おいしい裏話
「料理人に行ってほしい」(RiCE No.32に寄せて)
その店の名は「新栄記」。調べればすぐわかる。
香港の中華はだいたいみんなおいしい。でも日本の中華もそうとう進化しているから、たとえば「龍天門」や「虎峰」などに行けば、だいたい同じレベルのものを食べることができる。そのくらい日本の中華のレベルは高い。
それでも、「これはありえないだろうな」と思った。歴史がしみしみにしみている味。そして、下ごしらえから煮る焼く和える揚げるまでひとつも手を抜かない、システマティックなプロの料理。
どうしても行ってみたくて奮発したのだが、日本のそこそこ高い店、つまりひとり3万円くらいからのお金がかかる。私たちはそういうわけで大目に見てもらえたけれど、ほんとうは飲みもの抜きでそのくらいが最低注文額なのだ。
でも、一生に一回でも行っておいてよかった、と思う店だと感じた。
次回は滞在中の他の食事をひたすらに節約し、なにがなんでもメイン的な料理を食べてみよう、と思う。
新栄記 https://maps.app.goo.gl/P2yiZ85cvGUB6oFL8
1964年、東京生まれ。日本大学藝術学部文芸学科卒業。87年『キッチン』で海燕新人文学賞を受賞し小説家デビュー。88年『ムーンライト・シャドウ』で泉鏡花文学賞、89年『キッチン』『うたかた/サンクチュアリ』で芸術選奨文部大臣新人賞、同年『TUGUMI』で山本周五郎賞、95年『アムリタ』で紫式部文学賞、2000年『不倫と南米』でドゥマゴ文学賞、2022年8月『ミトンとふびん』で第58回谷崎潤一郎賞を受賞。著作は30か国以上で翻訳出版されており、海外での受賞も多数。近著に『下町サイキック』がある。