おいしい裏話
「温め」(RiCE No.20)に寄せて
台湾の食でいちばん印象的なもの、それは小麦の扱いと、熱々さ。
それが自宅で再現できて、実にありがたい。
ヨーロッパとかアメリカと食に対する感覚が違うのがよくわかる。
温め直しという文化が深く根づいているのだ、アジアの人たちには。
自粛期間なので、やむなくお弁当を買うことが多い。
または撮影で出してくれたものが、余ったのをもらって帰ってきたりする。
冷たいからこそおいしいのもお弁当というものだけれど、夜ごはんが冷たいお弁当だとなんとなく淋しい。
そんなときにお弁当の中身をワンプレートに乗せて、電鍋に入れて蒸すと、
なんだかわからないが日本じゃないようないい感じになる。
そういえば私の子ども時代の友だちは、親がいなくなりひとりぐらしをしていたけれど、いつも夜ごはんは冷たいお弁当だった。なにせ部屋にコンロも流しもなかったから。これがあったらあげたのになあ、としみじみ思った。
1964年、東京生まれ。日本大学藝術学部文芸学科卒業。87年『キッチン』で海燕新人文学賞を受賞し小説家デビュー。88年『ムーンライト・シャドウ』で泉鏡花文学賞、89年『キッチン』『うたかた/サンクチュアリ』で芸術選奨文部大臣新人賞、同年『TUGUMI』で山本周五郎賞、95年『アムリタ』で紫式部文学賞、2000年『不倫と南米』でドゥマゴ文学賞、2022年8月『ミトンとふびん』で第58回谷崎潤一郎賞を受賞。著作は30か国以上で翻訳出版されており、海外での受賞も多数。近著に『下町サイキック』がある。