはどんな付き合いが始まったんですか?
山下 ぼくが普通にお店に遊びに行くことが多かったですね。
後藤 よく来てくれましたし、ウチのチョコレートを使って何かやってほしいなっていうのはよく言ってくれていて。
山下 一度、ごっさんと(原)太一さん(PATHのオーナーシェフ)でウチに試食に来てくれたんですよ。説明しながら二人に食べてもらって。じゃあ、なにかやりましょうかっていう話になって、パン・オ・ショコラをやってもらったんです。割と酸味の強いチョコレートを使ってパン・オ・ショコラを焼いてもらったんですけど、それは商品化されなかったんです。
後藤 美味しかったんですけど、[Minimal]のチョコレートじゃなきゃいけないよね。っていう部分を見つけるのが難しくて。お菓子とか色々と付け足したものを作っちゃうと、[Minimal]が信条としている繊細な香りや食感が活きてこない。せっかくそういうチョコレートを作ってもらっているのに、そんな使い方をしちゃダメだなって思ったんです。
山下 ぼくらも自分たちのチョコレートを板チョコ以外に加工して使うっていうことに、まだ全然慣れていなくて。ごっさんが作ってくれるので当然ベースは美味しかったんですけど、ぼくたちのチョコレートだけを見ると、熱で香りが飛んじゃってたりして、ごっさんが言ってたように、ぼくらのチョコレートをわざわざ使わなくてもいいんじゃないかってことになったんです。
まだ何を作るかわからないという時点でも山下くんとちゃんと製品を作れるというのはすごく魅力的でした(後藤)
———後藤さんは、[Minimal]のチョコレートを使ってみてどのように感じたんですか?
後藤 チョコレートという食品というよりはカカオっていう材料だと感じたんです。山下くんも「ごっさんがこういうのやってくれるんだったら元々のカカオの焼き方も調整できるよ」って言ってくれたり。そこまでしてくれるんだったら、チョコレートっていう枠を超えて、材料としてぼくも向き合わなきゃいけないなっていう思いもありました。ぼくは製造の側の人間で、山下くんは製造のひとではないんだけど、話しているレベルとか熱量は一緒で。そういうところですごく職人性を感じたし、共感することも多かったんです。
山下 ぼくもごっさんのことを知れば知るほど、料理人的だなって思って。当然、パテシィエとかショコラティエっていうくくりで言ったらレベルは超一流なんでそこは大前提なんですけど、プラスで料理人っていう発想の仕方をしてくれるので。ぼくは素人からチョコレートの世界に入っているので、ほとんどチョコレートの常識がないんです。怒られちゃうんですけど(笑)。でもぼくがずっと自分たちのチョコレートに感じていたのは「これはスパイスなんだな」ってこと。要は調味料みたいなものだと思っていて。例えばAというベトナムのカカオにはいろんな香りや味わいのカドがあるんですけど、ぼくらは作るときにそのカドを思いっきり引っ張ろうっていう風に、わざと強調してトンガリをつけるような味の作り方をしてるんです。分かりやすく言うと、唐辛子って辛さを足したいときに入れるものじゃないですか。それと一緒で、カシスみたいな香りやナッツみたいな香りがするスパイスという風に、ぼくたちはチョコレートを作っていたので。単純に製菓の材料として使うだけではなくて、ひとつの料理のスパイスとして考えて組み立ててくれる人と新しいものを作れたら、ぼくたちは「チョコレートを新しくする」って言ってるんですけど、それが成り立つんじゃないかなって思ったんです。
後藤 パティシエの仕事って料理みたいに一皿一皿で仕上げていくというよりも、大きな枠で作ってそれをカットして出すので結局大量生産向きな仕事なんです。だからチョコレートを材料として使うときに、材料の時点で味が変わってしまったら困るんですね。そのあとのレシピに準じて作らなきゃいけないのに、芯の材料の味が変わったら、ほかも全部変えなきゃいけなくなる。でも、ぼくは「デザートを料理したい」って考えているんですけど、元々の材料は日々変わっていくものであって、それに対してどういうアプローチでそこに肉付けをしたり、足し算引き算をして美味しいものを作るかっていうのを大事にしたいと思っているんです。たぶん山下くんたちがチョコレートのタブレットを作るときの感覚が“料理”だと思うんですけど。だからそういうところでの一致はあったと思います。
山下 そうですね。
後藤 そういう意味だといわゆるお菓子屋さんをやっているひとたちよりは、そこの振り幅というか許容範囲は広かったと思います。
山下 カカオ豆は農作物なので毎回変わるんですよね。同じ産地で同じ農園から採ってても極端な話、麻袋ごとに味が違う。ぼくらにとっては創業からそれを毎日繰り返してきたので、一回レシピを決めても、次の日からコロコロ変わるとか。それを当たり前だと思ってぼくらはやってきたので、同じものを大量に作っているっていう感覚はないんです。
———やってることは違うけど向いている方向が似てるんですね。あらためてこのタイミングでコラボしましょうというのは山下さんからの提案だったんですか?
山下 そうです。板チョコをずっと販売してたんですけど、やっぱりいぶし銀なんですよね。板チョコを買う人ってまだまだ限られていて。ぼくらは「Life with Chocolate」って言ってるんですけど、やっぱりもっとチョコレートを新しく楽しんで欲しい。ぼくらはスパイスって捉えてるから、その表現をもっと多くの人に伝えたいって思っていたんです。最初はペアリングをしたいなって思ったんです。コーヒーとチョコレートを合わせるような感覚で、オレンジとチョコレートを合わせる。そのときに素材をちゃんと調理をしながら全体のバランスをみれる人って、誰だろうって考えたときに、まっさきにごっさんしかいないなって思って。富ヶ谷同士だからっていうのは後付けです(笑)。
後藤 ぼくも一緒に仕事をしたいなと思っていたのでうれしかったです。まだ何を作るかわからないという時点でも山下くんとちゃんと製品を作れるというのはすごく魅力的でした。試作で終わっちゃうのではなくて、ちゃんと着地点としてバレンタインの商品を作りたいっていうゴールが決まっていたので、そこにすごく惹かれました。山下くんの魅力の一つにアウトプットする力があると思うんです。どういうことをどういう流れでどういう風に発信するかっていうところに長けていると思うので、そういう部分に一緒に関わらせてもらえるのもいいなと思いました。
今回のコラボのおかげで、うちのチョコレートはこういう使い方なんだって確信しました(山下)
———メニューはいろいろアイデアは浮かんだんですか?
後藤 フルーツとチョコレートという組み合わせで、ある程度の量を作らないといけないというところでオレンジ以外にもレモンとか。
山下 生姜もでてましたよね。
後藤 そうそう生姜も面白そうだなってでてたよね。
山下 でも最終的にはぼくらがオレンジにお願いして。やっぱり最初は奇をてらったものよりは、みんながわかりやすく世の中にあるものの方が、違いがよくわかるし最初に仕掛けるとしたら面白いかなって思ったんです。
———オランジェットっていうのは伝統的なお菓子なんですか?
後藤 そうですね。砂糖漬けのオレンジにチョコレートをくぐらせた定番のお菓子です。[PATH]では作ってないですが、いままで働いていたお菓子屋さんでは作ってました。いろいろ考えたのですが、いわゆるみんなが使っているようなオレンジのコンフィに[Minimal]のチョコレートをつけても絶対に合うから、もしなにも思いつかなくても商品にはなるっていう安心感はあったんです。だから自分たちが楽しむ方向で考えてみた方がいいかなって。その楽しんだ先に製品にならないような感じになっちゃっても最悪こっちの路線で製品にできるから勝手に遊んじゃいました(笑)。
山下 じつはごっさんにお願いしたときに、せっかくなのでふたつ得たいなって考えてたことがあったんですね。ひとつは、ウチの作り手に刺激を与えたいっていうこと。ぼくは職人じゃないから彼らの次のステージを用意してあげることはできるんですけど、彼ら自身の視野を広げてあげるには、もう内部だけでは限界がきてるなって思ってたんです。やっぱり外部とオープンにやることで、ウチの職人たちにすごくいい刺激になるだろうなって思ったので。もうひとつは世の中にない新しい価値を常に提案したいということ。ミニマルは「something new」を提供したいってよく言ってるんですけど、なにか新しいものをブランドとしてずっと出し続けていく。当然オーセンティックな核があったうえで、でもなんかこいつら面白い新しいことやってるよね。っていうワクワク感を提供していかないといけないので。そうなったときに、外からの知恵を入れて融合したらすごく面白いなと思って、次のステージにいけるんじゃないかっていう感覚をずっともっていたんです。ごっさんとしゃべっているときって常にその感覚があるんですよね。この人と仕事したら一歩進めるんじゃないかっていう。
後藤 うれしいですね。
[Minimal]のチョコレートを使えば何でも美味しくなるっていう安心感はあったので自分たちが楽しむ方向で考えてみた方がいいかなって(後藤)
山下 この商品の朝と夜っていうテーマは最初から置いていて。それはなんでかというと、オランジェットってどこにでもあるんです。でも、どういうときに食べるんだろうって考えたときに、よくわからなかったんですね。だから極端なシチュエーションにおいて、オレンジとチョコレートを両方調理して全体の味のバランスをごっさんに見てもらったら、新しいものができるんじゃないかなって考えたんです。
後藤 「Morning」の方は食べるシーンを考えると、極端に言ったらバターでいいかなって思ってたんです。バターみたいなオランジェットってできないかなって。例えばパンと一緒に食べるような調味料っぽい味がしたら面白いのかなって思ったり。そこから派生して、チョコレートもナッツの香りがするようなものにしてピーナッツバターのようなものにしようかって。オレンジはそんなに主張しすぎるわけではなく、チョコレートのナッツ感を引き立たせるくらいにしようと思って、オレンジは砂糖のプレーンな風味でとどめてチョコレートの風味が出るような感じにしました。
山下 朝にこれだけ食べても満足感の高いものになったと思います。ごっさんは明確にこうしてほしいっていうイメージを伝えてくれるので、ウチの職人たちもすごく面白かったと思うんです。いつも自分たちの中で正解はないけどこれはこうだよねってやってるんですけど、今回は味のディレクションをする人から明確にオーダーが来るからすごい楽しそうでした。でもこれもいいんじゃないですか?って提案もできるし。
後藤 ぼくはあまり何がダメって否定しないんです。これはこれの良さがあるし、こっちはこっちの良さがある。でも目指してるイメージはこういうのだよねって。そういう進め方をするので。
山下 こういう要望がきましたとか、これはちょっとしんどいかもしれませんとか、よく聞いてました(笑)。
後藤 はははははは。
———夜に関してはどれくらい変えてるんですか?
後藤 「Night」の方はオレンジありきで考えました。夜って言われた瞬間にお酒と合わせるとしたらどういうものがいいのかなって考えて、絶対にスパイスを使いたいと思ったんです。じゃあオランジェットっていう枠を超えずにオレンジを調理すると考えたときに、一回赤ワインスパイス煮にしたらいいかなと思って。あとはこの風味を生かせるチョコレートはどれかっていう選び方をしました。だからアプローチは朝と昼で逆だったんですよね。
山下 こっちのチョコレートは結構面白くて。普通市販では絶対に出さないチョコレートに仕上がってます。これは黒胡椒とかスパイスっぽい感じにしたいねってことで、ベトナムの渋みと酸味の強いものをめちゃくちゃ強く焼いたやつを一部入れてるんです。わざとちょっと焦がしてるんですね。だから単体のチョコレートとして食べると苦手だと感じる人もいるかもしれないんですけど、オランジェットとしてだといけるっていう。単体では成り立たないんだけど全体の一皿としては成り立つっていうことは、ぼくらがスパイスとしていちばんやりたかったことなので。これはすごく気持ち良かったですね。
———ちょっと食べてみていいですか。
山下 めちゃくちゃお酒欲しくなると思いますよ。
後藤 アルコールで口を湿らせたくなる。
———これは美味しい!赤ワインとかね。
山下 これはオランジェットを超えちゃったなって個人的には思ってるんですけど。
後藤 ぼくもここまでしてるやつは見たことないです。オランジェットのオレンジをここまで調理してから、チョコレートにつけるってことは誰もやってないと思います。
———これは1/20から発売で、何セットでしたっけ?
山下 1,000箱です。1,000箱で精一杯ですね。うちの職人チーム総出で、他の製造を止めて作っています。1,000箱でももうこれ途中でやめようかってくらいの感じなので(笑)。
後藤 ははははは。
———1,000箱って結構な数なんですね。
山下 多いです。手間とコストは本当にめちゃくちゃかかってます。
後藤 [PATH]では絶対にできない数ですね。ウチだとやれて、30箱くらいだと思います。
山下 機械でやるんだったらいいんですけど、うちは全部手でやってるので。
後藤 開発してるときに、ぼくは作り手の気持ちがわかっちゃうじゃないですか。結局1000箱作るってことは、一手間加えたら1000手間増えることになるから。だから本当に些細なことでも、ぼくがこういう味を出したいからって足しちゃうと・・・試食会のときにサーって[Minimal]のみなさんの血の気が引いていくのがわかるんです(笑)。その気持ちもすごいわかるんですけど、でもぼくが携わらせてもらってる意味っていうのは、自分たちで厳しくできないところを一歩踏み込むっていうところだから。そこは妥協しちゃダメだなって自分に対しても厳しくやってました。
山下 そこはすごく信頼してました。今回のプロセスを経て、本当に世の中で一流のものを作っている人たちってこういう哲学でやるし、だからこそ新しいものが生まれるんだっていうことを、ウチのメンバーたちが少しでも触れられたらそれってめちゃくちゃ良い経験になるから。たとえこれをやってることで、ほかのものが作れなくて売り上げが落ちようがそれの百万倍くらい価値があることなんです。ぼくが普段からこういう機会を提供してあげられればいいんですけど、ぼくはお菓子を作れる人間ではないので。今回ごっさんの力を借りてやれたっていうのはめちゃくちゃ良かったと思います。最終的に採算を計算するとすごい悪いんですけど(笑)。
後藤 はははははは。
山下 でもそれでいいなと思って。ぼくは豆を買うために店舗を出してるんです。1店舗だけだと豆が買えないので、たくさん自分たちで消費出来るように。拡大してる理由はそれしかないんですよ。豆をちゃんと買わないと農家と対等に付き合えないから。でも、だからこそ、ちょっと大きくなったことでこういうことをやれるようになったなと思って。こういうところにイノベーションって起こるから。拡大するのってしんどいんですよ。人も増えるし、人が増えても成長が追いつかないからやっぱり一時ちょっと品質が下がったりするんですよね。そうするとやっぱり誰も得しないみたいなところがあったんですけど、今回は3年間頑張ってやってきてよかったなって本当に思えたんです。
———そう考えるといろいろな意義が詰まった商品なんですね。いまって様々な取り組みが行われていると思うんですけど、こういう本質的なコラボレーションってなかなかないんじゃないですか? だからすごい画期的だしここから広がっていきそうですよね。
後藤 コラボレーションって難しいと思うんです。イベント的にやったりすることって全然いいと思うんですけど、ぼくはそこに突っ込んでいけない部分があって。一夜で終わっちゃうとか、その一回のためにいろいろな準備が必要で、なんとなくこれとこれが合うから面白いでしょっていうのが、まだぼくの力が至らなくてできないんです。何かお題をもらったときに、自分の中で分解して時間をかけて考えないとできない部分もあるので。そういう部分でも今回は山下くんと[Minimal]のみなさんとしっかり時間をかけて歩んでできたなっていう感覚がすごいあるので、うれしかったですね。
山下 「ウチのチョコレートはスパイスです」って、各所でずっと言ってたんですけど。あまり理解されてなかったんですね。でも今回のコラボのおかげで、うちのチョコレートはこういう使い方なんだって確信しました。これがぼくらが提案するチョコレートの新しい使い方なんだなって。
———コラボすることで自分たちの自己発見にもなるっていうのも面白いですね。これをきっかけにまた考えてることもあるんですか?
山下 ぼくは何個かテーマを持っているので、ごっさんに全部丸投げしたいなって思ってます(笑)
後藤 はははははは。
山下 ぼくは毎回ここにコーヒーを飲みに来て、ごっさんの仕事の邪魔をしながら刷り込んでいくんで。こういうのありますよって。
後藤 そうだよね。これのときも、突然というよりは、ちょっとずつちょっとずつ刷り込まれてたかもしれないですね。逆にぼくが一緒にやんなきゃって思うくらい(笑)。
山下 ははははははは。この人と一緒に仕事してみたいなって思ったらけっこう執念深いんで。すごいなって思う人はたくさんいるんですけど、ごっさんは本当に自由で、しゃべっていても楽しいし、丸投げしても変なものはできないっていう安心感はすごくあるから。
後藤 でぼくはそれがレストランパティシエだと思ってるんです。いわゆるお菓子屋さんでお菓子を作るパティシエではなく、レストランで料理人もいてソムリエもいてそういう中の一部としてパティシエがいるっていう環境が好きだし、そういうところで長くやっていたので。そもそもレストランでデザートを出すっていうのは、他の専門職の人たちとの関わり合いなしでは出せないじゃないですか。サービスの人に出してもらうわけだし、それにワインを合わせてくれる人がいるかもしれないし、そもそもデザートって料理の後に出るから、その料理ありきのデザートだったりもするので。そういう意味で一緒に働いている人とか、一緒に何かやろうとした人の考えをまず自分の中に入れるっていう作業は絶対にするようにしてるんです。まず否定からは入らない。そういう中で自分がいろいろな仕事をさせてもらえるっていうのは、そういう自分の気持ちを感じ取ってくれてるひとがいて、そこがちょうど合って新しいことをやってみようかって提案をくれるんだと思うんです。
山下 経営者としてはシンプルにアウトプットで評価をしなきゃいけないじゃないですか。プロセスがどんなによくても。これはアウトプットも最高なので、何も文句のつけようがないというか。今回プロセスの話をたくさんしましたけど、最終的には食べたらわかるっていうことがぼくが一番求めていたものなので。だとしたら何も文句はないです。プロセスもちゃんと僕たちも気づかせてもらいながらやったので、すごくよかったなっていう思いしかないです。
後藤 ぼくも自分だったら1,000箱は作れなかった。それをちゃんと安定的に作ってくれるっていうことは自分にはできないことなので。
山下 いやもう誰もやりたくないって言ってるから(笑)。
後藤 はははは。でも実際に作ってる側からするとこれを1,000箱作ってくれるって本当にすごいことなんです。山下くんにも感謝ですけど、[Minimal]の職人さんたちにも本当にありがとうございます!っていう気持ちです。
「Minimal Orangette “Morning&Night”」
内容:8枚(各4枚ずつ入り)
数量限定:1,000箱 ¥ 3,240(税込)
販売店舗:富ヶ谷本店、銀座-Bean to Bar Stand-、東武池袋-Metro Kitchen&Store-
https://mini-mal.tokyo
- Minimal Owner
山下 貴嗣 / Takatsugu Yamashita
「Minimal-Bean to Bar Chocolate-」代表。1984年、岐阜県生まれ。2014年にカカオ豆からチョコレートを製造するBean to Barのチョコレートブランドを立ち上げる。現在富ヶ谷・銀座など都内4店舗。「インターナショナルチョコレートアワード世界大会2017」出品部門で、日本ブランド初の最高賞「ゴールド(金賞)」受賞。2017年度グッドデザイン賞ベスト100及び特別賞「ものづくり」にも輝く。個人としては「WIRED Audi INNOVATION AWARD 2017 未来に向けた革新をもたらす30人」に選ばれる。
https://mini-mal.tokyo/
- PATH Owner Patissier
後藤 裕一 / Yuichi Goto
1980年12月5日、東京都出身。法政大学法学部卒業。
PATHオーナーパティシエ / Tangentes Inc. CEO
大学法学部卒業後、「オテル・ドゥ・ミクニ」へ。新宿「キュイジーヌ[s] ミッシェル・トロワグロ」を経て渡仏。ミシュラン三ツ星レストラン「トロワグロ」にて、アジア人初となるシェフパティシエとして活躍。帰国後、2015年代々木八幡に「Bistro Rojiura」の原シェフと共に、「PATH」を開業。また、パティシエという職業の新たなる可能性を求め、2017年「Tangentes Inc.」を設立。デザート・菓子製造にとどまらず、メニュー開発や店舗コンサルティングなどの業務を行っている。
- CREDIT
- 文: 稲田浩 / 写真: 森本洋輔