ジビエとのペアリングイベントや地産品での限定醸造も
山梨に根をおろすクラフトビールブルワリー[Far Yeast Brewing]の今
地域に根付きローカルの魅力を発信する、というのは飲食が得意とする分野の一つだ。たとえば、東京の人気シェフが地方にレストランをオープンするのも、もう自然なこととして受け入れられるし(もちろんニュース性は高いが)、各地の食材にインスピレーションを受けながらその地で料理をするというのはとても得心がいく。何より、「そこに行かないと食べられない」ということは、モノより体験を求める今の私たちの気持ちにフィットしている。世界を見ても、最先端と呼ばれるレストランの多くが、ローカリティを料理で表現している。
ビールはどこでも造れるとよく言われるけれど、自由な造り方が許されたお酒だからこそ、さまざまな副原料を組み合わせることが可能で、かつ食べ物との掛け合わせも言うまでもなく、そういった意味では地域特性を活かすポテンシャルが高い。
今回注目したのは、2020年に本社を渋谷から山梨県の
グローバル展開からローカル密着へ
“Democratizing beer”をテーマに、2011年に立ち上がったクラフトビールブルワリーの[Far Yeast Brewing]。当初はいわゆるファントムブルワリー(自社工場を持たずに、既存ブルワリーでオリジナルレシピを委託製造してもらう形態)としてスタート。現在もシグネチャーの一つである「馨和 KAGUA」は、当時からベルギーで造っている。
世界的なクラフトビールブームの流れを掴み、ベルジャンストロングエール(馨和 KAGUA)、セゾン(Far Yeast 東京ホワイト)、ジューシーIPA(Hop Frontier)といったスタイルのビールを販売し、“ビールの多様性と豊かさをもう一度戻す”というテーマを体現してきた。日本らしさあふれるプロダクトは海外展開も意識していて、現在世界28カ国で販売されている。
グローバルな日本のクラフトビールの先駆けというイメージのある[Far Yeast Brewing]であるが、2017年に山梨県小菅村に自社工場[源流醸造所]を設立、2020年に同地に本社を移転させてからは、ローカリティも感じさせるブルワリーに進化している。
地域に根ざすブルワリーの存在
小菅村のお隣、丹波村付近の景色。渋谷ICから100km足らずの距離だが、秘境と呼べそうなくらい山深い。道中には奥多摩湖や温泉もあるので東京からのドライブも楽しい
代表の山田司朗さんの出身は名古屋。東京でベンチャーキャピタルやIT企業で活躍し、海外経験もあるが、山梨にゆかりがあったわけではない。東京から近く、魅力的な環境を……と探し求めていたところ、小菅村に出会うことができた。
“フルーツ王国やまなし”と呼ばれるように、果物をはじめ農産物が有名な山梨県。規格外の桃をアップサイクルしてビールを造ると大きな反響があり、[Far Yeast Brewing]としてのビール造りは新しいステップを踏むこととなった。
2023年12月12日(火)に発売となったのは、山梨県産のトマトを使ったベジタブルエール「Far Yeast とまちぇら(Tomachela)」。山梨県北杜市の農業生産法人・株式会社リコペル(▷WEB)、中央市のトマト農家・株式会社ヨダファーム(▷WEB)との取り組みとして、 コロナ禍の影響でロスになった無添加トマトジュースをアップサイクルしたビール。2021年にリリースされた「Omoiro Tomato Ale(おもいろトマトエール)』の好評を受けてこの度進化版が生まれた
(商品詳細ページ)/Photo courtesy of Far Yeast Brewing
「山梨応援プロジェクト」と名付けられたこのシリーズでは、他にもブドウや米など山梨県の農産物をフィーチャー。規格外などロスになりそうな食材をアップサイクルしたり、地元に古くからある品種を継承する作り手を応援したりと、地元農家とのつながりを大切にしながら、オリジナリティあふれるビールを次々と生み出している。
ビールと地元食材をごちそうに、
山梨に人を呼ぶ
10月には、[Far Yeast Brewing 源流醸造所]の見学ツアー+ジビエ料理とビールのペアリングイベントが開催され、東京や山梨県内を中心に20名ほどが小菅村・丹波山村エリアを訪れた。
「低温調理した丹波山産鹿ハツのカルパッチョ」と「馨和 KAGUA Blanc」。鹿ハツに、フレッシュトマトとバルサミコのソースを合わせた一品目。シザーサラダには鹿タンベーコンが和えてある。「馨和 KAGUA Blanc」に使用される柚子、山椒、小麦麦芽のエステル感など香りの掛け合わを楽しめた
「丹波山産原木椎茸のピッツァ」と「Far Yeast 東京ホワイト」。秋にしか収穫できない原木椎茸の香り、旨味、食感を存分に味わえる焼きたてピッツァに、ホップ感とエステル香が特徴的ながらドライな飲み口の「東京ホワイト」がマッチング
「丹波山産鹿ラグーラザニア」と「Far Yeast Trigger Chapter 2」。鹿の旨味が詰まったラザニアに、ホップが力強く利いたウェストコーストIPAがぐっと来る
「丹波産鹿ロースト」と「Off Trail Wild Caught / Barrel Aged Wild Red Ale with Sansho Pepper」。この日のメイン料理は、目の前で焼かれた鹿ロース。ジビエらしい香りが鼻に抜ける赤身肉に、鹿肉ペアリングのために醸造された樽熟成のワイルドエールで口中調味
「KAGUA Rougeで煮込んだ丹波山産鹿の胸骨の煮込み」と「馨和 KAGUA Rouge」。旨味の一番強い胸骨部分をぜいたくなビール煮に。山椒がふんだん使用され、ロースト感のある「KAGUA Rouge」で大満足
その他にも、鹿の生ハムが秋晴れの下振る舞われたり、ホップを加えたキャラメルのイタリアンプリンがデザートで出たりと、気持ちよくお腹いっぱいになれるコースだった
ジビエ料理を振る舞ったのは、古くから狩猟の村として知られる丹波山村でジビエブランド「タバジビエ」を営む保坂幸德さん(左)と、同じく丹波山村(山梨県)に古民家を改装したコミュティカフェ&コワーキングスペース[TABA CAFE]を営む星野允人さん(右)
[FAR YEAST BREWING]のブルワー・小松雄大さん(左)と武田アレクサンダー夏樹さん(右)
美味しい料理とビールに舌鼓を打ったのは参加者だけではなく、[Far Yeast Brewing]のブルワーやスタッフも一緒だった。顔が見えること、一緒にビールを飲むことは、地域に根をおろすことにおいていかに大切か実感することができたが、それは造り手も同じ気持ちだったよう。
「飲んでくれる方々から直接感想が聞けるのはすごく嬉しいですね!」と小松さん。この時は新作の限定ビールで冬向けのスタウトを仕込んでいるところで、そうした製造裏話を聞けたのも貴重だった。
「各ブルワーがアイデアを出して限定醸造を色々と造っています。ぜひ飲んでいただいて、第2弾、第3弾と造っていけたら嬉しいです」(小松)
この日初めて[Far Yeast Brewing]のビールを飲んだという参加者もいて、造り手・飲み手双方にとって充実感あふれる一日となった。
11月には、東京・五反田にある[Far Yeast Tokyo Brewery & Grill]でも、タバジビエを招いてのイベントが開催され、鹿バーガーや特別メニューが提供された。山梨を訪れるきっかけになりそうだ。
山梨県上野原市には、直営ボトルショップ[Far Yeast Bottle Shop 見晴亭]がオープンしたので、山梨の“イーストサイド”にお出かけ、もしくは次回イベントが開催される際には、澄んだ空気の中で最高のビールを飲んでみてほしい。
Far Yeast Brewing(ファー イースト ブルーイング)
2011年創業。ミッションは“Democratizing beer”—「産業化によって画一的な大量生産商品になってしまったビールの多様性と豊かさをもう一度取り戻す」こと。和の馨るエール 「馨和 KAGUA 」、伝統からトレンドまで多様なスタイルの「Far Yeast」、イノベーティブなビール造りに挑戦する「Off Trail」という3つのクラフトビールブランドを展開し、個性あふれるビールを世界へ向けて発信している。
WEB faryeast.com
IG @faryeastbrewing
X(TW) @faryeastbrewingPhoto by Taro Oota(写真 太田太朗)IG @taro_oota
Text by Yoshiki Tatezaki(文 舘﨑芳貴)
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