「決めて、進む」の繰り返し。研ぎ澄まされた唯一無二のスタイル
2021年、Kabiの現在地点 feat. Johnnie Walker
国際経験豊富なシェフとソムリエによる創造的なコースが評判高い、東京・目黒のレストラン[Kabi]。20代を中心としたスタッフたちが、ヒップホップをBGMにキッチンと客席を軽快に行き来する。料理とドリンクに込められた想いを実直に届ける様は、洗練されていながらも気負わない雰囲気。店舗では古着や写真のイベントが催されるなど、他カルチャーとの接合点的な一面もある。2017年にオープンするや、過去に類を見ない革新的なスタイルが支持され、瞬く間にシーンの最エッジへと躍り出た。
コロナ禍で打撃を受ける飲食の世界においても、「Kabiにしか出せないものを出している」(オーナーシェフ・安田翔平)という言葉の通り、唯一無二の存在感を放ち続ける彼ら。今回は世界No.1(※1)ウイスキーブランド・ジョニーウォーカーのテーマ「KEEP WALKING 迷ったら、ときめく方へ。」と呼応し、人生の岐路における決断を尋ねる。
ドリンクペアリングの評価も高い同店に、世界中で愛されるジョニーハイボールとベストマッチなオリジナルメニューと、その作り方も指南いただいた。
[Kabi]オーナーソムリエの江本賢太郎(写真左)とオーナーシェフの安田翔平(写真右)に話を伺った。
「東京で一番尖った店」ができあがるまで
――――お店をオープンした2017年は、お二人とも20代後半ですよね。若くして大きな決断だったと思います。
江本 失敗したらどうするのか?と散々言われたけれど、不安は微塵もなかったです。これは良い、という確信があるからお店をやりました。自分に嘘をついたり、妥協してうまれたものではないので。
江本賢太郎。1989年生まれ。ミシュラン二つ星レストラン、フランス[Maison Decoret]で研修、東京都内の飲食店でサービスとワインを学び、醸造学の権威として知られるカリフォルニア大学デービス校に留学。その後メルボルン[NORA]でソムリエとしてのキャリアを積んだ。
安田 僕も不安はほとんどなかったです。[Kabi]を始めたのは、外国人に日本の文化をちゃんと見せたいという気持ちがあって。志は高くても外国人お断りの寿司屋とか、予約困難な店ってあるじゃないですか? じゃあ普通に予約が取れて、僕らの感性で解釈した日本の料理をプレゼンできたらいいなと。
安田翔平。1991年生まれ。大阪・瓦町の二つ星フレンチ[ラシーム]を経て、東京・白金[TIRPSE(ティルプス)]ではオープニングより勤務、スーシェフとしてミシュラン史上最速での一つ星獲得に貢献。その後デンマークへと渡り一つ星レストラン[Kadeau(カドー)]でシェフに。
ワイングラスや皿と同様に、自家製の昆布茶もじっと登場の機会を窺いスタンバイしている。店名が[Kabi]たる理由は発酵に不可欠な「カビ菌」が由来とあって、「発酵」は[Kabi]を理解する上で欠かせないキーワード。コース内では発酵調味料を駆使した料理が多数提供される。
――――お二人でお店をオープンさせる構想は以前からあったのですか。
安田 全然そんなことはなくて。Kabiがオープンする1年前かな? たまたま今[Kabi]の横にあるワインバー[アンジュール]で知り合ったんです。
江本 いきなり話しかけてきて「変なやつがいるなぁ」と思ったら、そいつが翔平で。存在自体は耳に挟んでいたので「あぁお前か!」という感じでしたね。
軌道に乗り2号店もオープン、そして迎えたコロナ禍。
――――そこから意気投合して一緒にポップアップでレストランをやったり。
安田 東京で5、6回やって地方でもやりましたね。生産者にも出会う機会が増えた。東京だといい食材はすでに先輩方が取っちゃっているんだけど、地方には(あまり知られていない、いい食材が)まだある。有機的な繋がりでいいものが集まるようになったことも、お店を始めるきっかけのひとつです。
江本 あとはどうしても店がないと出来ないことってある。例えば翔平が料理をつくっている最中に、その時の直感で「やっぱりこれだ!」と事前に決めていたものと違うものをつくりはじめるとする。ソムリエの僕からすれば、合わせるお酒も当然変えたいんだけど、イベントに持っていける手札って限られてしまうので。
――――お店があり様々な種類のお酒をストックできれば解決しますもんね。そして物件も探すようになって。
安田 小さいところから、大きいところまでいろんな物件を見たんですけど。はじめて見た瞬間に、ここがいいなと。
江本 今の物件を見せてもらった時は、本当に即決したよね。海外から戻ってきて、日本の良さみたいなのは感じていたから、歴史のある建物の感じは良いんじゃないかなと。天井が高かったのも決め手です。
築役90年、目黒通りでもおよそ2番目に古い日本家屋を改装した店舗は、積み重ねた歴史の長さを感じる要素が節々に。
――――お店の佇まいからコースの構成まで、今までになかったようなスタイルだけに一躍人気店になりました。
安田 イケイケでしたね。海外から研修のスタッフが常に4人くらい来てくれていたし。昨年の2月には兜町のマイクロ複合施設・K5に[caveman](2号店)をオープンしました。正にこれから…という時にコロナがやってきて、4月5月は店を閉めた。ここからが大変でした。
江本 テイクアウトもやったけど、お客さんの顔を見ながら、カウンターで料理を出しているのがウチらしい。それ以外のことを無理にやっても楽しくないから、すぐに止めたんです。面白いことができないなら、やらなくていい。Kabiをやる意味がなくなるから。
安田 お店を閉めるかって話も出たし、このままだとやばいかも…というタイミングで感染者が減りました。そこで営業を再開したらお客さんが戻ってきてくれて。今も緊急事態宣言は出ているけど、しんどい時期を1回乗り越えたので、何があってもいけると信じています。
――――そこに迷いはなかったですか?
安田 特別迷いはなかったです。ただ料理の内容は難しくなりましたね。20時に閉めろと言われて12皿を6皿にする、それは考え方が全く違うので。それでもどこかKabiっぽい料理をつくることは、絶対にぶらしたくなかった。
流行の逆を行く「手数の多い」料理と
「感覚や心が揺れる」ドリンクのペアリング。
――――「Kabiっぽい料理」を、自分たちではどのように解釈してますか?
江本 世の中的な風潮は、素材の味を生かした、手数が少ない料理だと思うんです。それに対して(Kabiの料理は)けっこう逆行していて。めちゃくちゃ手数が多いんです。
安田 手数、重ねまくりだからね。
江本 例えばおいしいニンジンを、いいバターで焼いたら、めっちゃおいしいじゃないですか? でもそれは想像の範囲内の味ともいえる。対して翔平の料理は、いろいろなものを重ねて複雑なものの、主原料の輪郭はくっきりしている。ちょっとわかりにくいし、首をかしげるお客さんもいる。でも「おいしいだけの料理」はウチが出す必要がないと思っています。それは他所でいっぱい食べられるから。他ではやれない発想やクリエイティビティこそがKabiのスタイルなので。
――――なるほど。そういう料理に合わせるドリンクはどういう考え方なのでしょう。
江本 僕はドリンクのコースをつくる感じでやっています。料理とドリンク、二つ線がありながらシンクロしているイメージ。完璧なペアリングを狙う時もありつつ、意外性のあるもので外すことも。
――――常に全開にしないのはなぜでしょう?
江本 感覚や心がブレる、揺れる方が良いなと思っているからです。口の中の温度変化も考えます。例えば最初に冷たいのから入ったら、次は熱燗で、といった具合です。
Kabiのエッセンスを感じる、ペアリングの実例
――――そんな料理とドリンクの考え方は、具体的にどういうことなのか? ジョニーウォーカーブラックラベル12年を使ったハイボールをお題に教えていただいてもいいですか。
安田 ハイボールに合う「カツオの天ぷら」を。でもただの天ぷらじゃ面白くないので、特製のオイルと、うまみの強いパウダーやオリジナルの七味をかけて食べます。ちょっと手数が多いでしょ?(笑)
衣を纏わせたカツオを、高音の油にくぐらせて1~2分。カリッなるまで揚げる。
お皿には自家製の利尻昆布をローストしたオイルと、松の葉のオイルを敷いておく。エディブルフラワーを添えて彩りもよく。
江本 揚げた天ぷらにオイルを合わせているんだけど、意外と重くないよね。
安田 オイルって水分がほとんどないから、衣と一緒になっても染み込んでベタっとせず、カリカリのまま食べられる。揚げ物はどうしても酸化しちゃうけど、フレッシュなオイルの香りがあると、酸化したイヤな香りを打ち消してくれる。
――――スパイスやオイルの使い方が華やか。初夏らしい爽やかな感じですね。ハイボールとの相性は?
江本 天ぷら、揚げ物だから口の中は油でコーティングされますよね。赤ワインとかでもいいんだけど、流すとなると絶対に泡があるほうが良くてハイボール。でもただのハイボールでいいかと言うと…、そうではない。深みがないと、口の中がスパークリングウォーターを飲んでいるような感じになって物足りないんですね。
江本 ジョニーウォーカーブラックラベル12年はスコッチだけど、ピート香が強すぎず穏やかな印象。それでいて熟成というか、樽からくる深みのようなニュアンスを感じました。炭酸ですっきりとしながらも、ジョニーウォーカー特有の深めの香りが口の中に残ることで、最後の余韻まで楽しめるかなと。
江本 ハイボールで口の中を流したときに、炭酸が弾けると同時に天ぷらの華やかな香りも上がってくる。そしてハイボールを飲んでジョニーウォーカーの深みのある余韻を楽しむ。天ぷら、ハイボール、天ぷら、ハイボール…と、良いループを続けられると思います。
「選んだ状況を楽しむこと」がカギ
――――まさにKabiらしいというか、多層的なレイヤーの料理に、ハイボールを飲んだ前後の感覚まで考え抜かれた絶妙なペアリングでしたね。最後になりますが、こういう時代で岐路に立っている人は多いと思います。若い世代に向けて声をかけるとしたら、どんな声をかけますか?
安田 スタッフの中には「海外に行く」と決断しても、行かない人も多くて。僕も英語しゃべれなかったんですけどとりあえず行きました。詐欺にもあったり、嫌なこともあったけど、なんとか生きているから。
江本 俺も最初に海外に出た半年間くらいは、金なさすぎて5ドルのサブウェイLセットを半年間、朝昼晩に分けて食べていた(笑)。苦しいけど、でも良かったよね。海外でやったからこそ、そういう海外のお店からのオファーもある。なかなか頻繁に海外に行くのが難しいご時世ではあるけど、やりたいことがあるなら確実に行ったほうが良いよね?
安田 うん。車の免許取りたいなとかもそうなんだけど、思ったり感じていることがあるなら、後はやるだけ。迷っている時間があるなら一歩を踏み出した方が早い。
江本 全く同感です。いざ自分が選んだ環境に身を置いたとき、その状況を楽しんでさえいれば、どうにかなると思っているので。
ジョニーウォーカーのメッセージ「KEEP WALKING 迷ったら、ときめく方へ。」に呼応し、フードカルチャーの中心にいる[Kabi]の2人にお話を伺った。彼らと同じく、直感を信じて歩き続けるアーティスト達によるライブとトークを届けるオンラインライブシリーズ”The LIVE-HOUSE”が公開中!
ゲストには、STUTS、大比良瑞希に追加で、SOIL&”PIMP”SESSIONS、Lucky Kilimanjaroの出演が決定!
通常のライブ会場ではなく、本音が聞ける彼らの「プライベート空間」で、アーティスト達の人生におけるさまざまな決断などをテーマにしたトークとパフォーマンスを体験することが出来る、そんな特別なライブもぜひどうぞ。
JOHNNIE WALKER PRESENTS “The LIVE-HOUSE”
第一弾:大比良瑞希
第二弾:STUTS
材料
カツオ 50g
天ぷら粉 適量
小麦粉 適量
炭酸水 適量
サワークリーム 20g
ジャスミンコンブチャ 10g
ナスタチュームの花 3枚
ロースト昆布オイル 5g
松の葉のオイル 5g
金柑のジャム 適量
七味唐辛子 適量
ホタテの肝のパウダー 適量
ムール貝の出汁を煮詰めたジュースを乾かしたパウダー 適量
作り方
1.カツオを捌いて塩(分量外)をする。天ぷら粉と小麦粉を炭酸水で溶いたものに浸し、高温の油で揚げて天ぷらにする。
2.サワークリームとジャスミンコンブチャのクリームを皿にひき、上にナスタチュームの花を乗せる。
3.ローストした利尻昆布のオイルと松の葉のオイル、金柑のジャムの上に天ぷらをのせる。七味唐辛子とホタテの肝のパウダーとムール貝の出汁を煮詰めたジュースを乾かしたパウダーを上にかける。
Kabi
東京都目黒区目黒4-10-8
03-6451-2413(12:00-17:00)
*予約はオンラインのみ
Instagram @restaurantkabi
(※1)IMPACT DATABANK 2019に基づく販売数量
CREDIT
Photography: Norio Kidera
Interview : Hiroshi Inada
Edit and Text : Shunpei Narita