RiCE編集部の本棚ひとつまみ
No.1『ビール世界史紀行 ビール通のための15章』
カレー、チョコレート、クラフトビール、エシカルフード…毎号ひとつのテーマにフォーカスし、食とその周辺のカルチャーをジャーナルしているRiCE。リサーチがあれば、取材でお世話になった方々から届く本もあり、編集部の本棚は特集を重ねるごとにジャンルが広がっていきます(収納スペースは狭くなりますが)。この連載では、そんな本棚から特集の関連書や、おすすめの本をご紹介。料理を味見するように本をひとつまみすれば、食べること飲むことがもっと楽しくなるかも?
1冊目は、『ビール世界史紀行 ビール通のための15章』(村上満 著/ちくま文庫)。
今やコンビニでも様々な種類のビールを手軽に買える時代。クラフトビールの隆盛にともなって「とりあえずビール」という飲み屋の定型フレーズも「どんなビールが好き?」という対話に変化した。
しかし、ビールをたくさん飲んでも、そのルーツや歴史については案外知らないままだったりするのでは?
そんなビール好きの必読書がこちら。史実に基づき丁寧にビールのなんたるかを掘り下げた『ビール世界史紀行 ビール通のための15章』。サントリーでビール造りに携わってきた村上満氏が執筆した大学講義原稿をもとに書籍化された本書は、現在の自由なビール文化の根幹にある逞しい歴史に思いを馳せられる一冊だ。
例えば、世界で最も飲まれている液種・ラガービール。黄金色の液体をキンキンに冷えたジョッキでグイグイ飲む時間は、この暑い夏最高にクールなそれの一つではないだろうか。そんな「ビールといえば」のラガービールだが、市場を拡大し始めたのは19世紀以降、歴史においては最近であることをご存じだろうか。こうしたエピソードひとつをとっても、今のビール文化の形成までにかなりの紆余曲折があったことが伺える。
紀元前メソポタミアでのビール発祥から、修道院のビール醸造、エールとラガーの違いまで多角的な分析から“人々にとってビールがどのような存在であったのか”を浮き彫りにしてくれる。技術史・文化史として読み応えがあるだけでなく、ビール好きとしては放っておけないビール蘊蓄も盛りだくさんだ(酒量同様、蘊蓄も適量に、だが)。
巻末のビール小辞典には、トピックごとにビールの専門用語も掲載されているため、パラパラとめくりビール選びの参考にしてはいかがだろう。ちょっとした知識とビール史を切り開いた先人へのリスペクトが、普段のビールをさらに美味しくしてくれるかも!
『ビール世界史紀行 ビール通のための15章』村上満 著/ちくま文庫/2000年初版
Text by Rin Inoue