焼酎蔵訪問レポート

鹿児島県いちき串木野市で実践される三者三様の焼酎造り


RiCE.pressRiCE.press  / Mar 20, 2025

焼酎を製造する酒蔵数が日本一の鹿児島県。その中でも県内有数の生産地であるいちき串木野市にて、[濵田酒造]、[大和桜酒造]、[白石酒造]の三蔵を訪問するプログラムが文化庁主催で開催された。

まず、最初に訪れたのは「だいやめ」を製造する[濵田酒造]の伝兵衛蔵。[濵田酒造]が所有する3つの蔵のうち本社に隣接している蔵で、創業当時の様子が伝わる写真から展示品まで見ることができる。

伝兵衛蔵の由来は、[濵田酒造]初代杜氏・濵田伝兵衛氏の名前から。この伝兵衛蔵の施設内を案内してくださったのは蔵の案内人を務める若松正樹さんと「だいやめ」開発者の1人、現杜氏の原健二郎さん。お二人に焼酎造りの歴史から今に続くこだわりまでをご説明いただきながら見て回った。

: 若松正樹さん 右:原健二郎さん

「『昔の焼酎に比べて臭くなくなった』と言われるのには、大きく3つの理由があります。1つは麹の質。それに加えて原料である芋の品質と、ろ過技術の向上が主な要因です」

創業当時の蔵の写真を見つめながら語るお二人。伝兵衛蔵では1回の仕込みにつき、芋1トンと米200キロを用い、一升瓶が500本製造されるとのこと。つまり一升瓶1本につき2キロの芋が使用されていることになる。その使用量に、あらためて焼酎の香りを左右する原料と仕込みの重要さを実感させられる。そして、3つの蔵それぞれの個性を活かした特長ある焼酎造りを実現させられることこそが[濵田酒造]の強みだろう。

若松さんと原さんに教えていただいた焼酎の香りを左右する3つの要因に加えてもう1つ、味わいを特徴づけるのが木桶蒸留器。[濵田酒造]の蔵の中でも、ここ伝兵衛蔵のみで使用される。ステンレス蒸留器が主流な現代の焼酎造りにおいて、木桶蒸留器を用いることで角の取れたまろやかな味わいを実現できるのだ。

その木桶蒸留器を製造するのは、津留安郎さん。現在、日本で唯一の木桶蒸留器職人だ。今に伝わるその熟練の技術を学ぶべく、津留さんのもとへ足を運ぶ蔵元の方も少なくないという。なんとも後世に受け継ぎ続けたい伝統技術だ。

伝兵衛蔵を後にし、次に訪れたのは[大和桜酒造]。なんと道路を挟んで[濵田酒造]の真向かいにあり、徒歩2分という驚きの近さ。それでありながら、全く異なる焼酎造りが実践されているのがいちき串木野市の特色なのだ。

出迎えてくださったの杜氏の若松徹幹さん。
冗談を交えながら笑いを誘う説明と明るいお人柄が印象的。

「大きい蔵ではないので、僕とパートさんで作業しています。毎回見学に来ていただいた方には『(この膨大な作業を)徹幹さんが全部やっているんですね』と驚かれます。他の蔵元さんが焼酎ブームの時に作業を効率化した部分をうちはしていません。手作業で昔ながらの造り方。1回の仕込みで芋を750キロ仕込むのですが、その際もスコップと腹筋と背筋を駆使して毎朝洗ってるんです(笑)」

徹幹さん自らが芋を切ることもあるという。

「大和桜」の代名詞でもある甕壺の数々。その最奥には8年間長期熟成させているものも。

「熟成を始めたときの考え方の解像度と今の考え方の解像度が違う。熟成酒はテストで造ってから結果が分かるまでに2,3年かかりますからね。造り始めた数年前の考えと今の感覚を合致させるのは簡単ではない。だからこそ毎年造るスタンダードの『大和桜』の精度を常に高め続けていきたい」

以前の自分が思い描いた理想と焼酎が完成するまでの時間差から生じるギャップとその難しさ。“伝統的”と評される徹幹さんの焼酎造りだが、それを実現させているのは紛れもなく徹幹さんの言葉にある「考え方の解像度」の変化なのではないだろうか。継続と変化、徹幹さんの真摯でひたむきな焼酎造りの真髄が垣間見えた。

3蔵目に訪れた[白石酒造]は、蔵到着と同時に天狗のお面がお出迎え。どうやら近年の「天狗櫻」は原料の芋の比率を上げているとのこと。

杜氏の白石貴史さん。
柔らかい物腰ながら、芋への並々ならぬこだわりが伝わってくる。

「明治の頃の焼酎のレシピがおもしろいと思って。お米1に対して芋9とかの割合なんですよね。今年の『天狗櫻』は、それを1:6.5くらいにしているのですが、来年は1:7にしようと思っています」

実際に栽培して採れた品種違いの芋。

自ら芋を栽培する白石さん。芋へのこだわりはどこから生まれているのだろうか。その源泉を尋ねてみた。

「もともと焼酎を造っている中でテクニック的なことが得意ではなくて。その時に、『だったら原料をすごく良い状態で育てればテクニックはそこまで必要ないかもしれない』と思いました。地元の畑で採れた芋を用いて焼酎を造ることで、結果的に地元の人たちにも喜んでもらえたらいちばん嬉しいですね」

白石さんの芋栽培は肥料をいっさい使用せずに栽培する自然栽培。その結果、収穫量は一般的な農家の3分の1程度になってしまう。その一方、畑は草が生え、虫が集まり“野生化”する。この“野生化”のプロセスを経て、畑そのものの味が生まれるのだ。

実はこの考え方は芋のみならず、お酒造りにも共通する部分があるのだそう。

「お酒造りの発酵過程では、混ぜないと漬物みたいな香りが出てくることもあります。ただ、その香りが出るか出ないかギリギリのところまで引っ張って潜在能力を引き出します。“野生化”もそうですけど、芋もお酒も手を加え過ぎちゃうと自分でやらない子になっちゃうんで」

愛情がたっぷり込められた芋から造られる「天狗櫻」。芋の比率が変化する来年の味わいも非常に楽しみだ。

3つの蔵を訪問し終え、向かった先は[濵田酒造]の金山蔵。さっそくトロッコに乗車し、いざ坑洞内へ!

たどり着いた先では甕仕込みと甕貯蔵の蔵を構え、明治以前の焼酎造りをコンセプトにした焼酎造りが実践されている。そのほか、実際に掘り進める際に使用されていた爆薬や雷管の展示に加え、健康や金運を祈願する神社も。

「熟成と共に福来たり」は黄金麹で仕込み、坑洞内で貯蔵。

訪れた際には名前と発送日を記し、大切な人や未来の自分への贈り物にすることもできる。

すべての蔵訪問が終了し[濵田酒造]の食堂へと戻ると、今回お話を伺った各蔵の方々とともに、福岡にある[バー オスカー]の長友修一さんが登場。3蔵の焼酎を使用したカクテルが振る舞われた。

 「大和桜」を使用した「KUSUNOKI」。
見た目の青々しさそのままにスッキリ爽快。

「天狗櫻」を使用した「PINK CARPET」。
華々しい佇まいに、麹が香るフルーティカクテル。

「だいやめ」を使用した「SUNY CLOVER」。
鮮やかなオレンジが気分をより一層高めてくれる。

会場には黒豚やマグロを使用した鹿児島県の郷土料理も並んだ。
まさに、よか晩!

今回訪問したいちき串木野市とその隣に位置する日置市の焼酎蔵を回る「焼酎ツーリズムかごしま」は毎年2月に開催。杜氏の方との対話を通じて、ふだん口にしている焼酎への理解がグッと深まること間違いなし。ぜひ訪れていただきたい。

Photo by Yoshiko Ootsuka(写真 大塚淑子)IG mason5
Text by Shogo Sugano
(文 菅野匠悟)
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