カカオ見聞録
#2 なぜわざわざカカオ農園に行くのか?
カカオ豆は “一期一会の農産物”
Minimal山下です。こんにちは。私たちMinimalはカカオ豆から自家焙煎で作るクラフトチョコレートブランドです。豆から作っているこのスタイルはBean to Barスタイルと呼ばれています。私がBean to Barブランドを立ち上げるために色々準備を始めた頃に比べてここ数年で日本でもカカオ豆がぐっと手に入りやすくなりました。それもけっこう良質なカカオ豆が手に入る。実際にカカオ豆を探して、輸入する事は商社でもなんでもない1ブランドがやろうとすると、本当に大変です。(ここの苦労はいつかこの連載でも触れたいですねw) 。実際日本はまだまだカカオ豆の輸入量が多くなく、農薬の基準などが厳しく、仮に農薬検査に引っかかると、その豆を破棄するか、シップバックするしかありません。日本でも商社を通して良質なカカオ豆が手に入るのに、それだけではなく、なぜ金融的なリスクを背負いながら、わざわざカカオ農園に行ってカカオ豆を探すのか? Minimalのポリシーというとカッコいいのですが、そこには創業者である僕の個人的な嗜好性が大いに関係していますw
▲ カラフルなカカオポッド。色も形も品種などによりさまざま
実は世界各地で生産されているカカオ豆は、おおまかに3種の品種に分けられます。
クリオロ種
現在はベネズエラやメキシコなどでごく少量生産されています。渋味や苦味の少ないマイルドな味わいで知られています。 ※生産量については、1%〜10%程度まで諸説あります。
フォラステロ種
カカオ豆の生産量の約80%以上を占める、最もメジャーな品種です。病害虫に対する耐性が強く、成長も早いため、カカオベルトの各地で生産されています。香りはやや弱く、苦味・酸味・渋味が比較的強いのが特徴です。
トリニタリオ種
クリオロ種とフォラステロ種の交配種です。カリブ海のトリニダード島で自然交配によって生まれました。豆は良質かつ栽培も容易で、クリオロ種とフォラステロ種の良いところを併せ持っています。 その他にも「ナシオナル種 (アリバ種) 」という南米のエクアドルだけで生産されている希少品種や、それを改良した「CCN51」という独自の品種も知られるようになってきました。代表的なものは上記に紹介したものですが、カカオ豆はその土地土地で独自交配していくので、正直カカオ豆の品種については未解明の部分も多く、今も研究が進められている最中です。 良く品種の優劣がまことしやかに言われる事や、希少性のみが取り上げられている事を見聞きしますが、実際に日々チョコレートづくりを行っていると、仮に同じ品種でも生産国や栽培方法などの条件により、味わいと香りが変わることを実感しています。そして、優劣が言われても、それはあくまで嗜好性によるものに過ぎないと感じてしまいます。ワインの用語で「テロワール (terroir) 」というフランス語があります。 農産物を取り巻く「自然環境」を意味する言葉ですが、ワインだけでなく、カカオもテロワールは大きな意味を持ちます。気候や土壌などの環境、生育から発酵・乾燥までの農法、そして農家による丁寧な栽培管理。こうした無数の条件が重なり合って、ひとつのカカオ豆にたどり着きます。毎日多くのカカオ豆を試しては食べてを繰り返していると、カカオ豆は「天・地・人」の要素のすべてが欠かせない、“一期一会の農産物” だと気づきます。 そう、これが個人的にもカカオ農園に惹きつけられてしまう理由なんです。 同じ国の、同じ地域でも農園が変われば味が変わる可能性がある。実際に色々な農園を訪れて、都度都度そのカカオ豆をチョコレートにしている内にそう実感しました。そうなると、まだまだ私や日本の皆さんにとって未知な味わいや香りのカカオ豆が世界のどこかに無数に存在しているのではないか?と思ったら、反射的に「これはもっと食べたい!」と思ったのです (笑) 。言葉にすると恥ずかしいくらい単純な動機ですw
▲ フィリピンの農園。奥深いカカオ世界に誘われているよう
注目されてこなかったカカオ豆の個性
毎年取引している農園ですら、1年のうちで乾季と雨季で味は変わりますし、毎年農法 (発酵や乾燥など) を一緒に試行錯誤していくと、味わいや香りは変わっていきます。過去にフィリピンやインドネシアの農園と共同で、同じ農園から同じタイミングで採れた豆の農法を変える実験をしました。その結果チョコレートにすると全く味が変わりました。 無数の変数のうち、少しだけ変えても味わいや香りは変化します。正直本当に何が作用しているかわかりません。あくまで私見ですが、でもやはりなんかその土地の味があると思います。カカオ豆は農園の数だけ味わいや香りがあるはずです。私はそれが最高に面白いなと思いました。だから呼ばれればどこへでも駆けつけてしまうようになりました。私がよくいなくなり、Wi-Fiもつながらず音信不通になるのでうちのメンバーはとても迷惑していますが (笑) 。 でも冷静に考えるとこれって農作物なら当たり前の事ですよね。なのに、なぜカカオやチョコレートだと驚きをもって感じたのか。それはやはりチョコレートがこれまでは加工品として混ぜて味を作ってきたことに関係しているのでしょう。大量生産大量消費時代の加工品として発達したチョコレートは、ある一定の味のイメージで語られ、カカオ豆の個性ということにはさほど注目されなかったのだと思います。でもここからはカカオ豆個性の時代がくるのかもしれません。私はそれも含めて面白いと思っています。ぜひそんなことに注目してみてはいかがでしょうか。
Minimal – 富ヶ谷本店 住所: 東京都渋谷区富ヶ谷2-1-9 電話: 03-6322-9998 時間: 11:30〜19:00 定休: なし https://mini-mal.tokyo
- Minimal Owner
山下 貴嗣 / Takatsugu Yamashita
「Minimal-Bean to Bar Chocolate-」代表。1984年、岐阜県生まれ。2014年にカカオ豆からチョコレートを製造するBean to Barのチョコレートブランドを立ち上げる。現在富ヶ谷・銀座など都内4店舗。「インターナショナルチョコレートアワード世界大会2017」出品部門で、日本ブランド初の最高賞「ゴールド(金賞)」受賞。2017年度グッドデザイン賞ベスト100及び特別賞「ものづくり」にも輝く。個人としては「WIRED Audi INNOVATION AWARD 2017 未来に向けた革新をもたらす30人」に選ばれる。 https://mini-mal.tokyo/