おいしい裏話
高級(RiCE No.25に寄せて)
地元の商店街のハム屋さんが作っているコンビーフがお取り寄せだ、手土産だ、でものすごく上位にランクインするようになった。
おかげでなかなか買えない。
確かのそのコンビーフはすごくおいしい。でも私は…買うといつでも、連載本文に書いた全くデリカシーのない食べ方で食べ切ってしまうのだった。
昔は缶切りにねじがついていてクルクル回して切る缶詰とブルドッグのとんかつソースだったのが、今はそのコンビーフとジャックダニエルのハニーBBQソース(これ、ほんとうにおいしいですよ)を合わせているのがせめてもの救いだろうか。
そのハム屋さんのおじいちゃんは私が小説家になったのをすごく喜んでくださり、事務所に遊びに来て(もちろんハムを持って)くださったり、さらにはものすごいことに、ハムの並んでいるショーケースに私の「キッチン」の単行本をいっしょに飾ってくださった。
あのおじいちゃんの顔を思い浮かべながら、売り切れじゃないときはコンビーフを必ず買うようにしている。
1964年、東京生まれ。日本大学藝術学部文芸学科卒業。87年『キッチン』で海燕新人文学賞を受賞し小説家デビュー。88年『ムーンライト・シャドウ』で泉鏡花文学賞、89年『キッチン』『うたかた/サンクチュアリ』で芸術選奨文部大臣新人賞、同年『TUGUMI』で山本周五郎賞、95年『アムリタ』で紫式部文学賞、2000年『不倫と南米』でドゥマゴ文学賞、2022年8月『ミトンとふびん』で第58回谷崎潤一郎賞を受賞。著作は30か国以上で翻訳出版されており、海外での受賞も多数。近著に『下町サイキック』がある。