【新連載】カウンターカルチャーが生まれる店
001 三軒茶屋[おでん学園]
カウンターカルチャーとは?
カウンターカルチャー【counter-culture】
一般的には、1960年代のアメリカを中心に展開した文化の総称で、旧来の保守的な高級文化であるハイ・カルチャーに対する抵抗的なカルチャー(サブカルチャーの一部)を指す。
しかし、今回からここRiCEで連載させていただく記事における「カウンター」はバーのカウンター、コーヒースタンドのカウンター、あるいは寿司屋のカウンター……そう、一枚板にL字やコの字、素材や形状に店舗の味が光るあのカウンターである。
カウンター越しに生まれるカルチャーがあると思う。
店員さん、他のお客さん、料理や飲み物……さまざまな“登場人物”がカウンターを媒介として巡り会うことで、そこに新たなものの見方や感じ方が具現化されていくのではないだろうか。
この連載では「カウンターカルチャー」という言葉をそのような切り口で解釈して、素晴らしきカウンターカルチャーが生まれているお店を紹介していきたい。
[おでん学園]でカウンターカルチャーに出会う
なぜこんなことを感じたかといえば、三軒茶屋にある[おでん学園]という少し変わったお店との出会いがある。
「屋台文化に興味はあるけど出会うことはなかなか無い」なんて方も多いのでは? 私もそのひとりだった。でもこの店では、気軽に屋台文化を体感できたのだった。
[おでん学園]という店はいろんな意味でユニークだ。
まず、店内におでん屋台が丸ごと収められている。そして屋台にはおでん鍋が埋め込まれていて、四方からみんなで鍋を囲む形式。云うなれば「ロの字カウンター」だ。実は元々、屋台の車庫だった空間。屋台を出して営業を始める前に常連さんがここで飲み始め、じゃあいっそ屋台を据えてしまおう、ということになったのが店の始まりだとか。ちなみにこれは長年の常連さんから聞いた話。
屋台は、隣の席の人と肩がぶつかるくらいには狭い。誰かがお手洗いに行く際にはお客さん全員で通り道を空ける。店主の手がドリンクの冷蔵庫に届かないので、冷蔵庫近くに座っているお客さんに瓶ビールを取ってもらう。初めてのお客さんに、店主よりも先に常連さんが店についての説明をしている光景なんて毎度のこと。
ここは自然に全員の連帯感が生まれる環境なのだ。
無理に関与するわけではなく、心地がよい距離感。
常連さんの中にはおひとり様も多いが、店を後にする頃には周りのお客さんと打ち解けている。その場に居合わせた人と必然的にコミュニケーションを取ってしまうのだ。
カウンターで生まれるもの
テーブル席ではきっと味わえないものがカウンターでは味わえるのだと思う。
テーブル席に着くと、もしかしたら隣のお客さんなんて目に付かないかもしれないし、店員さんとのコミュニケーションも注文時くらいの最低限になるだろう。もちろん、どちらが良い悪いというわけではなく。
カウンター(とりわけ屋台)では、会話のタネが次々に生じ、メンバーが入れ替わり、展開されていく。過大表現かもしれないが、これはジャズ。刻一刻と変化する環境の下、各者が即興で演奏を繰り広げているのだ。気が付いたら話題が思わぬ方向に行ってしまうなんてこともザラ。
美味しい店は数多あれど、自分にとって記憶に残る店というのはあまり多くは出会わない。あなたが最近行った印象的な店はいくつ浮かぶだろう? きっと、気のいい店主がいたとか隣のお客さんが面白かったとか、食べて飲む以上の何かそういうことが、あるお店を印象的たらしめるのでは?
[おでん学園]のお客さんは、誰もが何かしらの出会いや気付きを得たような表情で店を後にする。店主が曜日ごとに持ち回りのこの店。私も一時期、日曜日の店主を務めさせていただいていた。毎週末、カウンターで生まれるものをその真ん中で感じることこそ、店主に許された醍醐味だと感じるのであった。
今、そんな良きカウンターカルチャーがある場所を探すことは一種のライフワークと言ってもいいかもしれない。この連載では、私の出会うカウンターカルチャーを紹介し、その中にいる店主は何を日々感じているのかを見つけていきたいと思う。
Photography by Kisshomaru Shimamura
- odd-en 主宰
山口 輝 / Hikaru Yamaguchi
三軒茶屋[おでん学園]の日曜日店主を経て、現在は[odd-en]の屋号で東京を拠点にイベント出店やポップアップを中心に活動中。様々なバックグラウンドを持つお客様たちが集うアットホームでどこか異質なコミュニティづくりを図る。お店ではついついカウンター席を選んでしまいがち。
Instagram @odden_tokyo
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