エディターズノート
「RiCE」第30号「タイカレー」特集に寄せて
おかげさまでRiCEは通算30号の節目を迎えることになりました。あくまで通過点ではありますが、これからも1号入魂で更なるクオリティアップを目指しますので引き続きよろしくお願いします。
というわけで今号は夏にふさわしく?タイカレーの特集です。これまで毎夏と言っていいほどカレーの特集を組んできましたが、タイに絞ったのは初。タイ料理はまだしもタイカレーだけを深掘りしたメディアは過去ほとんどなかったのではと思います。きっかけの一つは、特集のたびに協力してもらっている水野仁輔さんが『ハーブカレー』という本を出したことでした。
かつて水野さんがインドのカレーを整理し直して「スパイスカレー」と命名したように、今回はタイのカレーを研究して「ハーブカレー」として世に問うたわけです。スパイスカレーという言葉がその後様々に波及を広げて一大ブームとなったのはご存知の通り。ハーブカレーが一般に降りてくるにはまだしばらく時間がかかりそうですが、とはいえみんな大好きグリーンカレーを筆頭に、常に一定の支持を受け続けているのがタイカレーの不思議なところ。
ターメリック、コリアンダー、クミン、レッドチリなど多様なスパイスの使用を必須とするインドのカレーに対し、タイのカレーは、お馴染みのパクチーはもちろん、プリッキーヌやレモングラス、こぶみかんの葉などのハーブを多用します。それらフレッシュなハーブをミックスしたペーストを元にカレーを作るのですが、そのペーストをどうやって作るかがポイントとなります。
伝統的なタイ料理ではクロックと呼ばれる石臼でカンカン打ち付けることでペーストを作るのですが、当然手間と時間がかかります。多少風味が落ちるとしてもフードプロセッサーを使うことで時短することも可能ですし、もっと簡便にするなら市販のペーストを買ってきて使用する手もあって、あっけないほど簡単に美味しいタイカレーが作れます。ほとんどのタイ料理店でも市販のペーストを使用しているようですが、そこに追いハーブをするなど、独自の工夫を重ねる料理人も多いようです。
タイ現地では、ペースト専門店がたくさんあって、まるでお味噌を買うように好みのペーストを好きな分量買って調理しているのだとか。われわれ外国人がカレーと呼んでいるものはタイ人にとっては“ゲーン”と呼ばれる汁物全般の中のごく一部らしく、それをグリーンカレー、レッドカレー、イエローカレーといって見た目からつけた勝手なネーミングを定着させてしまっているのです。
つまり、これほど長年身近にありながら、タイのカレーや料理についてわれわれの大部分がかなり無知なままだった。その辺りの実態を探るため、バンコク、チェンマイの2大都市での取材も敢行しました。この特集に目を通せば、タイカレーについてグッと解像度が高まると思いますし、第2特集ではタイの最新フードカルチャーを追いかけています。まだまだ暑さ厳しい日が続きますが、微笑みの国に想いを馳せながらぜひお楽しみください。
Illustration by Masakatsu Shimoda
- RiCE.press Editor in Chief
稲田 浩 / Hiroshi Inada
「RiCE」「RiCE.press」編集長。ライスプレス代表。
ロッキング・オンでの勤続10年を経て、2004年ファッションカルチャー誌「EYESCREAM」を創刊。2016年4月、12周年記念号をもって「EYESCREAM」編集長を退任、ライスプレス株式会社を設立。同年10月にフードカルチャー誌「RiCE」を創刊。2018年1月よりウェブメディア「RiCE.press」をロンチ。