おいしい裏話
「鍋頼み」(RiCE No.19)に寄せて
取り寄せで何回も助かったもの、龍岡商店のチゲ鍋。
なかなかに珍しいメニューではあったが、ものすごく重宝した。
というのも、やはり自分の味には飽きてしまう。なにを作っても自分の味なので、予想外がない。
なので、たまにアクセントとして取り入れるのは辛い鍋がいいのだ。最後にごはんやうどんを入れるので、若者も満足する。
もうひとつは、学大と三宿の間くらいにある、市川精肉店という小さなお肉屋さんのプルコギとたれつき鶏が最高だった。週一くらいでそのあたりに治療に通ったので、毎回そこで肉を買った。おじさんは目利きで、肉の切り方からして違う。八百屋さんの一角で小さく営んでいて今にもなくなりそうな佇まいなのに、肉は最高で味付けもよくすぐに作れてさらに安いのだ。
こういうところが近くにあれば楽なのにと思ったが、下北沢には前にも書いたミヤタヤがある(歩くと遠いから骨折期間は行けなかったけど)。そんな小さなお店たちの大切さを知り、つぶれないようにこれからもなるべくそこで買おうと思うのだった。
1964年、東京生まれ。日本大学藝術学部文芸学科卒業。87年『キッチン』で海燕新人文学賞を受賞し小説家デビュー。88年『ムーンライト・シャドウ』で泉鏡花文学賞、89年『キッチン』『うたかた/サンクチュアリ』で芸術選奨文部大臣新人賞、同年『TUGUMI』で山本周五郎賞、95年『アムリタ』で紫式部文学賞、2000年『不倫と南米』でドゥマゴ文学賞、2022年8月『ミトンとふびん』で第58回谷崎潤一郎賞を受賞。著作は30か国以上で翻訳出版されており、海外での受賞も多数。近著に『下町サイキック』がある。