緊急事態宣言下、カレーを楽しみ尽くした11日間
「家カレー祭」をプレイバック!
RiCE最新号「家カレー革命」特集発売翌日の4月29日から、5月9日までの11日間にかけて、渋谷・JINNAN HOUSEを拠点に配信も駆使しつつ開催したイベント「家カレー祭」が無事閉幕いたしました。ご来場・ご参加いただきまして誠にありがとうございます。
特集タイトルには“革命”という強い言葉を掲げましたが、この言葉を使うに遜色のないオールスターキャストにご登場いただきました。現在のカレーシーンの一歩、いや二、三歩先をゆくようなエッジの効いた切り口で、彼らと並走しながら完成させた一冊だけに想いもひとしおです。(特集の概要はこちらからどうぞ)
制作過程で感じた熱量や新鮮な驚きは、過去特集にも例を見ない固有のものであり、これを誌面だけで完結させるのは勿体ない! 特集のエッセンスが詰まった料理を食べることのできる機会をつくり、多くの人と共有することができたら。許されるのであれば心地良い距離感でカレーを囲み、一緒に乾杯したい…。
そうした想いからイベントの準備を進めていたのですが、開催5日前に発令された非常事態宣言。当初の目論見はあれよあれよと崩れ去りました。
大人数を一堂に介して開催するイベントは自粛、酒類の提供も禁止というガイドラインが出されたことで、実施すら危ぶまれる状況に。
編集部内でもどのような形で実現させるのがベストか協議を重ね、導き出した答えが、カレーは完全時間指定、事前予約制にすることで密を避け、全てテイクアウト容器で提供、人の滞留を防ぐことでした。
当初想定していた参加型のワークショップは急遽オンラインでの配信に切り替えることに。大急ぎでオペレーションを再設計し、イベントタイトルも「家カレー祭」に変更。自宅でカレーを楽しみ尽くすためのコンテンツを急ピッチで整備しました。
豪華ラインナップの日替わりカレー
タイトなスケジュールのなかで迎えた初日、こけら落としは本特集「家カレー進化論」をはじめ、核となるページをご一緒させていただいた水野仁輔さんと、東京カリ〜番長リーダー伊東盛さんによる「3色チキンカレー」です。
カルダモンチキン(ライトイエロー)をお皿に盛り付ける水野さん。
カスリメティチキン(グリーン)、レッドホットチリチキン(オレンジ)も加わり完成した一皿は、見た目にはもちろん味わいも華やかで、飽きのこない構成に。
日替わりで特別な料理人の方々に出店いただきましたが、普段お店で出しているメニューとは異なる、スペシャルなものをご用意いただいたのも印象的でした。
仕込みや調理環境も普段とは異なりますし、テイクアウトという制限もあります。一見するとビハインドな状況ではあるものの、それを感じさせないハッピーな料理が勢揃いしました。
テイクアウト容器に入っているハンバーガーは、代田橋の超人気店[and CURRY]によるもの。ふわふわのバンズに挟まれたスパイシーなチキンパティ、空豆も挟まり春らしい仕様に。写真には映っていませんが、クミンと青さで味付けしたフライドポテトにレンズ豆のサラダなど、野菜それぞれが際立っていることからは丁寧に仕込まれたことが伝わります。「ハンバーガー=ジャンク」という定説が過去の話になっているのは前号「ハンバーガーに夢中」でご紹介した通りですが、それを織り込んでもクリエイティビティに富んだもので、正に新感覚のバーガーでした。
[タケナカリー]の奈良漬け鯖キーマサンドに、八丁堀[wacca]のポークビンダルーカツサンドという特別なコラボセットも大人気。[タケナカリー]チームには出店者としてだけでなく、運営にもご協力いただき多大にお力をお借りしました。直己さん、陽子さん、本当にありがとうございました!
今回のイベントの殊勲を挙げるとすれば、間違いなく東新宿[サンラサー]の有澤まりこさんでしょう。イベントを起点にはじめてご一緒させていただきましたが、「家カレー祭」のコンセプトに共感いただき、ハートで出店を決めてくれたひとり。人気のあまり申し込み受付も増枠を重ね、ぶっちぎりで180食を即完売させた彼女の熱量が、多くのカレーファンに火をつけ、イベントをより一層盛り上げる原動力に!
そんなサンラサーの「スパイスピクニック」は、4色そぼろ弁当にスパイスを効かせた副菜がずらり。その場で食べるのもよしですが、どこか特別な場所に持っていきたい、限定感のあるものでした。
最後の週末である10日(土)には、スーツケース片手に颯爽とタイ料理人のアベクミコさん(写真左から2番目)がJINNAN HOUSEへ。絶品すぎるグリーンカレーを作っていただきました。様々なテイストのスパイス料理が並んだイベントでしたが、タイのエッセンスを感じるものはアベさんだけ。なかなか旅にも行けない昨今、洗練されたタイ料理は他のどの料理よりも異国情緒ある一皿でした。
パラタにビリヤニ。家カレー革命にふさわしいフードが登場
本誌ではブームが待たれるインドのパン「パラタ」をフィーチャーしましたが、食べられる場所も少ないだけに、一人でも多くの人に食べて欲しい!(最終的には広がることで、食べられる場所が増えてほしいという邪な心も…)というのが取材班一同の感想でした。ぜひイベントにも、と思っていた最有力であるレジェンドインド人シェフ・フセインさんにもオファーしたところ快諾いただき、ページにもお力添えいただいた岡崎光義さんとともにキッチンカーに登場!
まるで熟練のピザ職人のごとく、パラタの生地を伸ばしていくフセインさん。広々とした厨房でなく、天井の高さも限られるフードトラック内でこのパフォーマンスができるということが腕の高さを物語っています。カラフルなチェックのエプロンもお似合いです。
クロワッサンを彷彿とさせるサクサクッとした食感のパラタ。載っている器は、インドで伝統的につくられているものなのだとか。しっかりと編み込まれているのはもちろんですが、適度に湿気が逃げる構造になっており、パラタがしんなりとなるのを防ぎます。ハンドメイドながら工業製品に勝る機能美がありました。
もうひとつの要注目フードとしてビリヤニも。今年再注目のビリヤニスト・大澤孝将さんに2日間出店いただきました。写真はパクチーがどっさり載ったマトンビリヤニ。こちらにライタを混ぜて食べるスタイルです。大澤さんは7月に神田でビリヤニ専門店をオープン予定とのことで、クラウドファンディングもスタート! こちらも要チェックです。
大澤さんにレンズを向けると、「僕じゃなくてビリヤニにピンを合わせてもらっていいですか?」と言われます。新しいお店もきっと大澤さんのビリヤニ愛が凝縮された空間になりそう。
実力派講師陣の本格講義をご自宅で
家カレー祭の会期中は生配信でのワークショップも実施。[spicy curry 魯珈]齋藤絵里さん、[and CURRY]阿部由希奈さん、[chompoo]森枝幹さんに「フードスコーレ」代表の平井巧さん、[エリックサウス]稲田俊輔さん、[サンラサー]有澤まりこさんと豪華すぎる講師陣!
本誌にてご紹介したメニューを再現する企画から、「フードロス」をテーマとしたものまで。それぞれに個性が際立つ講義となりました。
特に大人気だったのがエリックサウス稲田俊輔さんによる「カレーのレシピの作り方」おいしいカレーのレシピは世の中に数多あれど、「レシピが作れるようになる」というのは新鮮な切り口でした。講義後の板書からも白熱ぶりが伝わるでしょうか。
会期中には全5回、人数を制限した形で「カレーRiCEの学校」も開催しました。水野仁輔さんと、時にゲストを迎え「カレーの未来」「ビリヤニの時代」「カレーの寺子屋」「カレー技術革命」「無人島スパイス」など、興味深いテーマの講義が展開されました。
阿部由希奈さんとは、「無人島にスパイスを持っていくなら」をテーマに講義が展開。
編集部が入居しているJINNAN HOUSEの2階より、1階の会場内パブリックスペースへとお引越し。色校を張り出し展示空間のようにしつつ過去号を販売しました。机が少々雑然としているのはご愛嬌で…。
晴天に恵まれた日には30度に迫るような夏の暑さということもあり、屋外スペースでのイートインには会場であるJINNAN HOUSE内の茶食堂[茶空]のアイスドリンクが好評でした。スパイスとの相性もいい、しつこくない甘さと渋みがシャープな「ほうじ茶ラテ」(もちろんアイスがおすすめ)が特に人気な様子。
テイクアウトももちろん大歓迎ですので、渋谷〜原宿近辺にお越しの際はぜひ茶空にもお立ち寄りくださいね。リモートワークで不在のことも多いですが、2階の編集部にもお気軽にどうぞ!
手前味噌ではありますが、緊急事態宣言を受けてイベントを縮小しつつも開催を決めた際に発信したメッセージを振り返ってみます。
「RiCE」はフードカルチャーのメディアであり、食とその周辺にあるものを媒介しメッセージを伝える存在です。最新号を制作する中で確信したのは、カレーという食べ物が持っているポジティブなエネルギーでした。不安な日々を吹き飛ばすような場を皆さまとつくりあげることで、「家カレー革命」という特集タイトルの如く、再び訪れたステイホーム期間をカレーの力により豊かな時間に変えることができると信じています。
当初予定していた形とは異なりつつも、無事に実施し大きな事故なく幕を閉じることができました。二転三転する状況のなか、度々の変更に快く力を貸していただいた関係者の皆様、改めて感謝申し上げます。
最後にひとつお願いですが、本業である雑誌「家カレー革命」は、イベントと同等、もしくはそれ以上の熱量でつくりあげた一冊です。おかげさまで売れ行きも好調、在庫も少なくなってきました。未見の方はお早めにお求めくださいね。