豊かさってなんだ? 令和のフードベルリンライフ
003 5分歩けばワインショップに出会う。各国のワインが集まるPrenzlauer Berg
クリスマスマーケットが始まるこの季節、キンと冷えた冬の空気が漂うベルリンではドイツのホットワインであるグリューワインの看板をよく目にするようになる。
美味しいワインを存分に楽しみたい。欧州に移り住んだ最大の目的の一つだ。もともと好きだったドイツや東欧のワインが手に入りやすいという点も、ベルリンを選んだ一つの理由でもあった。
私が住むPrenzlauer Bergというエリアはとても国際色豊かで、英語で生活も仕事もできてしまうほど。いまだにドイツ語がほぼ話せない自分にとっては、都合の良い言い訳である。
治安が良く、おしゃれな店も多いため、ファミリー層にも人気のエリアだけれど、(私にとっての)最大の魅力は何といってもワインショップの多さだ。まさに、5分歩けばワインショップに出会える街。最高。しかも、欧州各国からワインが集まっていて珍しい国のワイン専門店がある他、その場で飲めるワイン角打ちも多い。
今回は、ある昼過ぎの1時間に妻とジョギングしながら回ったご近所のワインショップをご紹介したい。
街並みが綺麗で気落ちいいが、時々石畳で捻挫しそうになる
まずは、 家からジョギングすること3分。クールで紳士なおじさまが営む[Wein-Peter]へ。
落ち着いた雰囲気の外観。最初はやや入りずらかった
ドイツワインを中心に、フランスやイタリアのワインも一部扱っている。比較的お手頃ながら美味しいワインが揃っていて、多くを語らない店主さんのこだわりを感じる。大きいお店ではないけれど、日々の食事と楽しむワインが手に入る安心感のあるお店。
[Wein-Peter]がある通りの突き当たりを曲がった先にあるのが[8greenbottles]。
緑の看板がキャッチー。縦長の店内に自然派ワインが並ぶ
[8greenbottles]は自然派ワインを扱うお店で、Kreuzbergという別の街にも店舗がある。こじんまりした店内にキャッチーなラベルの商品が店内に並んでいて、つい覗いてしまう。
個人的にファンキーすぎる自然派ワインはあまり得意ではないのだけれど、こちらのお店には比較的綺麗な造りのものが多いので、優しいワインを飲みたい時にお世話になっている。
続くお店も徒歩5分圏内。一風変わったジョージアワインの専門店[Weinhaus Tsinapari]。
いろんな装飾がなされていてパッとみて何屋さんかわからない
ジョージアワインの独特のボディー感が結構好みで、日本でも時々飲んでいたため、家の近所に見つけた時にはとても嬉しかったことを覚えている。
しかもこのワインショップ、ギャラリーを併設していて絵の販売も行っている。
ショーウィンドーに飾られている絵画。後ろにはワインボトルが見える
個性的でやや入りにくいものの、お店に入るとおばあちゃんが優しく接客してくれる。英語はほぼ伝わらないが、各ボトルに英語に説明が書いているのでそれをみてワインを選ぶ。価格もそれほど高くないので、直感で買ってみて好みに合うかを試すのも楽しい。
ジョージアワインの次はギリシャワイン専門店[INOFILOS]。[Weinhaus Tsinapari]から歩いて10分、ジョギングで5分。
白と青を基調とした地中海っぽいカラーリング
陽気なギリシャ人ご夫婦が営むお店で、行くとついつい何本も買ってしまう。行くたびに「Instagramでの投稿が大事だ!ぜひタグ付けして!」と念を押されるけど、ギリシャのワインブドウ産地から各生産者の特徴まで丁寧に教えてくれる素敵なお店だ。土曜日にはよく試飲会も行っていて、常連さんと新しいお客さんの両方で賑わっている。
「Retsina(レツィーナ)」という、松脂を添加して造られる伝統的な白ワインも売っていて、ハーブ・スパイス感じる癖になる味わいだ。
「最近のRetsinaはモダンになりすぎているものが多い」など、ギリシャ人視点での話が聞けるのも楽しい。
左から2番目のボトルが「Ratina」。こちらのワイナリー[Tetramythos]のワインは日本にも輸入されている
次は[INOFILOS]からトラムに乗って10分、ジョギングで15分ほどの距離にある[Weinberg Weinhandlung]。クラシックワインのラインナップが素敵な飲めるワインショップ。
どの時間に行っても優雅にワインを飲むお客さんがいる
併設のカフェバーでは常時十数種類のグラスワインが用意されている他、日曜を除いて12:00-24:00で開いているのも嬉しい。お昼からのんびり飲みたい時も、飲み会後の締めの一杯がほしい時も重宝するワイン処。
日本で飲んでいたドイツのワイナリーも多く扱っていて、現地ドイツでの味わいを楽しんだり、日本には入っていない品種や畑のものを買ってみたりしている。ベルリンに来るお酒好きの友達には、よくおすすめしている場所だ。
赤ちゃんを連れてワインを飲みに来る夫婦も。素敵なワイン習慣
ワインからは少しズレるが、[Weinberg Weinhandlung]のすぐ近くには、ベルリンらしい飲料ショップもある。
[The Mindful Drinking Club]、ノンアルコールドリンク専門のお店だ。
ノンアルコール専門店。外観も内装も可愛らしい
ワインショップで働いていた時もノンアルコールを求めてくるお客さんは一定数いたが、ノンアル専門の店舗があるあたり、とてもベルリンらしい。ノンアルコール縛りではありつつ、ワイン・ビール・ジン・お酢など様々なジャンルのものが用意されている。以前買ってみたノンアルコールIPAはしっかりしたホップ感・シトラス感があり、ノンアルコールドリンクのクオリティの高まりを感じた。
さて、アルコールに戻りまして。続いてはスペイン。
[The Mindful Drinking Club]から5分ほどジョギングして到着した[Vineria Carvalho]。
この日は残念ながら閉まっていた。普段は手前にワインショップ、奥がワインバーになっている
この時は残念ながら閉まっていたが、普段はワインとスペインのハムやチーズの販売とワインバーの営業を行なっている。ベルリン移住直後に滞在していたお家から行きやすく、お気に入りのワインを見つけたこともありよくお邪魔していた。
気に入ってよく買っていたスペイン・ガリシア地方のアルバリーニョ
ショップの奥にあるワインバーでは、その時々のグラスワインとスペインおつまみが楽しめる。スペインのシャルキュトリとチーズの盛り合わせも美味しいし、エリンギのスライスに熟成マンチェゴを削りオリーブオイルをかけたタパスもスペインワインによく合う。
この時は友人夫婦と来たので大プレートで。小プレートもある
一枚で一杯飲めてしまう。エリンギはもともと地中海沿岸あたりの欧州が原産らしい
友人との集まりはもちろん、子供連れのママ友パパ友が楽しそうに飲んでいる時も多く、賑やかでアットホームな雰囲気が素敵なお店だ。
最後はお気に入りの自然派イタリアワインショップ[Cantine St. Ambroeus]へ。[Vineria Carvalho]からジョギングすれば8分ほど、歩くと10分ほどの距離にある。
赤い看板が目印。中で飲んでいたご夫婦がポーズしてくれた。漂うイタリアの陽気
ベルリン到着初日に訪れ、本場のワインのおいしさに感動した思い出の場所であり、ワイン好きの友人たちと一緒に何度も通ったワイン処でもある。
ペットナット、白、オレンジ、ロゼ、赤まで随時多くのグラスワインが用意されていて、店主のマルコや店員のデイビッドがお客さんの好みを聞いた上でワインを出してくれる。気に入ったワインは購入して持ち帰れるし、その場でボトルを買って飲むこともできる。
グラスで出てくるワインが多様で美味しいことはもちろんのこと、おつまみとして出しているイタリアのシャルキュトリーとチーズがこれまた美味で、初訪問の時で5-6杯ずつ飲んでしまったことを覚えている。
板いっぱい乗せられている様がなんともシズる。このパンも美味しい
店主のマルコがセレクトするワインは、自然派らしい遊びがありつつ、飲み口が綺麗でエレガントなものが多い。また、「Radikon」や「Camillo Donati」など日本にも輸入されている銘柄もちらほらある。
飲みたいワインや買いたいワインを伝えると、マルコが何本もボトルを持ってきて熱く語ってくれる。ひしひしと伝わるワイン達への愛。こんな風にお酒を届けられたらといつも思う。
店主のマルコは大の日本好き。マンガにとても詳しく、島耕作は相談役編まで読み切っている
行くたびに2,3杯は飲んで2,3本は買うことになるので、好みなワインショップというのも時に問題である。そう分かっていても、やはり買わずにはいられないのが酒飲みの性。もう諦めるしかない。
買い続けていたらおまけでくれたショップバック。ワインを運ぶ広告塔
今回は自然派ホットワイン1杯で我慢、上出来。軽やかで美味しい
これにて、1時間のワインショップを巡るジョギングが終了。ワインを飲みたい欲求を抑えながら走ることは、息切れする以上のハードさがあった。
今回訪れたお店では大概オーナーの故郷のワインを扱っており、その国にルーツを持つお客さんが集まっている。店内にはその国の言語が飛び交い、ほんのり旅行に来た気分にもなれる。マーケティング的にある地域に限定しているのではなく、お店の名前とそこにいる人々がその国を表現しているような。
加えて、このPrenzlauer Bergという地域のお店では、スタッフもお客さんもほぼ全員と言っても良いほど感じが良い。経済的に豊かという点もあると思うが、かつて欧州各国から移民が集まり多様性を前提に発展してきた街特有の寛容さを感じる。だから、ある国のワイン専門店に日本人の自分が行ったとしても居心地の悪さは無い。
媚びもせず、かといって避けもしない。閉じているような、開いているような。独特の心地よさがあるPrenzlauer Bergにはある。この街のほどよく緩い空気のなかで、昨日も今日も、きっと明日も、人々はワインを楽しんでいる。
1993年大阪生まれ。大学在学中に日本酒に目覚め、日本酒のブランド要素研究や酒蔵への住み込み修行を経験。広告会社、山形の日本酒蔵を経た後、欧州の食と酒の文化を体感すべく2024年頭にベルリン移住。現在は日本酒・焼酎のインポーターと日本食ビストロで勤務しつつ、ポップアップで焼酎バーを実施。
IG @doimasayuki