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「焼酎の新酒」を知りたくて、[秘蔵]でたくさん飲み比べてみた!
新しい焼酎は、もう始まっている。新焼酎の世界
焼酎が面白い。そんなことあらためて言わなくても、と思われる方もいらっしゃるはずだが、それでも、本誌RiCEが2月6日に焼酎特集号を発売したばかりというタイミングで、編集部としてはそのことをほくほく状態で感じている。
芋か麦か(あるいは黒糖か米かはたまた)といった違いしか知らなかったところに、「一本一本、こんなに個性的な香りの世界があるのか!」と、開眼させるパワーあふれる昨今の本格焼酎。本誌特集は「焼酎のない人生なんて。」と題して、みんなが今飲みたい焼酎を徹底的に掘り下げている。
今回、ウェブ版RiCE.pressでは、焼酎のフレーバーの違いをさらにディープに味わえる“焼酎の新酒”にフォーカスを当てる。「新焼酎」とも呼ばれるが、そもそも焼酎に新酒ってあるんだ!と驚いた。考えてみれば当然、原料である芋が収穫されるのは秋ごろ、そこから仕込んで蒸留して、早いところでは9月ごろから、おおむね11月ごろまでの間にその年の新焼酎ができあがる。
一般的な焼酎は、前年までに造って熟成した焼酎と新焼酎をブレンドするなどしてできあがっている。新焼酎は、基本的に期間限定・少量生産品として販売されるので、だいたい年内で売り切れてしまう。そんなレアなボトルの中には、芋の旨みや香りが溢れんばかりに含まれ、素材の味わいをダイレクトに感じられるから、今後、新焼酎への注目度は上がってきそう。
さてそこで、今回は都内でも随一の焼酎ストック数を誇る隠れた名店・焼酎バー[秘蔵]にて、新焼酎飲み比べの模様をお届け。ご一緒していただいたのは、こうしたマニアックな“サブカル酒”ならこの人、サモトラの柿崎至恩さん、そして、“暮らしの料理”の料理担当で焼酎にもハマっている波平龍一さんのお二人。10種類を怒涛のように飲んでコメントをしてもらった。
左から、[秘蔵]店主の土山章裕さん、波平龍一さん、柿崎至恩さん。年の瀬に向かうこの日、20本を超える新焼酎の棚からひと掴みふた掴み
蓬原 新酒無濾過
丸西酒造 公式サイト
波平 グラスに入れているところからもう香ってきますね。麹の香り。そんなにツンとはこないです。ホクホクした蒸したて感、できたての香りですね。ん〜、もう麹室ですね。麹室で作業していたときを思い出します(笑)。(注:波平さんは岡山の御前酒蔵元辻本店にて、2023年11月から半年間蔵人として働いた経験を持つ)。飲み口は、舌を滑っていく感覚、これが新酒ならではなんですかね? 普段飲むものよりも長く滞在する感じがありつつも、滑っていく感じがあります。
土山 新酒は“できたて感”を大事にしたいという蔵が多いので、無濾過のものが多いんです。
みやこざくら 蒸留即詰 真 無濾過
大浦酒造 公式サイト
柿崎 口に含むとフローラルな感じがありますね。香りにそういう“皮から来る感じ”がある。さっきのは麹がドライブする感じ。こちらは栗っぽい感じがする。そもそも、芋焼酎が新酒で飲む習慣があるということですよね?
土山 そうですね、新酒として出ているのは芋が多いです。麦や米は保存が効く分、年中造れるということもあると思います。芋自体が季節ものだからなのか、「飲めるようになる季節」が明確なのかなと。
柿崎 焼酎の新酒の文化がなぜ続いてきたのかは、興味があります。
波平 僕が初めて新焼酎に触れたのは「鶴見」でした。元々は甕から直接、町の人たちが持って来た瓶に量り売りしていたそうです。それは油分が液中に残っているもので、地元外の流通に乗せた時にクレームが来た。油臭い!と。油分は劣化しますからね。だから原酒を飲む機会というのは少なくなったのかな……?
土山 この油分からくる、いわるゆガス臭は、強く出そうとすれば出せるんです。蒸留してすぐに瓶詰めすればガス臭は強くなる。一時は、ガス臭をあえて入れているような時期もありましたが、全部が全部同じような香りになってしまうので、それは変わってきた印象です。
㐂六 限定出荷新酒
黒木本店 公式サイト
柿崎 これは新焼酎のカテゴリとして出さなくていいのかも?(くらいバランスがいい)。お湯割りで飲むと香ばしさとかが出てきて美味しそう。
土山 これはこのバランスでいいなと思ったほど完成度が高いですね。
波平 無濾過のものは「お早めに飲み切って」と書いてあることが多いですが、これは書いてないですね。無濾過ですと酸化臭がネガティブに感じることもあると思いますが、これはさすが、それを感じさせませんね。
柿崎 置いておくなら低温で、全然大丈夫いけると思いますね。
new pot imo shochu 2024
若潮酒造 公式サイト
土山 ここからちょっとフルーティー系にいきたいと思って、こちらです。
波平 ガス臭は強いですね。コンソメパンチを感じますね(笑)。
柿崎 ワイン酵母で造っているのでバナナ香も何となくある。豆の香り、だだちゃ豆の香り、ブロッコリーの茹で汁とかにある香り。飲み込んで鼻を通した時に、ワインの香りの導線と違う豆の香りが通る。ソーダ割りも美味しそう。
(ソーダ割りにして再度飲んでみる)
波平 クリアになりましたね。新酒の特徴は濁りなのか。濁り方にも特徴がありますねぇ。
柿崎 炭酸で割ると、フルーティーなエステルが取りやすくなるね。
蔵の師魂 新焼酎 The orange
小正醸造 公式サイト
土山 ライチ香で有名になった焼酎の一つですね。
柿崎 ヒトミワイナリー的な、日本のワイン品種、ラブルスカとかベリーAとかのニュアンスの後に栗の香り。
波平 9月10月を連想させる香りですね。栗、麹室っぽい。秋ですね。
柿崎 口に含むと苦味があって柑橘の感じ。すでにライチがちょっといる。最初の香りと相まってマスカットの香りも感じる。(野村)空人くんが好きそうだな。こういうフックがある焼酎は、波平くんもペアリングしやすそうですね。
MIYAGAHAMA Aroma Newborn 2024
大山甚七商 店公式サイト
土山 この流れでフルーティー系もうひとついきますか。この新酒は今回初めての発売、受注生産でしか造らないものです。
柿崎 チーズ、ポップな酪酸臭。もろみが引っ張った感じ。
波平 ハイチュウだ!
土山 みかんヨーグルトの感じもありますよね。元々、アールグレイとかの香りをよく出す焼酎で、ちょっと麦っぽい香ばしさもある。
波平 酪酸臭から始まって紅茶に終わる飲み物飲んだことない……。
柿崎 最後バタースコッチの香りもありますね。
(レギュラー品も飲んでみることに)
柿崎 酪酸臭は口内に含んでどこかに消えるから不快じゃなくていい。セイロンのレモンティー的なニュアンスがありますね。
(カマンベール&ブルーチーズと合わせてみる)
波平 カビの香りと合わさった時に面白い。酪酸が消えていくタイミングが掴めない感じ。熟成進んだ、中がトロっとしたカマンベールだったらもっとよかったかも!
柿崎 このカビ臭との合わせ嫌いじゃない。レギュラー品の方がフレッシュな乳脂に合うね。レギュラーの方が洗練されててアイテムとしての完成度は高いけど、新酒を一回開けてから低温で置いておくと、レギュラーにない味が乗っかりそう。
波平 新酒の方が展開が大ぶりで劇的。レギュラーは完成されて、小説的な展開ある、安定感がある作品という感じですね!
柿崎 新酒はアドリブが多い感じ。ソーダ割りは新酒がとても美味しい。
波平 そうですね。明るくて軽快でポップな感じ。
赤江 ZERO
落合酒造場 公式サイト
柿崎 古漬けのたくあんを感じる香り。
波平 馬刺しとか合いそう。甘醤油、にんにくもあっていいかも。血の感じ、鉄分が合いそうですね。
柿崎 このガス臭は個人的に大好きですね。なんか、カニカマとかも合いそう、本物のカニじゃなくて(笑)。ソーダで伸ばしてあげると、甘い要素が顔を出しますね。
波平 甘さがけっこう出てきますね。
六代目百合 新焼酎
塩田酒造
柿崎 香りだけで美味しい。レギュラーと違ってナンプラー的な感覚がある。キビナゴと合わせて飲みたい。甑島のお酒なので海風の感じが出てるよね。スパイシーなニュアンスはレギュラーのものと同様ある。でもあるらしい
波平 華やか、黒胡椒感……生のピーマンに合いそう。のりしおポテチにも合いますね。
柿崎 こういう時にお茶割りとかは効果的。玉露の海苔っぽい感じとか。シャルキュトリとも合いそうだよね。塩漬けの胡椒とか。ヨーロッパの人も好きそう。
鶴見 白濁無濾過
大石酒造公式サイト
波平 カスタード感がありますね。
柿崎 軽く香ったときは日本の柑橘系、穏やかな感じ。口内でその感じがさらに強い。バニラ感もいるから硫黄があいまってカスタードになってる。油性の成分が多いから、お湯で伸ばすともっとリリースされそう。
土山 黒ぢょかで飲んでみましょうか。炭で温めたくてこの囲炉裏を作ったんです。
柿崎 香りが発散されていく感じがします。でもちょっともったいないから、ぬる燗くらいで抑えるのがよさそう。チーズが面白い作用するから、少しあっためてチーズが溶けやすくするのはあり。
あらあらざけ 新原酒 黒麹
佐藤酒造 公式サイト
土山 これは最後に飲んでいただこうと思いまして。レギュラーだと「佐藤」を出している佐藤酒造さんのものです。昨年から紅芋で造り出したのでちょっとフルーティーな感じです。名前の通り、ガス臭がすごくて、届いた時は大涌谷のような感じでした(笑)。
波平 鶴見よりも強烈にカスタードですね。プリンの上に乗っているカラメルのよう。そのわりには口に含むと綺麗。ワインの展開にも似た味わいのギャップがありますね。燻製とか合うのかな?
柿崎 油と合わせるとくどいのかも。魚にも合いそうだけどね。
——10種類試してみて、どれも個性的だったと思いますが、印象に残っているものをあえて挙げるとすると、どれですか?
柿崎 「六代目百合」「あらあら」「ゼロ」「MIYAGAHAMA」かな。共通項は特にないです。すごく面白いなと思ったもの。キャラが立ってる。
波平 いい意味でふりまわされたのは「MIYAGAHAMA」。「六代目百合」は落ち着きがありつつ、新酒としての表情が感じられてよかったです。「new pot」は、酵母によって焼酎ってこんなに変わるんだというのが印象的でした。
——新焼酎というのはまだ知らない人が多い、堀り甲斐のあるテーマですね。
柿崎 お店で使ったら面白いなと思ったんですけど、マーケ的な視点で、個性的なものがこんなに出てる理由はわからない(笑)。
土山 うちはまんまとたくさん買ってます(笑)。季節的なものはありますよね。去年美味しかったのを覚えていて今年も飲みたい的な楽しみ方はあるかなと。ただ、酒質の変化が大きいので量販ではやりづらいですよね。特徴を理解してもらいづらい。
柿崎 生産量も少ないんですかね。
土山 何度も出荷する商品は少ないです。一般の方が飲む機会は圧倒的に少ない。だからレギュラーで陳列されているものが全てだと思ってしまうますよね。季節もので変化しやすいものだから、わざわざ新焼酎に力を入れるお店もまだない。メディアでも取り上げられなかった。もっと知られてくれればいいですね。
秘蔵|Himekura
東京都墨田区向島4-26-6(Google Maps)
Tel 03-3625-1856
IG @shochu_bar_himekuraPhoto by Shohei Hayashi(写真 林将平) IG @shohei_hayashi
Text by Yoshiki Tatezaki & Tezuka Honoka(文 舘﨑芳貴・手塚穂乃佳)
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