シティライツ・レストラン

003 「寒い京都の冬を熱する、牛すじカレーうどん」


Yuya UenumaYuya Uenuma  / Jan 26, 2024

松の内を過ぎてしまいましたが、明けましておめでとうございます。正月を東京で過ごし仕事始めと共に京都へ帰ってくると、改めて京都の冬は盆地らしく冷え切った空気が漂っていることを実感します。

そんな容赦のない冷たい風を浴びていたら、ある食堂のあっつあつなカレーうどんがふと頭をよぎります。それは元田中にある[天狗食堂]のカレーうどんです。ここのカレーうどんは所謂カレールーにうどんが入ったタイプではなく、関西特有の甘みが効いた出汁とカレーが共鳴し合い、そのスープはとろみが強いので熱を下に閉じ込めているのです。ルーと呼ぶと語弊があって、スープと形容すべきか、餡と形容すべきか、迷うほどのとろみがあります。

私事ですが年末にインフルエンザに罹ったことをきっかけに胃袋が縮み、この胃袋のサイズをキープしようと最近は腹八分目を意識しているので、今日は牛すじカレーうどん(キーソバ変更)のみ。いつもであればいなりか白米も一緒に頼んで、白米の場合はカレーうどんの残ったスープにご飯を混ぜ、締めのカレーライスなんてやっちゃうのですが、今日は我慢。あと、キーソバとは「黄そば」のことで、細い中華麺です。個人的にはうどん麵よりキーソバの方が出汁の旨味とうまく絡み合うような気がしていて好きです。

カレーうどん(厳密にはカレーキーソバですが)が運ばれてくる前に、僕はカーディガンを脱ぎ半袖になって、食べる支度をしておきます。

店内にあるテレビを見ながら数分ほど待っていると、ぼてっとした大きなお椀に入ったすじカレーうどんが運ばれてきました。湯気で曇ってしまう眼鏡を外し、いざ尋常に。

ずっしりとした重さすら感じる餡を持ちあげ、下に潜っている熱々の麺を引き上げます。

 

ここから熱さと空腹のせめぎ合い。熱すぎるのでもう少しだけ冷まして食べるべきだと語る理性と、この一杯のためにランニングをした上で朝食を抜いてきた僕を襲う空腹という本能が、目の前のカレーうどんに引けを取らないくらいの熱いバトルを繰り広げています。結局いつも空腹が圧勝して、食べ終わると口内に火傷ができているのです。そんな小さな代償と引き換えに、等価交換には程遠いほどの満足感を手にできるのが[天狗食堂]です。 

ここで[天狗食堂]に存在する暗黙のルールをいくつか紹介します。お店は近所に住んでいるであろう常連さんばかりなので、初めて行かれる方は是非チェックしてから行ってみてください。 

・店内が混んでいるときは相席を厭わず、積極的に入店すべし。
・相席のスペースもなく店外で並んで待つ場合は、お店の人からの声かけを待たずに席が空いたら直ぐに自らの判断で入店すべし。お皿が下げられるのを待たず、空いたら直ぐに座って大丈夫です。
・飲み物はセルフなので、冷たいお茶か温かいお茶を好みで取りにいくべし。
・注文は入店の順番の通りに聞きに来てもらえるので、待つべし。
・一味や七味が必要な場合、一味はお店の人に声をかけ、七味はレジ横に置いてある個包装の七味を持ってくるべし。
・食べ終わった食器は下げやすいようにまとめておくべし。

これらのルールは誰かが口に出している訳でも店内に明記されている訳でもないのですが、常連の皆さんの体には沁みついている所作ですので、是非覚えて行ってください。

今日も多くの常連さんで賑わい、思い思いのメニューをオーダーしていました。奥にある座敷には小さなお子さんを連れた家族、その隣では常連と見られる方々が相席をしていて、後ろではたまたまお店で鉢合わせたご近所さんらしき人たちが新年のあいさつを。観光客っぽい人はあまりおらず、京都でよく見かける外国の方は見たことがありません。

「食堂」とは英語に置き換えて考えるとDining roomCafeteriaに相当すると思うのですが、このような日常の延長線上にある食堂は日本特有の文化で、「Syokudo」と形容するしかないかもしれません。[天狗食堂]はまさにこのエリアの生活者に根ざしたショクドウなのです。

今日相席をした目の前のご夫婦は、二人とも豚カレーうどんのキーソバ変更を注文。僕はいつもすじカレーか鍋焼きうどんの二択なので、次は豚カレーに挑戦してみようかな。

(Edit by Shunpei Narita)
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