シティライツ・レストラン

008 「京生活の延長にある硬派な酒場」


Yuya UenumaYuya Uenuma  / Apr 5, 2025

前回の記事から半年以上もあいてしまい、連載と称するには無理のある状態ですが、仕事も少しは落ち着きを取り戻してきたので、これからまた再始動していきたいと思います。最近は倉敷での宿の開業(並びに倉敷での住み込み生活)が終わり、生活の拠点を京都へ戻したところです。そんな僕が京都へ戻ってまず初めに行きたいと純粋に思ったお店も、日常を過ごす中でよく使ってしまう場所も、京都を案内する際にどんな人にも紹介してしまうお店も結局は[赤垣屋]でした。「京都と言えば」な居酒屋で、一種の観光名所ともいえるような場所でもあり、情報としての目新しさはないかもしれませんが、やはり長年多くの京都人の胃袋と心を満たし続けてきたこの名店を紹介させてください。

この日はめでたい華金、いや金晩(関西では華金を金晩と呼ぶ)。2030頃に仕事を切り上げ、一人とことこ向かった先が[赤垣屋]です。[赤垣屋]の席の大多数は予約用なのですが、予約を受け付けていないL字型のカウンター席も10席前後あります。そして、このカウンター席からの景色がまた美しく、店内入ってすぐ左側に並ぶL字短辺の4席側に座ることができたら、お店全体を見渡しながら過ごすことができます。 

この日到着したのは21時前、さすがの金曜ということでカウンターも満席でしたが、僕が満席で断られたのを見てさっとお会計を済ませてくださった方がおり、奇跡的に入ることができました。しかも入って左のL字短辺席。左隣にはお一人で晩酌されている飲み士(日々お酒を飲みながら自分と向き合い、お酒と対話すらしている方々を勝手に「飲み士(のみし)」と呼んでいます)の大先輩が、右隣にはこれまた大先輩にあたるご夫婦が思い思いの時間を過ごされていて、少し緊張感すら覚えます。

喉が渇いていたのですが、店員さんが突き出しを持ってきてくれたタイミングでドリンクオーダーを聞いてくれるのでまずはそれを待ち、一杯目の「生中(生ビール中サイズ)」を注文。大サイズだとゆっくり味わっているうちにビールの温度が下がってしまうので、中サイズを注文するのがマイルール(夏は大サイズをゴクゴク行きたくなるのだが、その気持ちをぐっと堪え、品よく中サイズを2杯飲むこともマイルール)。

個人的には京都で一番おいしい生ビールが[赤垣屋]の生ビールです。温度は勿論のこと、新鮮さとクリーミーさを兼ね備えた一級品で、日々の細やかなサーバーの洗浄がこの味を支えており、その誠実さがこのお店全体に漂っているのだと感じます。

料理の注文は毎度お決まりの「焼き鳥 皮」、「烏賊のげそ焼」、「くもこ(白子)」と、今日は会社の先輩お墨付きの「きずし(しめ鯖)」を注文。焼き鳥は皮しか残っておらず、この時間になると砂ずりと鳥ねぎが品切れになることも珍しくないのです。

[赤垣屋]は各スタッフさんの持ち場が決まっており、ほぼいつも決まったメンバーが同じ特定の場所を守っています。若大将がいつも担当している魚と、大柄な男性が常に担当している焼き場から最低でも1皿ずつ頼むのもマイルール。ただ、個人的には[赤垣屋]の焼き物が大好きで、げそ焼は是非皆さんにも食べて頂きたい一品です。

程よく弾力があり、ぷりぷりした触感が堪らない。これは確かな焼きの技術がないとできない仕事だと思います。レモンを絞り、マヨネーズを少しずつ乗せながら食べるげそ焼が最高なのです。

タレは京都では珍しいほどに醤油の味が効いていて好み。上には七味と山椒がかけられており、タレ・薬味のバランスがお手本のようです。

今まであまり頼んでこなかったのですが、次回からはスタメン確定です。比較的鯖の脂乗りがしっかりしていて、そこに酸を効かせすぎないこのバランス感覚。ありそうで中々出会えない。

大ぶりなくもこで、いつも複数人で来るときは分けるのに苦労するくらいの弾力と力強さがあります。これを一人で食べることができる贅沢さを噛みしめました。

料理がテンポよく届き、まずは焼き物の温度が下がってしまう前に頂くべく、ささっと写真に収め、早速食べ進めます。そうしているうちに生ビールが無くなってしまい、(これもお決まりのコースなのだが)百合ソーダ(芋焼酎の六代目百合のソーダ割り)に移ります。

[赤垣屋]の百合ソーダは気持ち濃い目。芋の風味もしっかり感じられる。この時食べていたきずしは比較的にうまみが濃厚で味わいが口に残る逸品だったので、相性が抜群でした。

そんな僕の攻略法を見てくださっていた左隣の大先輩が帰り際に「お兄ちゃん、鴨ロースは食わんの?」と話しかけてくださいました。僕は冷静を装って「ここの鴨ロースは少しレアで他のお店のものよりも断然好みなのですが、今日は一人なもんで量が多く、、、」と返すと、「わかってるね」と言って笑顔で握手をしてくださいました。そして、「また会おうな」と、お会計終わりの去り際にも握手をしてくださり、僕は左手も添え、嬉しさに比例した深いお辞儀をしていました。

[赤垣屋]ではカウンターにて一人で晩酌を楽しむお客さん同士が、言葉を介すこともなく会釈だけでコミュニケーションを取る光景をたまに見かけるのですが、僕がこの日に体験したような些細なやり取りの蓄積が、会釈だけの交信という非常に高度なコミュニケーションを実現させているのでしょう。

なんだかこの日はいつも見かける「赤垣屋一人飲み」の諸先輩方の仲間に入れてもらえた気持ちになり、上機嫌。いつもは頼まない熱燗にまで手を出してしまいました。

熱燗は目の前の樽から注がれ、温められ、一杯目はスタッフさんがお猪口に注いでくれます。この流れるような仕事ぶりを目の前で見ながら、百合ソーダを飲み進めていると、気が緩み自然と読書が進みました。

 

[赤垣屋]のカウンター席にはやはり特別な空気感が流れており、一人カウンター席で過ごす時間は、予約を取り友人とテーブルを囲んで楽しむ時間とはまた別の世界が広がっています。これは複数人で行きカウンター席でお酒を飲むそれともまるで異なり、飲み士の先輩方と肩を並べ、店内を眺めながら、気の向くままに頼んだお酒・料理と向き合いながら、そこに流れている時間を一人でゆっくり確実に咀嚼していく。このカウンターではそんな幸せを嚙み締める過ごし方が繰り広げられつつ、お酒が進むにつれ会話も広がりを見せていくのです。同じカウンターを囲んだ酒呑み達はお酒が進むにつれ気が緩み、自らが何者でもなくなり、次第と仲間となっていく。仕事の話をする訳でもなく、多く言葉を交わす訳でもない。目の前の空間と愛するお酒・逸品を嗜む[赤垣屋]のカウンター席は、武士も町人も立場関係なしに、何者でもない己となり、お茶を楽しんでいた当時の茶室に近いと言っても過言ではないと思います。

友と深くまで飲み明かす金曜も好きなのですが、30歳を目前にこんな時間の過ごし方もあっていいだろう。この日は玉置浩二の「時代おくれ」を聴きながら帰りました。

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