おいしい裏話
「ていねい」(RiCE No.31に寄せて)
そのお店のお姉さんは、ひとりでやっているからすぐにはなんでも対応できない、ということを言葉でも書いて全身でも表しているので、そのおいしいごはんを愛する人たちはみんな普通に待ったり、優しかったり、そのお姉さんの味を全身で守っている人たちばかりで気持ちが和んだ。あえてリンクは貼らないけれど、すぐわかると思う。
そのすぐ近所に[黄色い鳥器店]という夢のようなお店がある。センスの良さが、昨今のそういうお店と一線を画している。
その人たちの生活や考え方の中からお店が自然と立ち上がってきたようなところと、そういうのに憧れて作ったお店の違いってすぐにわかる。
そこは、本物だと思った。後ろにその人たちが触れてきた文化が分厚く存在していた。そういうところに行くと、美術館に行ったときと同じような感動がある。
逆に言うと、美術館の展示って、そういうあり方でないとどんなすごい題材でもぺらぺらになってしまうと思う。
黄色い鳥器店 http://kiiroi-tori.com
1964年、東京生まれ。日本大学藝術学部文芸学科卒業。87年『キッチン』で海燕新人文学賞を受賞し小説家デビュー。88年『ムーンライト・シャドウ』で泉鏡花文学賞、89年『キッチン』『うたかた/サンクチュアリ』で芸術選奨文部大臣新人賞、同年『TUGUMI』で山本周五郎賞、95年『アムリタ』で紫式部文学賞、2000年『不倫と南米』でドゥマゴ文学賞、2022年8月『ミトンとふびん』で第58回谷崎潤一郎賞を受賞。著作は30か国以上で翻訳出版されており、海外での受賞も多数。近著に『下町サイキック』がある。