エディターズノート
「RiCE」第15号「お茶」特集に寄せて
RiCE の15号は、お茶の特集です。いつかやりたいと思っていたトピックですし、このタイミングでのフィーチャーはかなり前からの予定通り。理由はいくつかありますが、結果的に延期となった東京オリンピックが開催されるはずだったというのが大きく、2020年夏こそが最適と判断していました。東京に来た外国人観光客たちにしてみれば、 せっかく日本に来たんだから日本茶が飲みたい。そう思っても、コーヒーばかりでなかなかありつけないという声を聞いたことがあります。確かに、われわれ日本人にとってもお茶は家で飲むもの。わざわざ飲食店でオーダーすることはないという方も多いと思います。
また一方で、お茶のサードウェーブ的な動きがここ数年起こっています。飲食関係に限らず私の周りでも、 昨今お茶にハマっている人が多く、感度が高いほどその 傾向が強い気がしていました。渋谷にある茶葉ショップ[GEN GEN AN]がその代表ですが、新世代向けの新しいお茶の文脈、アップデートが起きようとしています。
ところで、サードウェーブといえばコーヒーに端を発するムーブメントを指すことが多いですが、セカンドウェーブ代表のスターバックスを象徴する言葉に「 サードプレイス」がありました。 家でも職場でもない第三の場所で憩いとなる一杯のコーヒーを、ということでしょう。 ただ新型コロナの影響が続いてステイホームがもはや基本となり、ライフスタイルが劇的に変化した今年後半にあって、「ファーストプレイス」としての自宅こそがクローズアップされてきました。 日本語で「お茶する」といえば、喫茶店やカフェで仲良く話すことを意味していましたが、今では家でほっと一息入れるという意味合いに変わり、 かつ本当にお茶(煎茶)を淹れていただく時間を指すようになってきた気がします。
私自身、リモートワークが続くこの期間、家に何種類もの茶葉を常備して、気分によって淹れ分けたりすることが習慣化しました。オンラインミーティングが続いたりするその合間、文字通りほっとする時間ですし、頭を切り替えるのにぴったりです。一杯で終わらず二煎、三煎と味と香りの変化を楽しみながらいただけるのもお茶の利点。そう、時間は追うものでも追われるものでもない。味わうものなのだ。そんなことを実感させてくれることこそお茶の効用でしょう。
お茶には興奮作用をもたらすカフェインの他に、テアニンという鎮静作用をもたらす成分が含まれています。だからでしょう。カフェインしかないコーヒーと比べ、お茶を飲んでいるととても「整う」気がします。オンでもオフでもない、その中間にあるニュートラルな領域 。「 お茶の時間」にこそ、何かこれからの時代を切り開くヒントがある気がしています。
というわけで、当初思い描いていたのとは全く異なる内容となった今号のお茶特集ですが、その分画期的に充実した気がしています。ぜひ、お茶を淹れてじっくり味わいながら読んでもらえたら。
- RiCE.press Editor in Chief
稲田 浩 / Hiroshi Inada
「RiCE」「RiCE.press」編集長。ライスプレス代表。
ロッキング・オンでの勤続10年を経て、2004年ファッションカルチャー誌「EYESCREAM」を創刊。2016年4月、12周年記念号をもって「EYESCREAM」編集長を退任、ライスプレス株式会社を設立。同年10月にフードカルチャー誌「RiCE」を創刊。2018年1月よりウェブメディア「RiCE.press」をロンチ。
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