エディターズノート
「RiCE」第18号「カレー」特集に寄せて
RiCE第18号の特集はカレーの特集です。実に3度目のカレー。創刊3号のときが最初で特集「カレーライフ」、リニューアル初となる11号が2度目の特集「スパイスカレーの深層」でした。なので期せずして隔年ペースでカレーの特集を組んでいることになるわけですが、その第3弾となる今回の特集は「家カレー革命」です。
「家カレー」と聞くと、いわゆるお母さんの作るルーカレーを思い浮かべる方も多いでしょう。そしてそれは間違ってはいないのですが、「家庭の味」としてのカレーもそろそろアップデートしても良いのでは? そんな風に思ったりもします。言うまでもなくコロナ禍にあって自宅で料理をする人が増え続けている中で、食材とスパイス、そして時間を駆使することでもっと豊かで楽しいカレーライフが送れるはず。そう考えてみると、今回の特集はカレー3部作の完結編、集大成ともいえるでしょう。
なんて、ちょっと気負った言い方をしてしまいましたが、最大の理由は単に自分がカレー好きだからなのかもしれません。今号の制作期間中、出来るだけ家でも外でもいろんなカレーを食べてきましたが一向に飽きる気配がない。取材と関係ない休日でもカレーを食べたり作ってりしている自分を発見して、なんだかんだ理屈を並べても、よほどカレーが好きなんだなこれはと納得した次第。
ただそれとは別にもう一つ理由をあげるとするなら、水野仁輔さんとの会話が今回の特集のスタートポイントだったことも間違いなくて。ご存知のように毎年何冊もカレーのレシピ本を出版しながら、なおかつ自費出版で作りたいカレーのジンを出し続けている水野さんですが、実は最初に自著を出したのが2001年。今年で出版活動20周年だったのです。
21世紀最初を飾るデビュー作、その名も『俺カレー』の中身を見せてもらったのですが、もう初期衝動の塊。各界からの出演者もめちゃくちゃ豪華で、「あれを超えることはいまだに出来ない!」と著者自身に言わしめるだけの熱量のこもった入魂の一冊でした。今読んでも面白いというか、逆に今だからこそより響く内容で、カレーをカルチャーとして捉える視点は当時としてはかなり斬新だったはず。そして以降の20年によって徐々にその感覚が浸透しつつ、カレーは今日あるようなカルチャーにまで昇華されていったのだと思います。
というわけで今回の特集「家カレー革命」は、水野さんの力を全面的に借りながら一緒に作らせてもらいました。彼が信頼を置くカレーシェフたちと対話したり新しいレシピを考案してもらったりすることで、われわれにとっての「家カレー」をどうアップデートさせられるか。そのための大きなヒントをいっぱい見つけることが出来たと思います。
こんなに楽しく美味しい取材を沢山ご一緒させてもらうことで、とてつもない刺激を受けつつ確信しました。日本のカレーは、きっとまだまだ進化し続けます。そしてわれわれにとってのカレーをめぐる旅も、これからもっと続くことでしょう。その最新の記録をお届けします。
- RiCE.press Editor in Chief
稲田 浩 / Hiroshi Inada
「RiCE」「RiCE.press」編集長。ライスプレス代表。
ロッキング・オンでの勤続10年を経て、2004年ファッションカルチャー誌「EYESCREAM」を創刊。2016年4月、12周年記念号をもって「EYESCREAM」編集長を退任、ライスプレス株式会社を設立。同年10月にフードカルチャー誌「RiCE」を創刊。2018年1月よりウェブメディア「RiCE.press」をロンチ。
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