AC HOUSE× ザ シングルトン Special Event Report
“料理に合うシングルモルト”という新しいカルチャーがうまれるとき
ウイスキーペアリング新時代。
昨今フードカルチャーの大きなテーマの一つである、ペアリング。定番のワインだけでなく日本酒やノンアルコールドリンクなど、その世界は広がりをみせている。しかし、ウイスキーの姿はほとんど見かけない。RiCE編集部が企画・運営を担当したイベント「The Art of WHISKY PAIRING」では、ペアリングの新機軸として「ウイスキー」を提案。アーティストやデザイナーなど食好きな著名人をゲストに招き、一夜限りのペアリングディナーが4月22日に開催された。
華やかな装いに身を包んだゲストたちを迎えたのは、「ザ シングルトン ダフタウン 12年」。「スコッチウイスキーの聖地」といわれるダフタウン蒸溜所で製造されるシングルモルトのウイスキーで、フルーティーな甘味とナッツ香が特徴だ。
伝統的なウイスキー製法、何世代にも受け継がれるクラフトマンシップ。そしてスペイ川の良質な水で丹念に造られているシングルモルト…。全てが揃い完成する『ザ シングルトン ダフタウン12年』、シングルモルトといえば蒸留地域特有の味わいが特に強く出るものだが、この「ザ シングルトン」は飲みやすい。スムースな飲み心地で料理に合わせやすいのも特長だ。
ペアリングメニューを考案したのは、東京のフードカルチャーを牽引する、西麻布の人気店[AC HOUSE]の黒田敦喜シェフ。イタリアや北欧で経験を積み、現在も意識的に国外へ。[AC HOUSE]では各国の食文化を吸収してきたからこそ表現できる、イノベーティブなコース料理を味わえる。枠にはまらない食体験を追求する黒田氏だが、ウイスキーだけでペアリングを組み立てたのは今回が初めてのことだという。
「ウイスキーは“酒好きのための、通な飲み物”みたいなイメージがあるかもしれませんが、『ザ シングルトン』は甘みとナッツ感があるので飲みやすく、お酒が強くない方、飲み慣れてない方でも楽しめると思います。これから提供するのは5品の料理とそれに合わせた様々な飲み方の『ザ シングルトン』。ショートコースではありますが、充実した内容に満足していただけるはずです。皆さんの反応が楽しみですね」(黒田シェフ)
イベント会場となったのは、東京・六本木のカフェ&ミュージックバーラウンジ[COMMON]。調理場とバーカウンターが一体となったオープンスタイルのキッチンでは[AC HOUSE]チームと[COMMON]チームがタッグを組み、その熱気が客席へとダイレクトに伝わってくる。
会場の高揚感をひときわ盛り上げてくれたDJは、黒田シェフと親交があり[AC HOUSE]にMixも提供しているANDYさん。音楽も食体験のために重要な要素、と話す黒田シェフ。「料理人とDJって似ているんです。塩をほんの少し加えたり、ベースの音をわずかに調整したり。みんなが楽しんでいるときに自分は働く、人をその場で楽しませるのが仕事というのも共通点ですね」
いよいよディナーイベントがスタート。まずは本イベントの企画・運営を担当した、フードカルチャー誌『RiCE』編集長の稲田が挨拶した。
「盛り上がりをみせるペアリングの世界で、次にくる波はウイスキーなのではと感じています。このイベントを通して、ウイスキー『ザ シングルトン』の可能性とポテンシャルを知ってもらいたいです」
食通たちをも唸らせる
圧巻のウイスキーペアリングがスタート。
さっそく料理とグラスがテーブルに運ばれてきた。スタートの、うすいえんどうを使った温かいスープにあわせるのは、「ザ シングルトン」のストレートだ。
一品目からウイスキーと料理の相性の良さと「ザ シングルトン」の飲みやすさに、ゲストからは驚きの声が上がる。
グラフィックデザイナー・アートディレクターの脇田あすかさんは、「外食ではよくペアリングを楽しむのですが、大体ワインか日本酒。ウイスキーのペアリングというのはすごく新鮮で、美味しいですね」。あいみょん、木村カエラなど著名なミュージシャンのアートディレクションで知られる、とんだ林蘭さんも「ウイスキーはクセがあるイメージが強くて、正直これまで抵抗感があったんです。でもこの『ザ シングルトン』は飲みやすく、爽やかな印象。ストレートでも美味しく飲めます」と話す。
続いて運ばれてきたのは、ホタルイカと山菜のタルトと、ハイボール。ホタルイカは牛脂で低温調理することで、ミルキーな味わいに。ジャンキー感のあるタルトを、ハイボールで爽やかに流し込む。
ハイボールに思わず満足げな表情を浮かべているのは、モデルのモトーラ世理奈さん。
「ハイボールは好きで、よく飲みます。いつも飲むハイボールと比べて、『ザ シングルトン』は香りが豊かに感じました。フルーティーな香りが強く残ったのが印象的です」
メインは、ラム肉のロースト。ウイスキーを使ったソースを塗りながら炭火で焼き上げる。そこに合わせたのは、ウイスキーモヒート。フレッシュなスペアミント、ライム、フェンネルシードで構成された、ウイスキーを使用したカクテルだ。
「ウイスキーでカクテルってつくれるんですね!ウイスキーはもともと大好きで食事のときはハイボールしか飲まないほどなのですが、ウイスキーの新しい一面を見られて感動しました」とコメントしてくれたのは、人気イラストレーターにしてデザイナー、音楽家としても活動するeryさんだ。
[AC HOUSE]の締めの定番、パスタがつくり始められると、ゲストたちの視線もオープンキッチンに視線が釘付けになる。この日の締めは、アレッタというブロッコリーとケールを掛け合わせた野菜を使った、シンプルなパスタ。別皿に添えられたカルダモンのバターを加えながら食べ進めていくと、いよいよ終盤戦、デザートを残すのみだ。
デザートは、ふきのとうのアイスに、ホワイトチョコレートとトンカ豆のムース。そしてペアリングドリンクのラストを飾ったのは、ホットカクテル。
シナモン、トンカ豆、八角など数種のスパイスとブラッドオレンジで作ったシロップとウイスキーを合わせ、和紅茶を注いでいく。
「ふきのとうの苦味とカクテルの甘味がすごく合いますね。アイスとホットのバランスもいい。最高です」と大絶賛するのは、ナチュラルワインのケータリングサービス「hebeerryk!」を主宰するTaro Kondoさん。「温かい飲み物がラストにくると、余韻よく締まりますね。最後の一口まで楽しめる、大満足なウイスキーペアリングでした」と、料理家の中本千尋さんも太鼓判を押した。
王道のストレートやハイボールだけでなく、斬新なカクテルまで、料理に合わせてウイスキー「ザ シングルトン」の様々な側面が引き出された本イベント。ゲストたちは終始、驚きと感動に湧く姿をみせていた。
まるで映画のアフタートークのように。
料理人・バーテンダーの視点で考察する「ザ シングルトン」
ペアリングを堪能した後は、「料理に合うウイスキー」をテーマにしたトークイベントの時間だ。今回ペアリングメニューを考案した黒田シェフと共に登壇したのは、バーテンダーの野村空人氏。
イギリス・ロンドンでバーテンダーとして活躍し、帰国後は[Fuglen Tokyo]のバーマネージャーとして数々の賞を受賞。東京・世田谷のバー[Quarter Room]や蔵前のタチノミリカーショップ[NOMURA SHOTEN]のオーナーやプロデュース業も手がけ、東京のバーシーンをリードしている野村空人さん。
野村氏は今回のウイスキーペアリングについて、「全体的に料理にミルキーさがあり、そのクリーミーな味わいが『ザ シングルトン』の良さを引き出していた印象です。僕自身カクテルをつくるときも、ミルキーさを加えることがよくあるんです。今回はミルキーの要素を食事で表現し、そこにウイスキーが合わさって、一つのカクテルのようになっていましたね」と分析。これに対し黒田氏も「実はウインナーコーヒーのように、アルコールに苦味とミルキーさを加えることを意識していました」と応え、ペアリング構成のポイントが明かされた。
ペアリングを考えるとき、野村氏が軸とするのは香りだという。お皿を両手で抱え、料理の香りを身体に取り込み、マッチする香りから組み合わせを考える。そんな野村氏は「ザ シングルトン」の香りに、どのような印象を受けたのだろうか。
「シングルモルトウイスキーは一つのモルトから作られるので、蒸留所による個性が際立ちやすい傾向があります。そのため食中酒としては扱いにくいと感じられる方は多いと思いますが、『ザ シングルトン』はシングルモルトでありながらバーボン樽とシェリー樽を合わせて作られるので、香りのバランスがいいですね。りんごのようなフルーティーな香りと、ナッティ感、最後の余韻にキャラメル感が残ります」
また、ハイボールやカクテルなど、割ってもしっかり香りが残るため、ペアリングのアプローチにも可能性を感じるという。「飲む数日前に水で割っておく、前割りもいいかもしれません。シングルトンは本当にいろんな飲み方を楽しめそうですね」と野村氏。
黒田シェフも今回のペアリングメニューを考案する中で、ウイスキーペアリングの可能性を感じたという。「『ザ シングルトン』は甘みとコクが特徴的。みりんのような表情があるので料理にも取り入れられる、レストランで使いやすいお酒だと思います。寒い季節にはホットウイスキーをメイン料理と合わせて出すのも面白いかもしれません。アイデアは尽きないですね」
ウイスキーペアリングという新しい食体験との出会いに、感動と熱気に包まれながら幕を閉じた「The Art of WHISKY PAIRING」。日本のレストランシーンに、これからウイスキー、そして「ザ シングルトン」が欠かせない存在となっていくだろう。ウイスキーペアリングの今後の展開に期待大だ。
「ザ シングルトン」に関する問い合わせ先
ディアジオ ジャパン
03-3470-8287
Photo by ami(写真 ami)
Text by Yuuri Tomita(文 冨田ユウリ)
Edit by Shunpei Narita(編集 成田峻平)