山梨県身延町でしか手に入らない

幻の「あけぼの大豆」が美味しい理由


PromotionPromotion  / Oct 8, 2022

粒が大きくて、抜群に甘みが強い「あけぼの大豆」

甘みが強く粒が大きくて、山梨県身延町でしか生産されていない幻の大豆「あけぼの大豆」をご存じでしょうか。

山梨県といえば、モモやブドウなどの果樹産地として有名ですが、南部に位置する身延町曙地区では古くから大豆の栽培が行われてきました。

明治以前よりこの地区で作られているこの大豆は、粒が大きいのが特徴で一般の大豆と比べて重量はおよそ2倍。生産地では古くから、豆粒を10個並べると6寸(約18cm)になることから「十六寸(とうろくすん)」という名前で呼ばれてきました。さらに甘みも強く、ショ糖の含有量は一般の大豆と比べて4割も高くなっています。この大豆は1970年ごろから枝豆として市場に出荷されるようになり、そのころから曙地区の地名を取って「あけぼの大豆」という名称で呼ばれるようになりました。

身延町でしか採れない「あけぼの大豆」は、2022年3月に山梨県の農産物として初めて地理的表示(GI)保護制度に登録されました。GI保護制度とは、伝統的な生産方法や気候・風土・土壌などの生産地等の特性が、品質等の特性に結びついている産品の名称を、知的財産として登録し保護する制度。これまで「大豆」または「えだまめ」いずれかのカテゴリーで登録されている産品はありますが、「あけぼの大豆」は野菜類(えだまめ)、穀物類(大豆)のふたつのカテゴリーで登録されており、全国でも初めてのことです。

今回は、この幻の大豆の美味しさの秘密を探るために、吉祥寺で古来種野菜の八百屋[warmerwarmer]を営む高橋一也さんと一緒に山梨県身延町を訪れました。

高橋さんは固定種・在来種・地野菜など、いわゆる昔ながらの野菜を「古来種野菜」として呼び、各地の産地を訪ねてその起源を調べ、「古来種野菜」を伝える活動をしています。全国でも数少ない伝統野菜のエキスパートの高橋さんも今回が初取材となる身延町の「あけぼの大豆」。幻といわれる大豆はどのような土地でどのような人がつくっているのか。そして、そのお味は。貴重な「あけぼの大豆」について、高橋さんとともにお話を聞きます。

集落で守り続けてきた大豆の種子

山梨県南部に位置する身延町。町の中央には大きな富士川が流れ、町は山間部と平野部の地域に分かれています。まずは富士川の真横にある身延町役場をスタート。

「こういう大きな川は昔の人が船を使って商いをするのに使っていましたから、もしかしたら富士川を使って大豆を運んだのかもしれませんね」と富士川を眺めながら想いを馳せる高橋さん。風土を感じながら車でくねくねした山道を登っていくと、「あけぼの大豆」の発祥地である曙地区に到着します。

曙地区は、見晴らしのいい山間部に位置しており、標高300〜700メートルに広がります。野生の猿や鹿が生息し、民家や畑は山の急斜面を切り開いた場所にあります。この地域は枝豆の成熟期に当たる10月から大豆を収穫する12月ごろまでの昼夜の寒暖差が大きく(その差は10度以上)、霧も発生しやすい場所です。足元の土を見ると小石がごろごろ混ざっていて、一見すると野菜を育てるのには不向きな場所に見えますが、曙礫岩層の壌土と気候が大豆の栽培には適していました。

この曙地区で60年以上あけぼの大豆を育てている佐野すずえさん(82)は、長年あけぼの大豆の“種子”を守り続ける数少ない農家の一人です。ご主人とともに地域の小学生を受け入れ、「あけぼの大豆の先生」として在来種を守り伝える活動も続けてこられました。高橋さんがこの土地の特色について尋ねると、佐野さんは次のように教えてくれました。

「寒暖差があって霧が多い環境だから、あけぼの大豆は普通の豆よりも大きく甘く育つんです。子どもたちが平野部の学校で育てたあけぼの大豆と比較してみたのですが、私の大豆を見た子どもたちはみんなびっくりするんですよ。本当にいい大豆が収穫できるから、自分でもびっくりします」

佐野さんから子どもたちの写真を見せてもらいながらお話を聞く高橋さん

曙地区で収穫した大豆を種子として身延町内で栽培された枝豆と大豆のみが「あけぼの大豆」と呼ばれます。他の土地にはない“幻の大豆”と呼ばれる所以です。

現在、種子を作っているのは佐野さんを含めて14軒。種子が身延町に持ち込まれて以来、この種子を代々受け継ぎ、地域のなかで種子を譲り合いながら、今日まで栽培を続けてきました。そのためには、他品種との交配を防ぐ必要がありますが、圃場の分離を徹底するなど、地道な努力の繰り返しによって「あけぼの大豆」を維持しています。

「むかしから、どこからも別の種子を入れたらダメだよ、種子はこの集落で譲り合って守らないと、と言われてきました。守り通したからいまがあるのだと思います」(佐野さん)

天気にも恵まれた9月中旬のこの日、佐野さんの畑を見せてもらうと、1メートルを越す背丈のあけぼの大豆が元気に茂っていました。普通の枝豆の背は50センチ前後といわれているので、あけぼの大豆はその2倍以上ということになります。背が高い分手入れも大変。「今年は雨が多かったから少し育ちすぎ」と話す佐野さんですが、今年も立派に育ったあけぼの大豆のかたわらに立つその表情は誇らしげに映ります。

「息子さんはいるのですか?」と尋ねる高橋さん。後継者は農業における永遠の課題です。
「息子はよく手伝ってくれるけど、勤めているからね……」と佐野さん。
それでも「どうしてもこの大豆を絶やしたくない」と言います。

地域としても、継ぎ手が育ちやすいよう就農移住者を積極的に受け入れています。それに加えて、やはり人の手から手へと受け継がれてきた伝統野菜を繋いでいくためには、佐野さんたちのような生産者が次世代を支えることが大切。記事の後半では、次世代の生産者の元も訪ねました。

さて、その前にせっかくなのでと佐野さんがあけぼの大豆を使ったご馳走を用意してくれたのでいただくことにしましょう!

ホクホクの「曙揚げ」に子どももやみつき

「収穫のときは採った大豆を枝ごとはざ掛けにして乾燥させ、棒で叩いて大豆を落とすんです。その時はみんなが手伝ってくれるんですよ。大勢集まるからお祭りみたいですよ」

間もなく迎える本格的な収穫期。畑で作業をしたあとは、こうして絶品の大豆料理をいただくのだそう。今回も特別に佐野さんがあけぼの大豆の料理を振る舞ってくれました。

佐野さんが作ってくれたのは、甘くてほくほくの煮豆と、餅米と大豆を合わせて蒸す山梨の郷土料理「やこめ」、あけぼの大豆の味を最大限に生かした「曙揚げ」、お手製味噌の4皿。

佐野さんのイチオシは「曙揚げ」。「曙揚げは歯ごたえもあって、子どもたちの食べる手が止まらないんです」とにっこり。味の決め手はスキムミルク。「牛乳よりも軽く、さらっと仕上がります」と言います。そんな曙揚げは、レシピまで教えていただきました。

「曙揚げ」レシピ

・乾燥あけぼの大豆 1カップ
・スキムミルク 大さじ1
・卵 1個
・小麦粉 70g
・じゃこ 30g
・桜海老 20g
・塩 少々
・揚げ油 適宜

①乾燥あけぼの大豆を前日から水に浸しておく。
②スキムミルクを水で溶き、卵と小麦粉を入れて混ぜる。
③浸した大豆、じゃこ、桜海老、塩を②と混ぜ合わせる。
④揚げ油に菜箸を入れ、泡が出るくらいの温度になったらスプーンで適当な大きさにして揚げる。
⑤きつね色になる手前で油から取り出す。

蒸しただけでもホクホクして甘みが口のなかいっぱいに広がる「あけぼの大豆」。
山梨県身延町特有の風土でしか大きな大豆に育たない上に、作業は基本的に手作業です。「幻の大豆」と言われるほど希少価値が高いこの大豆を、地域の人が協力しあって未来につなげようとしています。

取材中、高橋さんの口からは「農家さんの価値を上げていかないといけない」という言葉が聞かれました。ものをつくる現場ではどの分野でも当てはまりますが、担い手がいてこその産業。特に、あけぼの大豆のような在来種は、その地、その種で継がれていかなくてはいけないもの。「おいしい未来へ やまなし」という取り組みを通じて県内の農畜水産物の魅力を発信する山梨県に加え、身延町も生産者への支援を行い、未来へ繋ごうとしているそう。あけぼの大豆が大きく伸びていく陰に農家と自治体の協力関係があることを知った高橋さんも大きく頷くのでした。

6次産業を目指す、新しい流れ

次に高橋さんと訪れたのは、平野部に位置する身延町西嶋地区。「あけぼの大豆地域おこし協力隊」の浅野秀人さん、美沙子さんご夫妻の畑です。

浅野さんご夫妻は、佐野さんを含めたあけぼの大豆の種子農家の種子を譲り受け、枝豆や大豆を栽培して収穫、加工し、新たな販路を広げています。身延町の農業の次世代、そしてあけぼの大豆の未来を担う就農者です。

枝豆は一般的には8月の収穫が多いですが、あけぼの大豆は極晩生(成長がゆっくりで収穫時期が遅い)で、その枝豆の収穫は例年10月ごろ。収穫直前の枝豆はぷっくりと膨らみ、うぶ毛がたくさん生えています。このうぶ毛が多いのもあけぼの大豆の特徴で、手に取ると水滴がたくさんつき、水分を十分に含んでいるのがわかります。

3年前まで横浜に住んでいた浅野さんご夫妻は、子育てがひと段落したことを機に、身延町に移住しました。現在は町が委嘱した「あけぼの大豆地域おこし協力隊」として、「身延町あけぼの大豆拠点施設」で活動しています。

「あけぼの大豆を以前から知っていて移住されたのですか?」と尋ねる高橋さんに、「実は知らなかったんです」と浅野さんは答えます。身延町に移住を決心する以前から、各地で就農機会をうかがっていたという浅野さん。身延町を選んだのは、幻の大豆の魅力と、その生産に携われる体制がしっかりしていたことが大きいそう。

「就農1年目からあけぼの大豆の栽培に携われたのは、身延町の移住者の受け入れ体制が整っていたから。いまはあけぼの大豆を育てながら、6次産業化を目指して商品開発をしています。妻はデザインの仕事をしてきたので新商品のパッケージデザインも担当してもらっています」

浅野さんの言う6次産業とは、自身の生産物(=第1次産業)を加工して(=第2次産業)、流通や販売まで(=第3次産業)を手がける多角展開を意味し、「1×2×3」の「6」で、6次産業と言われています

「地域の人との交流はどうしていますか?」と高橋さん。

「畑のお隣さんは96歳の方で、その歳で農業をしているから気持ちが若くて前向きなんです。新しい機械を買ったりして、どうすればもっとうまくやれるのかを一緒に考えたりして。“仲間”ですよね」と浅野さんは微笑みながら答えます。近隣の方々に丁寧に大豆の育て方を教わりながら試行錯誤の日々、その表情には充実感があふれます。

地域の先輩たちから技術を受け継ぐ一方で、これまで以上にあけぼの大豆の魅力を広めるための取り組みに浅野さんたちは挑戦しているのです。

「町内の生産者さんが出荷してきた枝豆をJAが選別をして、傷などで商品にできない枝豆を加工品にするために身延町が「あけぼの大豆拠点施設」を作りました。そこで枝豆を茹でてサヤをむき、加工品にして付加価値をつけて販売しています」

今回、浅野さんにご馳走していただいたのは、枝豆の食感を残しながらナチュラルチーズで塩味を効かせた「極上枝豆ディップ(ソルティー)」と、枝豆の甘みを存分に活かした「極上枝豆ディップ(スウィーティー)」。どちらもクラッカーやフランスパンに合わせたら絶品です。

枝豆(10月のみ)のほか、シュウマイなどの枝豆加工食品、味噌などの大豆加工食品は直売所やオンラインショップで販売されていますので、ぜひ試してみてください。

身延町を訪れたらなら、[JA山梨みらい中富直売所]にどうぞ。浅野さんの「極上枝豆ディップ」の他にも、あけぼの大豆商品が多数揃います

「あけぼの大豆」の味に魅せられて

高橋さんと編集部が最後に訪れたのは、キャンプや、農ケーション、有機栽培にこだわった農業を展開する「みのぶ自然の里」。こちらを運営する森の学び舎食育事業部長の増澤隆行さんは「あけぼの大豆」に魅了されてしまった一人です。

長野で料理人をしている増澤さんは、あけぼの大豆の美味しさにハマり、長野で料理人を続けながら、身延町でもこの大豆を使った料理を作っています。

「伝統野菜の原点は“美味しさ”です。それが品種改良を重ねて味が薄くなってきてしまいました。日本の野菜は純粋で混じり気のないもので、それを守ろうとしている人たちがいる。過疎化が進みますが、作り手を一人でも多く作っていき、この大豆を残していきたいという思いがあります」と増澤さんは力強く話してくれました。

その言葉に頷きながら、高橋さんがつづけます。「美味しい物は、一回食べたらまた食べたいですよね。あけぼの大豆も飽きが来ない。でも大豆を“カルチャー”にするのは難しいですよね。食材という枠をなかなか越えられないですから。でも増澤さんのような料理人は、食材を文化として見ていますよね」という言葉に、増澤さんは「初めて食べたときに、豆自体に力があると感じたんです」と言います。

増澤さんはあけぼの大豆の美味しさをさらに引き出すために、さまざまな料理をつくろうと試行錯誤をしています。大豆を甘露煮にした「大豆餡」や「まめケイク」、「だいずケイク」などのスイーツは、みのぶ自然の里のオンラインショップでも購入できるそう。近々、山梨県内であけぼの大豆を使ったカレーをキッチンカーで販売するので、多くの人が増澤さんの絶品カレーを楽しめそうです。

「山梨」だからおいしい!

今回紹介した「あけぼの大豆」は、山梨県の魅力が詰まったオンリーワンの食材です。その味わい方はさまざま。取材途中に立ち寄らせてもらった[JA山梨みらい中富直売所]では、「あけぼの大豆」の加工商品をたくさん購入できます。浅野さんご夫妻のおすすめは味噌で「普通の大豆よりたんぱく質が少なくて、糖類が多いから甘みがあります。だから味噌にするとうま味が出てきます」とのこと。その他にも、「極上枝豆ジャンボシュウマイ」などの加工商品は県内の道の駅などでも販売されています。

「あけぼの大豆」の種子を守りながら、地域に根ざした伝統農業が若い世代に受け継がれていく身延町。たくさんの商品が日本中の食卓に並べられる未来がすぐにでもやってきそうです。ぜひ枝豆産地フェアに参加をしたり、オンラインショップで商品を試してみてください。大きくて、甘みの強い大豆に、絶対にびっくりするはずです。

日本一の日照時間と、地形を活かした水はけのいい大地、そして綺麗で美しい水がある山梨では、おいしい農作物がすくすく育ちます。いま山梨県では、「おいしい未来へ やまなし」をキャッチフレーズに、恵まれた環境で育つ高品質な農畜水産物の高品質なブランド作りや、SDGs実現に向けた施策、山梨県オリジナル品種の開発、食の安全・安心のためのアクションなどに取り組んでいます。

例えば果樹園の土に炭素を貯める脱炭素社会への実現、家畜のウェルビーイングに注目したアニマルウェルフェアなど、農業分野からの持続可能な社会の実現を目指す、おいしさの先をいく取り組みに力を入れています。

世代を超えて受け継がれてきた伝統的農産物をみつめると、よりよい未来へのヒントにつながっていました。秋を迎えるいま、生産者の想いが感じられる旬の味覚を味わいましょう。

【おいしい未来へ やまなし】
豊かな自然資源が育む山梨の農畜水産物。その「おいしい」を未来につなぐための動きは「おいしい未来へ やまなし」プロジェクトとして官民が手を携えて支えている。山梨県のおいしさの先を行く取り組みが紹介されており、ふるさと納税で返礼品として選べる品々がチェックできたり、山梨県内で丁寧に生産される食材を購入できるオンラインショップにも連携している。
公式サイト https://www.pref.yamanashi.jp/oishii-mirai/

【あけぼの大豆】
今回取材させていただいた“幻の大豆”、あけぼの大豆の公式サイトでは、生産者や加工を手掛ける方々のインタビューや取扱店などの情報がまとめられている。注目は、10月に情報が解禁される「枝豆直売会」。身延町内12箇所で開催される直売会は毎年予約が埋まるほど人気なのでお早めにチェックを。
公式サイト http://town-minobu-akebonodaizu.com/

【warmerwarmer】
伝統野菜、在来種、固定種などと呼ばれる野菜を「古来種野菜」と呼び、それを専門とする八百屋[warmerwarmer]を営むのが、今回の取材で案内役を務めていただいた高橋一也さん。日本にしかない、誇るべき多様性を探求し伝える。
公式サイト http://warmerwarmer.net/
Instagram @warmerwarmer_2011

Photo by Taro Oota
Text by Rie Noguchi
Edit by Kanako Teshigawara & Yoshiki Tatezaki
Coordination by Minobucho municipality &  Yamanashi prefecture
Special Thanks to Kazuya Takahashi (warmerwarmer)
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