
森山未來 × 小倉ヒラク
[特別対談]KIRISHIMA No.8で乾杯!
「黒霧島」や「赤霧島」でおなじみの[霧島酒造]から昨年7月に発売された「KIRISHIMA No.8」。その香り立つ華やかな味わいが特長の焼酎を飲み交わしながら、俳優の森山未來さんと発酵デザイナーの小倉ヒラクさんの二人による異色特別対談を行った。その模様を、RiCE.press限定・誌面と別バージョンで特別公開!
森山未來
俳優、ダンサー。1984年生まれ。 “関係値から立ち上がる身体的表現”を求めて、領域横断的に国内外で活動を展開している。2022年、神戸市にArtist in Residence KOBE(AiRK)を設立し運営に携わっている。ポスト舞踏派。
小倉ヒラク
発酵デザイナー。1983年生まれ。東京農業大学で研究生として発酵学を学び、微生物の世界を探求。発酵がテーマの食品店「発酵デパートメント」も運営。著書に『発酵文化人類学』『日本発酵紀行』などがある。
フルーツっぽい香りもあるし、後口もすごくいい。焼酎のいいとこ取りの味。
―今日は初対面のお二人に「KIRISHIMA No.8」を飲みながらそれぞれの焼酎ライフについて語っていただければと。
森山 沖縄で飲む泡盛じゃないけど、やっぱりその土地に合わせたお酒の味ってありますよね。焼酎は基本的に九州がベースにあるから、向こうに行くと自然に飲んでる感じがあるし、仕事で宮崎にいた時なんかしょっちゅう飲んでました。あっちで別に日本酒飲もうっていう気持ちにそもそもならない。それってやっぱり気候と食文化とが影響してるんだろうと思います。
小倉 僕には焼酎の原体験みたいなものがあって、20代の前半に東京の吉祥寺の近くでゲストハウスを経営していたんです。で、毎晩世界中から、旅人がいっぱい集まってきて、リビングのコタツで映画やユーチューブ見ながら焼酎を飲んでたんですね。で、その時にあったのが「黒霧島」。ゆっくり飲みながら、みんなでくだらない話をしてた。平気で4、5時間とか、それこそ映画2本見てる間ゆっくりお湯割りや水割りを飲むっていうのが焼酎でしたね。
森山 九州の人たちの焼酎の飲み方って、僕の印象だとロックというよりも水や何かで割って、ガバガバ飲んでるっていうイメージ。
小倉 僕もそういう飲み方をしてきました。日本酒の場合はもっと集中して飲むんですけど、焼酎を飲む時はわいわい言いながらもっと雑に飲むっていうのがあった。でも最近の焼酎は、結構お酒自体を語りながら飲むっていうような銘柄がいっぱい出てきたんだと思います。「KIRISHIMA No.8」に関して言うと、すごく焼酎の新しい時代の典型の味だなと思っていて、なんかすごいメロウなんですよね。フルーツっぽい香りもあるし、余韻というか後口がすごくいい。焼酎の良さである次の杯、次の杯って進んでいくような設計がきちんとされて、いいとこ取りの味がしました。
森山 コメントの出し方すごいっすね。
小倉 いやいや一応専門家なんで(笑)。香りがいいお酒ってファーストインプレッションがすごい。印象的なお酒ほど、その1杯で満足しちゃって、次にいけなかったりするんですけど、焼酎ってだらだら飲めるのがいい。町中華の餃子とか食べながら、焼酎を飲むみたいな。
―町中華と日本酒だとちょっと合わない感じしますもんね。
小倉 そうですね。これ(KIRISHIMA No.8)は、ザーサイとか合いそう。やっぱりクラフトに寄り過ぎていった時に霧島酒造だからできる裾野が広くて飲み続けられる良さが薄まる可能性がある。そこはきっと社内の中で色々議論しながら、「黒霧島」とか「赤霧島」に通じる良さを消さないでメロウなお酒を作るっていう中で出来上がったお酒なんじゃないかなと。ちなみに未來さんの焼酎の原体験みたいなのを聞いてみたいです。
森山 焼酎をすごく美味しく飲んだっていう一番の原体験ですけど、最初はやっぱり宮崎に1カ月弱ぐらい仕事でいたときに飲んだ焼酎ですね。日常的には結構日本酒を飲むことが多いんですけど、向こうにいるときは自然にやっぱり焼酎しか飲まない生活になっていったのはなんだったんだろう。やっぱり食事とか、みんな周りの習慣に自然にこう乗っかっていった気がします。
小倉 九州って風があったかくて。あったかい風に吹かれてると日本酒あんま飲みたくならないですよね。
森山 ならないですね。
2人の交差点。〜“発酵”と“醸す” 〜
小倉 同じ「KIRISHIMA No.8」のソーダ割りでも、ちょっと飲み方を変えてもいいですか? ロックグラスに、お酒とソーダを1対1にしてみましょう。(一口飲んで) やっぱりこっちの方がすごく香りが良いですね。割る割合で大きく変わります。あとグラスの形状ですね。香りを比べてほしいんですけど、多分元々のお酒のポテンシャルが、なんかライチ系の香りよりか甘いマスカット感ありますね。ちょっと濃密な感じの香りがあって、 言い方あれですけど、ちょっとエロい香りがしますね。
森山 (1対1割りを一口飲んで)たしかに、甘い感じよりも本当にさっぱりとした感じがしますね。もちろん通常の炭酸割り(2対3)だと長くは飲めるけど、 こっちだとなんかベトナムとかにあるバナナの焼酎みたいな南国感がすごい強く出る。この1対1で割るの良いですね。
小倉 僕は、焼酎をどうやって飲むとおいしく飲めるのかということに加えて、「造った人が何を考えて造ったんだろう」っていうところに興味があるんです。それは大学時代に演劇や映像の批評をやっていて、「監督や制作側が何を考えているんだろう」っていう頭の使い方をする癖が今も残っているからだと思うんですけれど。そんなこともあって、造り手の想いが一番分かる飲み方ってなんだろうって考えたときに思いついたのが、この1対1でロックグラスに注ぐ飲み方です。お酒の個性が分かりやすいですよ。
森山 ストレートで飲んでもらうことだけを考えて造っているわけではないですもんね。1対1で割ることで香りが立って、原液そのものの個性をより感じられるような。でもやっぱりこれに官能性を感じるっていうのは、ヒラクさんの性癖かもしれないですね(笑)。
小倉 そうっすね(笑)。
森山 でも言ってることはすごく分かります。
小倉 やっぱり嗜好品なんでね。そこにちょっと妖しい部分とか、予想を外してくる部分とか、そういうのがあった方がお酒としては楽しいですよね。未來さんの演技やダンスにも妖しい部分、ミステリアスな部分を感じていて、それはどういったところから出てきているんですか?
森山 意識してそのミステリアスな部分と言われているものを出しているつもりはないけど、そういったものにある種の美しさがあるって信じている側面はあるかもしれません。僕の場合はダンスからキャリアが始まったのですが、例えばダンスの世界でも、トップダンサーになって世界的に有名になる人はごく一握りなわけです。今よりもダンスへの社会的な認知が低い時代でもありました。そんな中で苦みや酸っぱさを背負いながら踊り続ける生き様をこれまで見てきたので、そういった表現の美しさも信頼しています。ヒラクさんも発酵に没入する原点みたいなものはありますか?
小倉 僕は20代半ばまではデザイン関係の仕事をしていたのですが、体を壊してしまい、その時の先生に「発酵食品を食べなさい」って言われたことですね。それをきっかけにお店とか酒屋さんを尋ねるようになって。その土地に根ざしている食べ物だったりがあることを知り、かつて勉強していた文化人類学と通ずるものを感じたりしてどんどんその世界にハマっていきました。
森山 僕は遅いのですが、4,5年前くらいに自分のプロジェクトを通して発酵に興味を持ち始めました。
小倉 どんなプロジェクトですか?
森山 「きゅうかくうしお」という名前のプロジェクトグループで、ダンサーやスタッフがひとつの集団として表現を模索しているんですが、2021年ごろに着目したのが“醸す”です。コロナ禍で思うように身動きも取れない中で、それをネガティブに捉えることもできるけど、“醸す”という観点ではポジティブな側面も見えてきます。例えば、淡路島で藍染めをやっている職人さんを通して発酵に出会いました。藍って発酵させるためには定期的に混ぜないといけなくて、その混ぜ方もやはり職人さんの技術が必要。1つ間違えて空気が混ざってしまうと腐敗するわけです。その時に「発酵と腐敗の境界線はなんなんだろう」とか、いろいろとリサーチしながら制作する時間がとても意義深かった。
小倉 たしかにコロナ禍は、メンバーを入れ替えることができないし、いろいろなところに行って刺激を受け取ることもできない。今この場所で、ここにいるメンバーでしか活動できないけど、その中でより良い変化を起こしていくっていうことが発酵ですよね。
森山 あの時間に発酵という視点を持てたのはとても重要で。あらためて日本の歴史を紐解いても、国風文化もそうですし、江戸文化も鎖国している瞬間に花開いているんですよね。成熟する文化は内に留まっているときにこそ生まれるのかなって感じます。
日本はカルチャーもお酒も徹底的にガラパゴス化したほうが面白い
―“醸す”と言えば、去年ユネスコで日本の麹で醸す酒造りが無形文化財として認定されるというトピックがありましたが。ただ麹を使った酒造りっていうと、どうしても日本酒にフォーカスされがちなところがあって。焼酎だって泡盛だって、 麹で醸してるのは変わらないですよね。
小倉 焼酎は蒸留しちゃうんでね、麹にあんまりフォーカス当たらない。だから今回のユネスコ登録で1番大事な視点、日本の最も面白い部分っていうのは、麹から食べ物とお酒の両方生まれてるってこと。韓国とか中国だと、それが分かれてるんですね。 だから同じ麹を使って、調味料とか、漬物とか、お酒を全部同時に作るっていうことがないんです。調味料は調味料の発酵、お酒はお酒の発酵で、1つに括れないんですね。日本だけがなぜか麹というものを核にして、お酒だったら、焼酎、泡盛、日本酒で、食べ物だったら、味噌、醤油、お漬物っていう風に全部同じ麹が核になって食の生態系ができている。なので、今回ユネスコに登録されたのが素晴らしいなと思ってる部分は、麹を使った酒造り文化っていう風にしているので、焼酎、泡盛、日本酒が全部括れるのと、もう1個はその和食という食文化の中でのお酒っていうのを位置づけたってことです。
森山 そういうことか。
小倉 これが決定的なもので焼酎とか1番わかりやすくて。焼酎って蒸留酒なのに食中酒で、食べるのと一緒に飲むじゃないですか。やっぱり麹でベースを作ったお味噌とか醤油とかと焼酎って合わせるとやっぱりおいしいじゃないですか。それがなぜかっていうと、全て麹を基点にしてるからです。だから日本の焼酎、泡盛の素晴らしいところは、こんなに料理と合う蒸留酒は他の国にはほとんどないです。で、それは食べ物もお酒もどちらも麹を根幹にしてできているからです。
―世界的に見て、やっぱり焼酎っていうお酒とその文化のあり方っていうのは結構やっぱりユニークというか。
小倉 ユニークですね。ちょっと他にはあんまりない文化ですね。 僕のお店(発酵デパートメント)に世界中から日本酒関係の人がいっぱい来るんですけど、最近だんだんみんなね、焼酎の方にハマってきてます。面白いねって言って、だんだん焼酎ファンが海外でも増えてきてるのはすごくよくて。彼らが言ってるのは、焼酎は香りも素晴らしいんだけど、飲み方が色々あるのが面白いって言っていて。だから、焼酎の未来として、世界基準に合わせていくっていう考え方もありますけど、もうひとつは自分たちの楽しみ方を徹底的にやりきるっていうのも1個の手だと思っていて。世界人口いっぱいいるんで、そういうのが好きな人たちに近づいてきてもらうってアプローチもありなんじゃないかなって最近思う。で僕は個人的には焼酎はウイスキーみたいに世界標準の規格に合わせていくよりは、その飲み方が色々あるよっていうローカルな面白さで、世界中の変わった人たちにアプローチしていく方がいいんじゃないかなって思いますね。
―向こうから気づいてもらって楽しさのバリエーションを知ってもらえる良さもありますよね。
小倉 韓国のポップカルチャーはグローバル基準でやってめっちゃ成功したけど日本のカルチャーってお酒も含めて、徹底的にガラパゴス化した方が面白いんじゃないかなと思うんですよ。
森山 それがまさに焼酎ですよね。
小倉 なんで焼酎がこういういろんな飲み方をするのかっていうのを考えた時に、日本人はきっと食の喜びをいっぱい分類していたんだろうなと思うんですね。だから冬だとお湯割りで体が温まっておいしい、とか夏だとソーダ割りがスカッと喉越しが良くて美味しい、とか秋だと新米に合わせて水割りが美味しい、とかきっとおいしさを分類しながら認識して、大事にしてきたんだと思う。
森山 逆説的に言うと、四季があったからってことかもしれないですね。季節や気候、湿度のグラデーションが1年を通して多いから、 採れるものとか作れるものもやっぱり違うし。その時期によって発酵する度合いがそれぞれ違う。そういう中での創意工夫で様々においしいものが生まれてるっていう考え方もあるかもしれないですね。
小倉 それで、「黒霧島」もあれば「KIRISHIMA No.8」もある。焼酎はいい文化ですよ。焼酎はいまカルチャーとしていい匂いです。
KIRISHIMA No.8
自社育種で生まれた新鮮な果実感を生み出すさつまいも「霧島8※1」を使用。黒霧島に使用している酵母に加え、「エレガンス酵母※2」を使用することで、華やかな香りを醸し出す本格芋焼酎が生まれた。新鮮な果実感が特長で、一口含むと果実感が一気に溢れ出してくる。
※1 「霧島8(エイト)」は霧島酒造の登録商標です。「霧島8」は品種名「霧N8-1」および、後継品種である「霧N8-2」を含んだ総称です。自社単独育種で育成したのは「霧N8-1」です。
※2「エレガンス酵母」は霧島酒造独自呼称です。
居酒屋 恋女房
初対面となる二人の出会いは京都の居酒屋にて。京都では珍しい焼酎推しの店で、カウンター奥には全国の焼酎がぎっしり並ぶ。黒霧島はもちろん白霧島の20度も常備。
京都府京都市中京区錦小路東洞院東入ル西魚屋町604(Google map)
Tel 075-231-2381飲酒は20歳から。飲酒は適量を。飲酒運転は法律で禁じられています。妊娠中や授乳期の飲酒はお控えください。
本記事はRiCE39号「特集 焼酎のない人生なんて。」の掲載記事を再編集しています。