森枝幹シェフと水について考える

潤いのレシピ ランチトークイベントレポート


PromotionPromotion  / Oct 9, 2020

9月26日(土)明治神宮前[MIZUcafé PRODUCEDBY Cleansui]にて、「RiCE.press」内での連載[潤いのレシピ]をリアルで体験できる、森枝幹シェフによるランチトークイベントを開催しました。

下北沢[Salmon&Trout]立ちあげからシェフを務め、現在は新生渋谷PARCO内にタイ料理店[chompoo]で料理長を務める森枝氏。日本・世界の食文化に触れ、圧倒的な知識量に裏打ちされた調理技術と、自由な発想でフードシーンの先端をひた走る森枝氏と共に「水」について考えてみました。聞き手はRiCE編集長、稲田浩です。

「和食」にとって水は大事。でも「和食だけ」ではない。

稲田:森枝くんは和食からガストロノミーまでやって、そこからタイ料理といろいろなジャンルを横断してきたよね。「和食には水が大事」ということはよく言われたりするけど、その辺りはどんな風に考えている?

森枝:和食に限らずどこの料理でも水は大事だと思いますけど、和食が大事というのは確かにそうで。中華料理の場合は油脂を媒介にして何かを炒めたりするところを、日本では水を使うことが多かったりしますから。

稲田:水がベースにあって、そこから料理が枝分かれしている感じなのかもしれないね。同じ日本の中でも東と西で水が違う、東がちょっと硬めに対して、西は軟水だったり。軟水の方が出汁が取りやすいから、京料理に代表されるような出汁の文化は関西で発達したんですよね。日常的に水の違いって、考えたりすることはあまりないけど、改めて考えると面白いよね。

森枝:今日のテーマは水ということもあって、(ゲストに向けて)早速ですが水を2種類用意しています。飲み比べてみていただいてもいいですか?

ゲストに向けて用意された二種類の水が、イベント冒頭で提供されました
水を飲み比べる参加者たち。普段比較することがないだけに、真剣な表情が印象的です

稲田:どちらもクリンスイの浄水器を使ったお水ですけど、いざ違いを言葉にするのは難しいかもしれません。「ちょっと重い」「酸味が強い」などの感想をいただきましたが、一体何が違うんですか?

森枝:二つとも同じく浄水なんですけれど、片方は半分に切ったシャインマスカットを3時間ほどつけこむことで、香りをつけています。違う水だと言われたら、いろいろ考えちゃいますよね。今日は水というベーシックなところをテーマにしていくので、この後に出てくる料理も細かい差異を感じながら食べてもらえると良いのかなと思って。最初にお水を飲み比べてもらいました。

稲田:話を戻せば森枝くん的には、料理において「水」ってどのような存在という印象ですか?

森枝:水が違うと料理そのものが違ってきますよね。最初に働いたシドニーの[Tetsuya’s]とかは水にすごくこだわっていて。コーンスープとかも軟水のミネラルウォーターでつくったりしてました。普通の水を使った時と、味の乗り方が違うんです。

稲田:帰国してからは和食の[湖月]ですよね。やはり水にはこだわってましたか?

森枝:やはり浄水器を使っていましたよ。

正体不明な「味の引き算」

稲田:和食って素材そのものの味を引き出すという点で、「引き算」って言われることが多いですよね。そういう時にも、水がキーになってくるのかなという感じがします。

森枝:僕、よく言われる「引き算」の意味がよく分からなくて。何のことを言っているのかなって、いつも思っていて。

稲田:本当?

森枝:そうそう。今、タイ料理をやっているからなんですけど。結局のところ味の組み立て方の話かなと思っていて。味って足していくだけだと思うんです。タイ料理とかって、酸味や辛味、甘味をそれぞれ足したバランスが大きかったりするんですけど。日本料理は、旨味が繊細だから、大小でいうなら小さかったりする。でも「味のバランスが小さい」=「引き算」ではないんじゃないかなと。例えばお刺身だってシンプルに見えるけど塩味とアミノ酸、そこに甘さも加わるので要素としては結構ある。シンプルなふりして全然シンプルじゃない、複雑な組み合わせだと思っています。そうすると和食の「引く」って、一体何を引いているのだろうかって考えることが多くって。タイ料理の面白いところは、唐辛子ひとつとっても、旨味もあれば、香りもある。そして唐辛子以外の香りも一緒に組み合わさることで、辛さが気持ち良く感じるようになる。ココナッツクリームを入れれば、辛さがマイルドになり、酸味の強いものを入れると、もっと辛く感じる…。一つの要因が何に、どう作用するかを全部計算して、味を構築しなければいけない料理だなって。

稲田:森枝くんみたいに色々なところをやった上でタイ料理をやっている人って少なくて、普通はひとつずつしかフォーカスしないじゃないですか。一貫して、全部を見渡せる人の視点は面白いよね。タイ料理というと、いわゆるタイ飯っていう。いまだにガパオがあって、トムヤムクンとかって、くらいの漠然としたイメージしかなかったりするし。

森枝:人気な料理が強くなりすぎて、長いことアップデートされないんですよ。ちなみに、トムヤムクンを世に広めたのは、僕の親父だとWikipediaに書いてあります(笑)。そのせいで、(日本におけるタイ料理が)トムヤムクンだらけになるという。

稲田:めちゃくちゃ食文化に影響を与えていますね。

森枝:余計なことをしてくれたなって(笑)。

稲田:じゃぁ父を乗り越えるためにタイ料理を?

森枝:トムヤムクン以外のスープを、もっとメジャーにできたら勝ちかなと思っています(笑)。

水のおいしさを表現する料理

稲田:今日は森枝くんに料理を用意してもらっていて、連載の中でも提案していただいた茶粥とかは、素材を味わうという意味でも、水の作用や違いみたいなことを、際立って感じられるのかなと。

森枝:はい。でもこの仕事(RiCE.press 連載「潤いのレシピ」出演)のオファーをもらったときに、正直めちゃめちゃ難しいなって。水のおいしさを、料理に表現するって、けっこうハードですよ。

稲田:すごく根本的な話だよね。基本の「き」なので。

森枝:基本の「き」すぎて。けっこう大変だなと思いながら。ちょうど自粛期間中、お茶にめちゃめちゃはまっていて、お茶のお水どうしようかなとか、いろいろ思っていたときだったので。お茶専用の浄水器を使ってやらせてもらいました。付け合わせのぬか漬けは、パプリカとじゃがいもはMIZUcafeでも提供しているサステナブル野菜を使っています。

稲田:コンポストして、ちゃんと循環させた土を使った、八ヶ岳のファームで収穫されたお野菜ですよね。

森枝:それをぬか漬けにしました。

稲田:ぬか床は森枝くんの自宅のなんだよね。森枝家の味が味わえるということで。

森枝:はい。もれなく森枝菌が味わえます(笑)。

稲田:じゃがいものぬか漬けってはじめてかも。

森枝:意外に合うんですよ。実はぬか漬けハマってて。アボカドとかもけっこうおいしかったし。ゆで卵のぬか漬けもいいですよ。

稲田:もう、なんでも漬けちゃうみたいな?

森枝:いや、なんでもは漬けない(笑)。でも一回だけ漬ける用であれば、肉とか魚、イワシとかアジとかを漬け焼きしてもおいしいですよ。同じお皿に乗っているのは「茶卵」です。台湾でよく食べられている、お茶に八角とか、いろいろスパイスと、少しお醤油とかで味付けした料理ですね。

稲田:柄が特徴的ですよね。

森枝:あと今日のごはんは、ほうじ茶で炊いています。「和食のためのクリンスイ」のお茶専用の浄水器で抽出しました。お出汁は、昆布とかつおでとった一番出汁。こっちも特別な出汁専用のカートリッジを使っていて。そこにちょっとだけお醤油と、お塩で、味を足しています。上にはゆずをちょこっと添えて。秋の香りを召し上がりつつ、お話を聞いてもらえたら。

写真中央がお茶に特化したポット型浄水器。「和食」のために、こだわりの水をという意図で開発されたシリーズであり、お茶だけでなく、お米を炊く時や、出汁を引く時とそれぞれ専用のカートリッジを販売中。
カートリッジは互換性があるので、シーンに応じて使い分けも自由自在

わかりやすいおいしさが席巻する世の中で、小さなおいしさを噛み締める知性

森枝:料理のコンサルのような仕事をすることもあって、よく聞くのが「ペペロンチーノに昆布茶を入れないと、おいしいと思ってもらえない」みたいな課題です。そういうことを耳にする度に、グルタミン的な強い旨味以外のおいしさ、オリーブオイルの風味とか、小麦を噛んで甘く感じる味があっても良いよなと思うんです。今回は出汁を引きましたけど、出汁のおいしさというより、かつお節の燻した香りや、ほうじ茶のすごい香ばしさみたいなところを感じてもらえたら。舌で感じる味や、強い旨味に限らず、おいしいと感じる要素はいっぱいあるはずで。それは水を媒介にすることで、意識できるような気もしている。

食べる直前に出汁をかけて。香ばしいお茶の香りが広がります

稲田:かなり贅沢ですよね。お茶も煎りたてだったりするし。

森枝:今日は出汁もひき立てですし、ほうじ茶も昨日、渋谷の[GEN GEN AN]さんに煎ってもらったもので。このときにしかない香りです。香りがごちそうというか、その瞬間を食べるようなイメージですね。

稲田:頷きながら食べていらっしゃる方も多いから、素材感とか、みずみずしさみたいなものも感じていただけているのかなと。でもこういう料理、外食ではあまり味わえないですよね?

森枝:味が薄くて、食べてくれないんですって。味が強くないと、おいしいと思ってもらえない。僕自身も外食をして、疲れることもありますし。でも豊富な食材がなくたって、水にこだわっていれば、こういう香りを楽しむことで、自宅で贅沢な気持ちになれたりする。

稲田:家にいる時間も増えたからこそ、こういう料理を自分でつくれるといいですよね。自分の中で「何がおいしいのかな」「素材ってどういうことかな」と、それぞれの違いに向き合ってみるのも面白い。

森枝:食べることって脳を刺激すること、頭を使うことだなと思うんです。どれだけ自分がいろんなことを気づいたり、感じられるかというところを、僕は食べるときはとても意識していて。今日用意したじゃがいものぬか漬けとかも、少し硬めに茹でてあるんだけど、(じゃがいもに)歯が入っていく感じが気持ち良いなとか、そういうこと感じながら食べられるといい。「脳のこのあたりが、もっと気持ち良くなったらおいしいだろうな」とか考えながら食べるし、料理をしていますね。

稲田:すごい頭使ってるね。

森枝シェフ:タイ料理とかだと、本当に鍛えられるんです。「あっ、何故こういうふうに感じるんだろうな」って。意外にもタイ料理って繊細なのかもしれない。

稲田:なるほどね。今森枝くんがやっている[Chompoo]はコース料理もあると思うんだけど、常にベストな流れになるように組み立てをしているわけだよね。それは五感というか、食感をはじめとして、今言っていたみたいな、「脳がどれだけ刺激されるか」を考えていろんな景色、いろんな体験を織り込む設計をしていくということ?

森枝:いろんな感覚を刺激できるようにはしていますね。香りもゆずとか、山椒のような強い香りだけではなくて。お米にだって香りはあるし、そういう小さい香りをどれだけ気にしてもらうか。どこにフォーカスを当てる料理にするかは、かなり意識してやっていることかな。

稲田:めちゃめちゃ難しいことをしているね。ちゃんと頭を使って、考えないと、そんな流れってつくれないのかなって思ったりするけれど。

森枝:できるだけナチュラルに伝わるようにしたいというのもあって。考えすぎ、あまりにも作為的なのは正直かっこよくない。「狙いすぎだな、このコース」みたいな。どれだけ自然に演出するか、どこを山場にして、面白いなと思ってもらえるようにするか。食材も水もひとつひとつ違うので、その差異をどう表現するか。自分自身、その感覚を磨いていく毎日ですよね。例えば、ペットボトルの水でお茶をいれてみる。並行して、違う水で同じ分量のお茶をいれて比較する。そういう実験的なことをしてみると、いろんな気づきがきっとあるはずだから。僕が何か言って気づく…、みたいなことよりも、実際に手を動かしてやってもらったりする中で気づいてもらえたら。それを繰り返すことで経験が蓄積されて、料理が勝手に上手になっていくのかな。そういうのに気づかせてくれる道具という点でも(浄水器は)面白いですよね。

稲田:自分自身の料理もですが、外で食べたり、人の料理を頂くときにも、いろいろなことに気づけるようになるかもしれないね。

ランチトークイベントは和やかなムードで幕を閉じました。森枝シェフの言葉にもありましたが、まずは自分で水道水と浄水を飲み比べて違いを感じてみる。そしてお茶や料理など、応用させた時にどんな違いがあるのかを考察してみると、何か新しい発見や「おいしい」と感じるポイントに変化があるかもしれません。

登壇いただいた森枝シェフに監修いただいたメニュー「ぶどうと山椒の冷製パスタ」が、10月15日(木)まで、今回の会場にもなった明治神宮前[MIZUcafé PRODUCED BY Cleansui]にて数量限定販売中です。水の飲み比べやマイボトルへの給水も行っいるので、こちらもぜひチェックしてみてください。

Text by Shunpei Narita
Photography by Junko Yoda

 

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