おいしい裏話
「ちょんぼろ焼き」(RiCE No.28に寄せて)
関西の友人の実家には、家族でいつも食べるという「ちょんぼろ焼き」というものがあった。
ゆるゆるに溶いた小麦粉に卵とだし醤油を入れて、細ねぎをたくさん入れて、小さめの丸形に焼くだけのものだった。
できたてのそれがおいしくて、みんなで何枚も食べた。
その家の娘さんがフランスに嫁いでパリに住み始めたので遊びに行ったら、「ちょんぼろ焼き」を作ってくれた。
パリの夜に食べる「ちょんぼろ焼き」って、なんだかシュールだったけれど、実家の味そのままでちょっときゅんとした。
あれってあの家だけのものだったのかな?と思っていたら、阪神百貨店の下の有名ないか焼きの近くの店に「ちょぼ焼き」というものが売っていて、かなり近いということがわかった。そちらはさすがにデパ地下、天かすとかこんにゃくとかいろいろ入っているけれど、ふわっとしている感じはよく似ていた。
具が良ければどんな高級なものでもできるし、具なんてなくてもおいしくいただけるっていうのは、粉もんの極みだなと思う。
元祖ちょぼ焼き https://tabelog.com/osaka/A2701/A270101/27009988/
1964年、東京生まれ。日本大学藝術学部文芸学科卒業。87年『キッチン』で海燕新人文学賞を受賞し小説家デビュー。88年『ムーンライト・シャドウ』で泉鏡花文学賞、89年『キッチン』『うたかた/サンクチュアリ』で芸術選奨文部大臣新人賞、同年『TUGUMI』で山本周五郎賞、95年『アムリタ』で紫式部文学賞、2000年『不倫と南米』でドゥマゴ文学賞、2022年8月『ミトンとふびん』で第58回谷崎潤一郎賞を受賞。著作は30か国以上で翻訳出版されており、海外での受賞も多数。近著に『下町サイキック』がある。