「生活からみえてくる美味しさ」を求めて

異聞インド旅[サーモン アンド トラウト]シェフ中村拓登 -1-


Takuto NakamuraTakuto Nakamura  / Nov 30, 2023

世田谷区代沢に佇むレストラン[サーモン アンド トラウト]。
月替わりのコースメニューでは、季節ごとの食材をシェフ独自の解釈で味わうことができる……といった表現が全くありきたりで通りいいっぺんに感じてしまうような品々を生み出す中村拓登シェフは今年の夏、インドを訪れた。
目的はカレー研究ではない。彼ならではの視点から「美味しさ」を見つめるためのインド旅を綴ってもらった。


資本主義による穿った「美味しいの正義」、そしてそれを刃のように振りかざすような風潮、価値感に疑問を持っていた。

自分の味覚が感じる「美味しい」。
誰かの評価基準でいわれる「美味しい」。
そして、「美味しい」へ導くためにテクニカルであることを求める流れ。

疑問渦巻くそんな感情を抱きながら、インドのデリーに降り立った。

この国で「生活からみえてくる美味しさ」に出会いたいと考えたのだ。自分の疑問に対するヒントが、この地の食を通じて見えてくるのではないかという期待を抱いて、夏のインドを訪れた。

過去にベトナムで数ヶ月働いたことがあったので、バイクや車のクラクションなどの騒音には慣れていたし、少し懐かしくも感じていた。しかし、雑多な街並みと人の多さには、さすがに少したじろいた。

初日に泊まったホテル前の通りには屋台が立ち並び、タンドールが連なっていた。生地を伸ばす人、焼く人と手際よくみんな仕事をしている。屋台はお腹壊すよと聞いていたけど、食べてみたいという気持ちを抑えるのは大変だった。初日の移動で疲れた自分の身体を労って、近くのお店で食事することにした。

ギーがかかったナンとチキンカレーとマトンカレーを頼んだ。とりあえず、あまり刺激的なのはやめておこうと辛さ控えめな料理はどれかと聞いたらこれになった。

しかし辛い。辛すぎる。

これが12日間続くのか? 不安になる。

味変用なのか? 緑色のゆるいペーストがある。少し舐めてみると、辛い。辛すぎる。

優しい味がしそうな淡い色に騙された。これはただの発酵青唐辛子のペーストだ。

これがインドか……ヤバいところにきた。「美味しさ」を探求する前に、お腹とお尻に不安を感じながら初日を終えた。

(Edit by Yoshiki Tatezaki)
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